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どうやら俺は『異世界転生』の脇役らしい。  作者: 十和田屋 芳治郎
剣と魔法と冒険者
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お風呂のろの字は暖炉のろ

 冒険者としての短期訓練を終えた次の日。アッシュが『風呂に入るぞ』と宣言してきた。

「風呂が、あるのか?」

僕はその言葉に面食らった。じゃあ今まで桶に溜めた水で身体を洗っていたのは……?

「まあ、有料で値が張るからな。ただ、ひと月も水浴び程度しかしてないようじゃ流石に臭ってくる、長期護衛の仕事を請けりゃさらに酷くなるし。依頼の前に一度身体を清めておこうじゃないか」

 そのように、僕とレネイはイリアの『公衆浴場』に案内されたのだが。

「そういえば、レネイの『角』とかって大丈夫か?」

「うん?まあ下着は着けて入るし、襟巻くらいなら問題ないだろ。それに爺さん婆さんはよく巻いてる、その方が温まりやすいってな」

「……婆さん、お婆さん」

アッシュはしまった、と言った顔をして慌ててフォローした。

「ああ、ほら。身体が強くない奴が巻いてたりもするし、誰も気にしねぇよ」

 どうやら公衆浴場は所謂『蒸し風呂』というモノで、上着だけ脱いで中に入るようだ。男女で入り口が分かれている辺り、『イリア』の文化水準は割合高いと見える。

 中に入れば薬草を煮込んで出来た灰汁や塩の洗い粉が用意されており、そこから『必要な分だけ』桶に取って汚れを落とすのが暗黙の了解らしい。

「これを冷水で流すとまた気持ちが良いんだよなあ……心まで洗われる気分になる」

そのように言いながら、アッシュは体中の汚れを落としていた。

 所謂『整う』という奴だろうか……。ともあれ、この世界にもお風呂があるというのは僥倖であった。

「あー……『イリア』って、良い場所だなあ」

そのように、ぼそりと呟いた僕だったが。広く取られた浴場という事もあり大分反響していたようで、同じく風呂を楽しんでいた人々に『いや全く』『若返った気になるよなあ』『俺はこれを楽しみに『イリア』迄モノ売りに来てんだ……』などと無駄に同意を得てしまった。

 そうして二人して身体を良く温め、良く汗を流してから外に出ると。レネイは先に出ていたようで……公共の待合用椅子に倒れ込んでいた。

「……もしかして、湯あたりした?」

「……した」

 ……襟巻のせいだろうなあ。

 そうして暫くの間、レネイは僕の膝を枕に軽い風魔法の冷風を受け。アッシュは飲み水を貰いに駆けて行った。




 「しかし、二人ともスッキリしたろ。ついでにあまり水で改めて洗濯も出来た事だし、万全だな」

僕は全自動乾燥機。そう、乾燥機。

「そこは割と集団で来る奴の通例だ。どんな『加護持ち』でも大抵手段はあるからな、必ず誰かしらが乾かす羽目に遭ってる」

……不条理を感じる。

「ま、今回は俺とレネイという事で、濡れた布を乾かせるのがユートしかいなかった訳だ。仕方ない」

僕達は、イリアを抜ける風を感じながら。食酒亭へ向かって歩き出していた。




 食酒亭にて、改めてアッシュは『依頼の請け方』についての説明を始めた。

今度はレネイに襟巻がある為、態々部屋には戻らず広間の食堂にて軽食を摂りながらの説明だ。

 「いいか、冒険者用の『依頼書』ってのは。先ず『食酒亭』が依頼主から報酬金を受け取り、そこから仲介料を差し引いた額を依頼内容と共に記載し、判を押すことで『発行』となる。つまり、俺達が依頼を請ける為には直接街の親仁だか女将だかに訊ねて。宿帳と照合した後に、こっちの『要望』か、『経歴』か。そのどちらかに見合う依頼書が提示され、その中から仕事を選ぶ訳だな。そうして、仕事を終えると依頼主から『判』を貰えて、漸く『完了証書』として報酬金を受け取ることが出来るって訳だ」

 そのような説明を聞いて、僕は訊ねる。

「その『宿帳』っていうのは各都市で共有されていたりするのか?」

「いや、されない。姉妹都市だったり太い交易関係があれば或いはってとこだが、基本食酒亭は個人経営だ。そして宿帳ってのはいざという時の『情報資産』として働く、情報は独占していることに意味がある。だからこそ宿の親仁は『客の情報』を開示、共有しない」

 ただ、余程名が売れているとか、国家単位で指名手配されているなら別になる。とアッシュは言っていた。

「と、いう訳で。これから二人を含めて請けられそうな依頼を訊いてくるから、そこで眺めてな」

そう言ってアッシュは立ち上がり、親仁が立って酒を出しているカウンターへ向かった。

 アッシュがカウンターの端を二度ほど叩くと、彼の元へ親仁が歩いてくる。……何を話しているか聞こえづらいな。というか周りが煩い、怒号、罵声、笑い声に時折爆発音……無法地帯だ。

「ねえ、レネイ……ここ、どう思う?」

「うるさい、かなり」

「だよなあ……ご飯も美味しくないし。危ない」

「でも、ユートが守ってくれるんでしょ?」

「うん?勿論。僕にとってレネイは大切な人だ」

 そのような話をしていると。どかり、と戻ってきたアッシュが椅子に座り込んだ。

「お前等隙あれば乳繰り合ってんな。ホラ、良い感じの仕事があったぞ」

 乳繰り合う、はちょっと違うんじゃないかな……それと。

「ごめん、まだ数字しか読めない。どんな依頼か説明してくれ」

有難いことにこちらの世界も人の指は両手で十本、つまり十進法だったおかげで数字だけは直ぐに覚えられた。

「そういやそうだったな。これは一角鹿の狩猟依頼。依頼主はここから少し北に行った村。金額からして村全体で出し合ったんだろ、それだけ切羽詰まってるってことだ」

 つまり畑荒らしか。

「それもあるんだが、一角鹿ってのは厄介でな。特に雄は気性が荒く、家畜までその角でぶすり、と殺っちまうんだ。……農民がアレの突進をまともに受けて死んだ、なんてのは割とよく聞く話だな。つまり、これは村全体の危機という事になる」

「それは恐いな……大丈夫か?」

「あん?余裕に決まってんだろ。連中は滅法速いが直進でしか刺しに来ないし、気性とその角以外は只の鹿さ。大したこたない」

そうしてアッシュは依頼書を懐にしまうと、ついでとばかりに言った。

「因みに雄の角は滋養薬の原料として高く売れる、ちゃっかりガッツリ首から落として追加報酬と行こうじゃないか」

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