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どうやら俺は『異世界転生』の脇役らしい。  作者: 十和田屋 芳治郎
『異世界転生』と『出会い』
4/17

『悪魔』と『魔族』


 ―私は、走っていた。見慣れない石畳の道、建物に遮られた空―

 街は広く、でも。限りなく狭く見える世界。私は胸の内で嘆く「どうして」と。

 『闇の精霊』。世界を形作り今尚支えるという七大精霊の一翼。その加護を身に宿した『魔族』は身体の何処かに『角』を持つ……だから、そのせいで。『風で外套がはだけてしまった』たったそれだけの事で、私は追われていた。

 精霊教会は謂う『闇の精霊の加護を持つ魔族は、やがて『悪魔』となり災いを招く』。

 そんなのは嘘だ、私は今までそんなこと。ただの一度だって望むどころか、思った事すらない。ただ私は村の外を見たかった。閉じた世界の外側へ出てみたかった。たった、それだけなのに、それだけなのに。

「誰か……誰でもいいから、助けてッ……!」

しかしその叫びはただ薄暗い路地に反響するばかりで。人々は門戸を閉ざし、私に手を差し伸べてくれる者は一人として居なかった。




 そうして、とうとう私は袋小路に追い込まれる。『異端審問官』。精霊教会直属の兵士、私のような『異端者』を取り締まり、処罰する教会の刃。

「やはり、『悪』魔族だ。捉え……ッ?」

 手を差し伸べる者は、居ない筈だった。

「なあ、大人が寄ってたかって。何やってんだ?」

そう言って、いつの間にか私と異端審問官の間に立っていた『青年』は。彼が突き付けた槍を握り、へし折ると。

―己が業を写し出せ、其は貴殿に巡り戻るだろう―

そのような詠唱と共に、掌から生み出した突風で男の一人を吹き飛ばした。

 それを見て、別の審問官が今度は青年に向かって槍を向け、叫ぶ。

「な、何奴だッ!これは『教会』に対する明らかな」

「黙れよ」

彼は其の男を触れもせず持ち上げ、路地の壁に強く打ち付けた。

「お、お前等……こんな事してタダで済むと」

「思ってねぇよ。ったく、少し寝てろ」

 最後に残った男は、別な壮年の男性による回し蹴りによって昏倒した。




 「こりゃ参ったな……ユート、この連中。『精霊教会』の『異端審問官』だ。このままじゃ俺達札付きになっちまうぜ」

壮年の男はそのように言いながら私に近寄り……彼が纏っていた外套を私に被せた。

「安心しな、別に何もしたりしねぇ。追われてたってこた『角持ち』の『魔族』だな?ちょいと失礼……成程うなじか。『角』ってか『タテガミ』か『背ビレ』だな。俺の外套なら隠せる、土っぽいけど我慢してくれ」

 そうして彼は立ち上がり、『ユート』と呼んでいた青年に声を掛けた。

「なあ、コイツ等どうするよ。割と重めに蹴り込んだから、暫くは起きねぇと思うがコトだぞ。ユートの魔法で何とかならないか」

「えぇ、随分曖昧なこと言うな。……じゃあ、今あった出来事を『なかったことにする』っていうのはどうかな」

青年はそういうと、瞼を下ろして再び魔法の詠唱を始めた。

―夢喰らう蜘蛛よ、眠りに揺蕩う霞よ。現と夢の狭間にて、その記憶を天に還せ―

……。

「今、何をしたんだ?」

 私にも、何が起こったのかはよく分からなかった。

「対象を限定した『水の加護』による魔法、生まれては消える波紋の様に。彼等にとってここ数時間に起きた事は『無かったことになる』」

「そいつはおっかねぇ」

「まあ……かなりの上級魔法らしいから危ないのには違いないな。ところでアッシュ、この子はなんで追われていたんだ?」

 私は俯き、黙り込む。―それは。

「下らない理由さ、少なくとも俺等『冒険者』にとってはな。説明は後だ、先ずはあの『辛気臭い』宿へ行こう」




 その後、『アッシュ』と呼ばれた壮年の男は、上手く人混みを避けながら目的地と思しき建物へ辿り着いた。

「なあ、こんな所で大丈夫なのか?」

「いや、『こんな所』だからいいのさ。下手に礼状持って宿帳開かせりゃ札付きだらけ、そっちを優先して捕らえる羽目になるか……礼状持った審問官が逆に殺されるだろうな」

その言葉に、私は固まり。青年はあからさまに顔をしかめて見せた。

 しかし、その後彼等は素性も知れぬ私に、とても優しくしてくれた。壮年の男は部屋を取って私達をそこへ連れ立ち、『飲み物でも持ってくる』と言って一度部屋を出て行った。その間、青年は私が不安にならないよう傍に座り。『大丈夫』と優しく囁いてくれた。

 そうして男は恐らく山羊の乳を温めたモノであろう飲み物を持ってくると、腰に下げていた剣を『敵意はない』と言わんばかりに部屋に投げ捨て。適当な壁にもたれかかった。

 青年、ユートは改めて訊ねた。

「……で、アッシュ。この子は何故追われていたんだ?」

それに対し。男、アッシュは頭を掻いて口を開く。

「それは―」

「それは、私が『悪魔族』だから……」

私は彼の言葉を遮り、自分から打ち明けた。

「『悪魔族』は、『魔族』が『闇の精霊』からの加護を授かり生まれた者。元々内包魔力の多い『魔族』はその加護に身体も、『精神』も強く影響されてしまう。それで、成長しやがて心の闇が深くなると。それが『角』として肉体に現れ……悪へと堕落してしまう」

 私の声は、震えていた。長い間、母からも、精霊教会からも教えられていた『悪魔族』の宿命だ。

「……『と、言われている』が足りてないな。あーっと……名を聞いていなかったな。俺はアッシュ、そんでコイツがユート。嬢ちゃんの名前は?」

「えっと、『レネイ』……」

「そうか。ユート、レネイ……その話な、嘘だ。『魔族』が『闇の精霊』の加護を授かったところで『悪魔』になんてならない」

 え……?

「俺はもうだいたい二十年は冒険者をやってるが。『角持ち』の魔族とは結構関わってきた。確かに『闇の加護』を持って生まれた魔族は『角』という『魔力内包器官』を得る。ただそれは成長するにつれて自然に出来るモンだ。……一般的に『悪魔』って呼ばれてんのはな、その膨大な魔力に酔ってバカやらかした犯罪者の事さ」

「え、アッシュ。それってつまり」

「応、『悪魔』になるのに種族も加護も関係ない。そりゃ『魔族』は強い、『角』なんてイイもんができりゃもっと強い。だがその『強い』ってのをどう使うかは本人次第だ。だから俺は『精霊教会』が嫌いなんだ、全く教育に悪い」

 私は、いつの間にか涙を流していた。母は、私を疎んでいた。父が『闇の加護』によって堕落し、私にもその兆候が現れたから。しかし、それが嫌で村の外に出て見れば……街の人には怖れられ、『正しい事』をする筈の聖職者に『異端者』と追われた。誰も、今まで一度も私を『私』として見てくれなかった。だから、青年のあたたかな手が。大人の『本当の言葉』が、嬉しくて、あまりにも優しくて。涙が止まらなかった。

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