陥れられる
「おーい、ほらそこ席に着けよー」
チャイムが鳴ると同時にドアが開き、髪は目にかかるほど長く、ボサボサ頭の男性が入ってきた。
生徒らが全員席に着くのを確認するとその男は自己紹介を始めた。
「えー、コホン、今日からこのクラスを担当することになったレオルエだ。レオルエ先生と呼ぶよーに。何か質問はあるかー?」
レオルエと名乗る男は簡潔に説明し終えると、生徒らに尋ねた。
「レオルエ先生のその格好はなんですか?」
ずっと気になっていたのだろう、生徒のひとりが早速尋ねた。
「良い質問だ。これは寝間着だ、危うく初日にして遅刻するところだったからな。着替える時間が無かったんだ」
反省する様子もなくワッハッハと笑った。
「寝ぼすけ先生、なんで遅れそうになったんですか?」
すると別の生徒が再び尋ねた。
「レオルエ先生だ。いやー、久しぶりに朝方まで飲んでてなー、おねぇちゃんが帰してくれなかったんだよ」
今度は照れたようにエヘヘと笑った。
「手遅れ先生、先生のスキルってなんですか?」
「レオルエ先生だぞー。あまりスキルについて聞くのはマナーが良いとは言えないぞー。沈黙は金だからな、それには答えないでおこう」
また別の生徒が尋ねると、今度は真面目な顔をして答えなかった。
「他に質問はないかー?」
真面目な顔のまま次の質問へ促した。
「レオルエ先s・・」
ラークが手を挙げながら尋ねようとした。
「よし!ないなー。じゃあ講堂に向かうぞー。少し遅れてしまったが、朝礼があるからな」
真面目な顔のまま、ラークを無視した。
「!!・・それは教師としてどうなのか」
ラークの反抗むなしくも、次々とクラスメイトは講堂に向かいだした。
「おい、もしかして、真面目な顔をしたのも質問に飽きたからじゃないだろうな」
ジグルドは考えついたことを呟いた。
「さすがFクラス。教師もFクラスか・・」
その自由奔放さに納得をしてしまったラークであった。
講堂に来ると、既にラークたちのクラス以外は整列していた。
「そこのクラス、早く並びなさい」
別のキリッとした教師に急かされるままに並び終えると、朝礼が始まった。
壇上に理事長があがり話し始めた。
「・・・・えー、では次に2年生。今年からいよいよドラゴンに触れることになります。その命の責任をもって行動するように・・・・・」
(やっぱり、朝礼は何回しても退屈だなぁ)
ラークは暇つぶしに、他のクラスの生徒を観察していた。
(すごい!EクラスからAクラスまで姿勢の悪さがグラデーションになってる・・・あ、コーデリアさんはやっぱり飼育科Aクラスかぁ、1年のときから成績良かったもんなー。・・・カティも騎竜科Aクラスか、成績はそこそこだけど、スキルが優秀だからねー)
ラークが顔見知りの行方を追っていると、ふと耳に残る単語が聞こえた。
「・・・次に、要特別待遇者の選定に移ります。例年通り、その学年の3分の1以上の投票数の中で、最も得票率の高い者を要特別待遇者とします。なお、結果については、今日の昼休みにてお伝えします・・・」
例年通りと言っているが、確かに毎年投票は行われているが、ここ15年ほどは選定されていないのが現状であった。
「いよいよ始まるのか、でも思ったよりハードルは高そうだね」
投票のための列に並びながら、ジグルドに話しかけた。
「そうだな。ま、念のためにお祈りでもするかな」
「そんなことしても、過去の行いは変わらないよ」
ジグルドが口元に手を持っていき、合わせるのを見たラークは、やれやれと呆れながらその行為を笑った。
「よく分かってるじゃねぇか。過去の行いは変わらない。そして未来は掴み取るものだ」
ジグルドがニヤリと笑うと、合わせていた手を開き、大きな声で叫びだした。
「去年!学園内をパンツ一丁で走り回り、ドラゴンの厩舎に忍び込んでは大騒ぎにさせ、毎回のテストは赤点で、反省文を書いた枚数は数知れず、女子の尻を追いかけてばかりの、2年、飼育科Eクラス、ラークに俺は投票する!!!!」
大きな声で、ラークのこれまでの行動を赤裸々に叫んだ。
一瞬の静寂の後、ヒソヒソと他の生徒達が話し出した。
「ジグルド、きさまやりやがったな!!!」
ラークはジグルドの胸ぐらを掴み前後に揺さぶった。
「言っただろ?過去の行いは変わらない。そして未来は掴み取るものだってな」
ジグルドは、揺さぶられながらも決め顔で言い放った。
「それは自分を戒めるための言葉であって、他人を蹴落とすための言葉じゃないでしょうが!!」
ラークは怒りながら、揺さぶる力を強めた。
「敗者の戯言だな」
それに対して、ジグルドは澄ました顔で流した。
「貴様の血は何色だあ!!」
ラークが飛びかかった瞬間、ジグルドはまたもニヤリと笑った。
「キャー、ヤメテー、ラークにボウリョクをフルワレルー」
棒読みであっても、その効果は絶大だった。
またも一瞬の静寂の後、ヒソヒソと他の生徒達が話し出した。
「もうお終いだあぁぁ!」
ラークは頭を抱え、講堂中に響き渡る声で叫んだ。
「南無阿弥陀仏」
「ジグルドも鬼だねぇ」
その様子をザイードとクレディは、巻き込まれないようにと遠巻きに見ていた。
「俺も見たことあるぞ!」
「あのときは大変だったんだぞ」
「私も被害を受けたわ、あいつの所為だったのね!」
「ふん!自業自得よ!」
「う~ん、ちょっとやり過ぎるときもあったけどねぇ」
「ラークくん・・」
ラークを批難する会話が多い中、心配する小さな声が当の本人に届くことはなかった。
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