許せないこと
「みんなー!もうこのまま解散して教室戻って良いって!」
ラークは他のクラスメイトに聞こえるように、頼まれごとを遂行し、その授業は終わった。
「それじゃあ、戻ろうか」
「そうだね」
「何してたんだ?」
ジグルドはラークに騎竜科での雑用について尋ねた。
「普通に皆と同じように、身体を洗ってただけだよ、騎竜科の」
「ドラゴンはどんな感じ?」
「どんな感じかー、皆キリッとしてかっこよかったね。あ、でも、やっぱり騎竜科の人の中には、戦うことだけで、ドラゴンの怪我に気づけてなかったよ」
ザイードの問いにラークは表情を変えながら答えた。
「何か事情があって、焦っているのかも知れないけど、飼育科の人間として、喜ばしくは無いね・・」
「でも、格好良かったのは本当だよ?あ!あとね、だいたい3種類に分けられてね・・・」
一瞬暗い雰囲気になったが、それでも自分の知らないドラゴンの話は飼育科の人間にとって、興味深い話だったらしく、思わず夢中になっていた。
「おっと、ごめん!」
話しに夢中で、ラークは前方にいた人とぶつかってしまった。
「フンッ・・・・お前はたしか要特別待遇者の・・」
ぶつかった相手は、あの騒ぎを起こしていたトーレン=イーグスであった。
「あ、トーレン?だっけ。僕はラーク」
「気安く呼ぶな、あのEクラスの底辺が・・」
「おい!Eクラスにだって凄い人はいるんだぞ!それを底辺呼ばわりだなんて・・」
「お前のことを底辺と言ったのだがな・・まぁ、それほど変わらないか」
馬鹿にされるなら自分以外もと都合良く、頭の中で解釈しているラークに呆れながらも、ふむと1回頷いた。
「おいてめぇ、ラークを馬鹿にするのは構わねぇがな、俺たちを馬鹿にするのは許さねぇぞ」
「ねぇ、ジグルドの言う俺たちに僕は含まれていないのかい?」
ジグルドは自分が馬鹿にされたことにカッとなり、身を乗り出した。そんなジグルドをラーク自身が身を呈して抑えるという滑稽な状況がうまれていた。
「はぁ、相手にするのも疲れるね・・ちょうど良い、お前は俺の厩舎とドラゴンの身体でも洗っておいてくれ」
「ええ?何でだよ、自分でやればいいじゃないか!」
トーレンの理不尽な頼みに少し苛つきながらも、できるだけ丁寧を努めて反論した。
「君がぶつかってきたことが発端だろう?俺はその誠意を見せて欲しいと頼んでいるんだよ」
「誠意が厩舎の掃除?自分でやらなくちゃいけないことを押しつけてるだけだろ?頭大丈夫?」
フッと鼻で笑いながら髪を掻き上げるトーレンを、ラークは可哀想な子を見る目で心配した。
「君に心配されるとは侮辱も甚だしいぞ・・・いいだろう、竜舞で決着をつけるか?」
トーレンには自信があった。自分の家のこともあり、貴族という盾によって、実際に竜舞をしようとする相手が少ないこと。そして、自分に自信がある彼は、下のクラスにしか喧嘩をふっかけず、下のクラスであれば実際に戦っても勝てるという自信が。
「よっしゃ!やってやろうじゃないの!」
「本当にいいのか?」
トーレンは驚いたように聞き返した。
「良いに決まってる!」
「ドラゴンいないのに?」
今度こそ伝わるように聞き返した。
「あ・・・・」
ラークは忘れていたとばかりに、ハッとすると、後ろを振り返ると、ジグルド、クレディ、ザイードは目を細めて、呆れていた。
「ちょっと待って・・・みんな!話し合おう!協力しよう!」
「面倒ごとはごめんだぜ!」
「僕はハーティに傷ついて欲しくないし」
「あー忙し忙し」
ラークが3人に声をかけようとすると、背中から浴びるラークの声を無視して歩き始めた。
「薄情者おおおお」
おいていかれたラークは手を伸ばしながら叫ぶも、全くとりあってもらえなかった。
「で、どうする?俺としてはもう、どうでも良くなったんだが」
「いいや、やるさ!男に二言は無い。それにここらで僕の実力を一度出しておいた方がいいかもね」
飽きたように尋ねるトーレンに対し、ラークのやる気は凄まじかった。
「い、良いだろう、ならば1週間の猶予をやる。1週間後の放課後に竜舞場で・・・・あ、もし、ドラゴンを用意できなかったら、俺の勝ちで良いよな?」
「舐めるなよ!それで構わないさ」
若干その勢いに引きながらも、トーレンとラークは竜舞をする事になった。目下にして最大の壁である、ドラゴンを連れてくるという目標を持ちながら。
「じゃあ期待して待ってるよ」
トーレンは、ヘラヘラと笑いながら、去って行った。
そして、その日の放課後、いつものように4人は教室の隅にあつまり、駄弁っていた。
「おいおい、良かったのか?」
「キュースケで戦うつもりでも無いでしょ?」
「どうしてそこまで」
「僕だって、ノリと勢いで言っちゃったことは分かってるよ。でも、やっぱり許せなかったんだ」
ラークはプンスカとわざとらしく腕を組んで大げさに怒って見せた。
――良い子ぶってんじゃねぇぞ。コネでAクラスになったハーネストさん。
先日のトーレンとコーデリアの口論を思い出した事は秘密にして。
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