竜舞
「ねえ、さっきトーレン?って人が言ってた『竜舞』って何?」
「本当に何も知らないのな」
その日の放課後、ラークは帰りの準備をしているジグルドに気になっていたことを尋ねた。
「いわゆる決闘だな。騎竜科だとドラゴンにのって人間が、飼育科だとドラゴンが戦う。そして、戦闘不能もしくは降参したら決着だ」
「物騒だね」
名前からは想像つかない単語が出てきたことにラークは驚いた。
「まあ、竜騎士とそのドラゴンを育てる学校だからね」
「基本的には、何かもめごとが起こったときの最終手段ってとこだな」
クレディとザイードも帰る支度を終えたのか近づいてきた。
「負けたらどうなるの?」
「竜舞の前にそれぞれが賭けるもの、または約束事を決めておくんだ。と言ってもあまりに人道的にひどい内容はダメだけどな」
「じゃあ、僕らは大丈夫だね」
「なんでだ?」
ジグルドは支度を終え、身体ごとラークを向き、疑問を呈した。
「だって、僕らと関わろうとする人自体少ないし、僕らに勝っても何も得られないじゃん?」
「まぁ、そうなんだけどね・・」
「あえて、今言うか・・・」
「フラグ」
3人はそれぞれ手で額を覆い、はぁとため息をついた。
「アハハハ、大丈夫だよ。心配性だなぁ」
「悪い予感しかしねぇ」
無邪気に笑うラークをジグルドはじーっと疑いの目で見ていた。
ある日の育竜の授業で、ラーク達2-Eは、またもや厩舎に来ていた。
「キュースケ、はい、あーん」
パクッ・・モグモグ・・
「美味しい?」
パクッ・・モグモグ・・
「ラークはずっとあの調子だね」
「扱いやすくて良いよ」
「まあ、今はやることないもんね」
今日はドラゴンたちの身体の洗浄を行っていた。しかし、ラークの相手はキュースケなので、すぐに終わり、暇を持て余していた。
「僕のハーティは有毛種だからお手入れに時間がかかっちゃうし」
「有毛種はきれい好きだからな」
「俺のガラランダも時間かかるな」
「有鱗種のお手入れは結構力がいる割に、逆鱗の位置の把握が大変」
「アルゴも意外と」
「裸皮種は逆に丁寧さが大切だからね」
「そして、キュースケは小さいから楽だな」
「そして、ラークは早く終わりすぎて暇」
3人はそんなラークに目もくれずに、おのおの自分の仕事をこなしつつおしゃべりも楽しんでいた。
「おーい、ラーク暇か?」
すると、一通り指示を出し終えたレオルエがラークに声をかけた。
「いや、全然暇じゃないです。忙しいです」
「そうか、なら騎竜科のドラゴンの方いくぞ」
レオルエは「よかったよかった」とラークについてくるようにと手で指示をした。
「何がそうかなんですか!?僕に拒否権は!!」
「ない」
ラークは嘆きながらもキュースケを肩に乗せ、プンスカと抗議するも一蹴された。
「ああ、憎らしい・・この制度も、要特別待遇者に陥れたジグルドも・・」
「自分の責任には絶対しないんだな」
ジグルドが哀れむような目でラークを見ながら呟いた。
「お前らはもうしばらくやっといてくれ、よし、ついてこい」
レオルエの言われるがままにラークは後をついて行き、少し離れた厩舎に向かった。
「なんで、毎回こういう扱いを受けるんだ・・・」
「良いじゃねえか。特別を楽しめよ」
「特別ねぇ」
レオルエは肩を落とすラークを見て、ニヤリと口角を小さく上げた。
「それに、これだけ多くのドラゴンに触れる機会なんて、俺らぐらいだぞ?つまり、俺らにしか知り得ない情報があるってことだ」
「勉強もついていけないのに、これ以上詰め込めないですよ・・」
「あははは、それもそうだな」
レオルエがそう言い終わると、ちょうど騎竜科の厩舎にたどり着いた。
「さぁ、ここが騎竜科のドラゴンの厩舎だ」
レオルエは仰々しく扉を開け、ラークに中を見せた。
「おお!!・・・・・おお?」
ラークはレオルエのせいで上げられたハードルとは別に、違うところに気がついた。
「なんか、飼育科より似た感じのドラゴンが多いですね」
「そうだな。戦闘に特化したドラゴンが多いからな」
騎竜科は、その後の進路を王国の騎竜兵に志願する者が多く、より実践に近い戦闘力の高いドラゴンを扱っており、その飼育係は門が狭いため、また私生活においてのドラゴンの活動の幅が広いため、様々な種と巡り合わせるようになっていた。
「戦闘特化はスピード型、攻撃型、特殊型の3つに別れる。だからだいたい三種類に分かれるな。ちなみに、お前らの育てているのは、特殊型の中の非戦闘向きと評されたものが多いな」
「へー、だからかな?なんか、皆こう顔つきがキリッとしてるね。緊張してるようにもみえたけど」
「ほー、よく分かったな、両方とも正解だ。初見で見抜けるのは凄いぞ」
レオルエは感心したように眉を上げた。騎竜科のドラゴンは競争心が強いのが特徴で、さらに若い個体ばかりなので、他のドラゴンや人に対する経験が少ないため、必要以上に肩に力が入ってしまい緊張してしまうことがあるのだ。
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