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どうやら俺は『異世界転生』の脇役らしい。  作者: 十和田屋 芳治郎
『異世界転生』と『出会い』
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プロローグ 『兎脚のアッシュ』

 

 ―一般的価値観から見て、『冒険者』という職業が市井から良い目で見られることは少ない―

 『兎脚(ときゃく)のアッシュ』そう綽名される男もその一人であり、華々しい経歴も無ければ、特筆して優れた能力がある訳でもない。隊商や個人の護衛が精々、多少剣が振るえるという程度で。それ故に『運び屋』―兎脚―と呼ばれている。

 無論、一部の『優れた能力を持つ』冒険者もいる。そう言った人物はその身一つで諸国を巡り、行く先々で己が求める『冒険』をしながら生計を立て、『自由に生きている』。

 しかし、そのような「成功者」が居るからこそ。より市井の目は厳しくなる。

『イエを捨ててまで『冒険者』になった者が、何故『冒険』をせずにただ小銭を稼ぎ管を巻いているのか』

そのような『半端もの』達は、胸の内に『冒険心』を宿しながらも。己の力量の無さに、燻っていた。




 『兎脚のアッシュ』その男に転機が訪れたのは、いつも通り隊商の護衛任務のさ中、目的地『イリア』迄あと二日、という時のことであった。

 昼時になり、一度馬を休めるため隊商達が休息を取っている際。アッシュは水を汲みに清流へ向かって歩いていた。

 ―そして、『彼』に出会った―

 その者は黒髪で年の頃は十代半ばと言った『並人族(ふじんぞく)』の男であり。森の中には余りにもそぐわない、奇妙な民族衣装を纏い、丸腰で呆然とそこに立っていた。

 それをアッシュが怪訝に伺っていると。『彼』もまたアッシュに気が付いたようで、何の警戒心もなくのこのこと歩いてきては、このように口を開いた。

「……オッサン、誰?あと此処何処?」

「それは俺の台詞だ」

 これが、後に『英雄』として世界中に名を轟かせる男『ユート』との出会いであり。『アッシュ』にとって『冒険』の始まりとなる出来事であった。




 その後、多少の悶着はあったものの、『ユート・キサラギ』と名乗る少年は、『イリア』に着くまでの間アッシュが保護する形となり。休憩を終えた隊商に連れ立ち、その荷馬車の隅でアッシュと向き合い、座っていた。

「あーっと、確か『キサラギ』が家名で、『ユート』が名だったよな」

アッシュは確認するように『ユート』へ訊ねる。

 彼は余程の辺境か、植生の異なる場所から訪れたようで。しきりに辺りを見渡しては目を輝かせていた。

「ああ、僕の故郷だと皆姓を持ってるのが当然だけど、それに大した意味はない。『ユート』って呼んでくれ」

そのように答える彼は、会話中だというのに。今だに何もない森林を興味深げに眺めていた。

 アッシュは、それは随分と不思議な場所だ。等と思いつつ再び彼に訊ねる。

「あー、ユート。率直に聞く。何でそんな軽装で、まともな武具も持たず。あんな場所に居た?」

それに対し、ユートはがたごとと揺れる馬車の内で、暫し硬直してから。答えた。

「ううん、何というか。かいつまんで話すと、あの場所に『飛ばされてきた』、かな?」

「『飛ばされてきた』?流刑か何かにでも処されたのか」

「まさか!僕がそんな大罪人に見える?」

 アッシュはユートの様子を見てから、言った。

「全く見えない、偶に護衛するお貴族様の子供を思い起こさせる程の無知無害さだ」

「……それって、褒めてるのか?」

「どちらでもないな。『風体こそ変だが雰囲気は普通』、何とも言えねえ」

「まあ、罪人だと思われなければなんでもいいや」

「それで、話を戻すが。『飛ばされてきた』ってなんだ」

 ユートは漸くアッシュの方を向くと、あまり機嫌が良いとは思えない表情をして言った。

「なあ、これって詰問か何かか?どうしても答えないといけないのか?」

「流石に身元不明の人物を『はいそうですか』と無条件で連れ立つのは難しいだろ。どうしてもというなら仕方ないが、せめて出自や『何者か』くらいは話してくれ」

アッシュの言葉に対し、ユートは「一理ある」といった様子で。自らの事を話し始めた。

「あー、僕はここよりずっと遠くの。多分アッシュが名前も知らないような国に住んでいた……所謂平民の子で、『飛ばされてきた』のもほぼ偶然。だからこの国どころか地域の事も、何も知らない。特技は、魔法になるのかな」

 ユートの言葉から、アッシュはほぼ情報が得られないという事が分かった。しかし、『魔法』が特技というのならきっと同じ宗教圏であるのだろうと、アッシュは「常識的な」質問をした。

「そうか、ならにユートはどの『精霊の加護』を持っているんだ?」

「『精霊王』」

「ふざけんな」

「いや、本当なんだって。何なら実演して見せようか?」

 『精霊王』……世界の創造主たる『七天の精霊』を統べるという最も偉大なる精霊であり、その『加護』を持つ者は世界でも教皇猊下ただ一人と言われている。

「ほう、なら是非とも見せて貰おうじゃないか。『精霊王』というからには「何でも」出来るんだろ?」

その様な言葉に対しユートは特に気にするでもなく、軽い詠唱をして掌にあるものを生み出した。

「はい、賢者の石。或いは第七魔法の具現」

アッシュは、自らの、その耳を疑った。

「なんだって?」

「二度も言わせるなよ。『賢者の石』、魔法使いが求めてやまない奇跡なんだろ?」

 アッシュは、目の前で起こったことが良く理解できなかった。

「そ、そんなの見ただけじゃわからねえよ。他にも証明して見せろ」

「それって、『悪魔の証明』じゃないか……?まあいいや、じゃあ次は『神器召喚』」

そのように、ユートは荷馬車の床から一振りの剣を召喚して見せた。

 これは、見ただけで分かる。本物の『神器』かは分からないが、無詠唱で『精霊魔法』それも物質の召喚を行うなど不可能である筈だ。それに、剣からあふれ出る魔力が並ではない……。アッシュは、困惑の後に嘆息してから口を開いた。

「……分かった、納得はいかんが認めよう。本当に『精霊王』の加護を持ってるってな」

それに対しユートは、話が早くて助かる。とにっこり微笑んで見せた。

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