第二話 言の葉のつながり
<前書き>
この小説はリアル目に進めようと思っていたのですが、教会とか孤児院とかその辺の描写がリサーチ不足でした。でも"異世界"なので許してください
<前話のあらすじ>
目覚めると全裸で森の中にいた青年。そこはゲームや小説でありがちな異世界だった。
彼は元の世界に戻り、推しとの約束を果たすことを決意する。
少女に案内されて食堂に向かうと、3~15歳ほどの子供たちが二つの長いテーブルにそれぞれ約10人、他にはシスターと20代後半のシスターと思しき女性が座っていた。
少女が二つ空いている席を指さす。俺と少女は並んでそこに座った。
それを確認した老いたシスターが指を交差させて祈る用な手の形を作り、話し始めた。
「いなれらうおちちあど、おちむ、おつじむ、おうとむほすくあったさづけあたお、いぬふすおずおうおわふすなく」
皆がそれを繰り返し、2秒ほど祈ったあと、「いいそろゆ。ああす、いあねますいにつうおふうさみかだち」と再び彼女が言うと、子供たちが一斉に食事を始めた。
目の前には緑の野菜の浮かんだ白いスープと手のひら大のパンが二つ、加えて木のスプーンが一つお盆の上に乗せられている。
スープを掬って口へと運ぶ。昨日の夕飯以降何も入っていない腹がその香りで刺激され、気持ち悪さも感じるほどの空腹感が脳を支配する。
程よい塩味と温かさが口の中に広がり、その熱が食道から胃へと流れていく。食欲に従い、口の中へスープを流し込んでいく。
が、半分ほど飲み終えたところでパンの存在を思いだした。このままスープがなくなれば、後半はあれを単体で食べることになる。
大した味もないパンで食事を終えるのはお断りだ。
パンを口のの中でスープと一緒にするつもりで齧ったはいいものの、想像していたパンとは異なる食感に驚きが隠せなかった。
まず、なんだか粉っぽいのだ。というか、粉を固めたものにただ火を通したという感じで、パンのように膨らんでいる感じがしない。
そしてそれ故かとても固い。粉っぽい食感と合わせて、一番今まで食べたもので一番近いのはそのままの乾燥切り餅かもしれない。
だからといって、これを食べる以外に今のところ腹を満たす方法があるわけでもなく、残ったスープに気合を乗せ"切り餅パン"を食べなくてはならない。
覚悟を決めて切り餅パンを齧り、一匙のスープで味と柔らかさをつけて噛み続け、何とか飲み込む。それを5,6回繰り返して、何とかすべてを食べきることができた。
肝心の空腹感はというと、パンがぎっしりと詰まっていたものであったこと、硬すぎるために噛む回数がとても多かったことでほとんどなくなっていた。
子供が全員食べ終わったのを見ると、老いたシスターが「おうぇくだたくいあさねみじゃふ」といいうと、ぞろぞろと食器を乗せたお盆を持って調理場があるのであろう方へと進んでいった。
俺もそれについていこうとお盆を持ったところ、少女が横から引き留め、お盆を置かせると俺の手を引いて先ほどまで寝ていた部屋とは別の部屋へ連れてきた。
そこには、ベッド、チェスト、化粧台などが置かれていた。どうやら宿泊用の部屋のようで、この少女は俺の世話係として働いてくれているのだろう。
彼女は何かを書いてそれを扉の外側に張り付けると部屋を出ていった。
それから15分ほどたったころ、それまで人の動く音がしていたのがやみ、建物中が静かになった。
外はもう暗くなっているので、外に出ていったというようなことではないだろう。風呂へ行ったか
自分たちの部屋へ戻ったといったところだろうか。
さて、このくらいの時間からが本番と深夜まで遊び倒していた現代の若者としては、PCはおろかスマホもないような部屋ですることなどなく、言語の異なる世界では本があったとしても読むことはできない。
昼寝のせいで眠気もなく、どうやって暇をつぶそうかと考えてベッドに寝ころんでいた。
気が付くと、明かりをつけていた部屋は真っ暗になっており、俺には毛布が掛けられていた。
いくら疲れていたとはいえ、少々眠り過ぎではないだろうか。そんなことを考えられるほどには覚醒し、眠気は完全に消え去っていることを確認する。
カーテンをめくると、外は集中すれば見える程度に明るくなってきている。
俺は音をたてないように外に出て、町の様子を見ることにした。
出てすぐの道を300mほど進むと色々な店が並ぶ広場に出た。案の定読めるような文字はない。
そこを中心に、東に住宅街、西には役場のような建物や教会、南北には農場が広がっている。
そろそろ戻ろうと元来た方向を向くと、背後から足音や話し声が聞こえる。振り向いた先には、夜明けの光と1日を始める人々の姿があった。世界は違えど人の在り方は変わらないのだ。
教会に戻ると、世話役の少女と同じくらいの年齢の子供1人が近くの畑で野菜を収穫していた。少女はこちらに気づくと駆け寄ってきて手に持った野菜を服で拭いて差し出してきた。受け取る時にみた彼女は目を輝かせて笑っていた。
食感は元の世界のウリに近いもので、ほのかな甘みを感じる。
ウリっぽい野菜を食べ終わると、少女は野菜の入った籠を渡して付いてくるようジェスチャーをした。
少女について広場へ行き、野菜を売ったり売れ残りの切り餅パンを買ったりする手伝いをした。
その後は子供たちと朝食の用意や片づけをして、朝にやることがほとんど終わりになったころ、子供たちがぞろぞろと教会の敷地内にある建物に移動していった。よくみると、教会の子供ではない子たちも外からやってきている。
中をのぞくと子供同士が勉強を教えあっている学校のようなものだった。入り口の近くでは小さな子供たちが言葉や文字を教わっている。この世界で生きるのには言葉を知っておかねばならない。
後ろに立って見ていてもそもそも何を言っているか理解できないのでサッパリわからない。それでも何とか理解しようとしていると、教えている子供が手招きした。
子供は指差しや絵で俺に物の名前の音を教えた。水、土、草、人。
その当日、俺は覚えたての言葉で世話役の少女に自己紹介をした。
「おぬこぶ、あへあまん、すどうあらた。おにみく、あへあまん?(僕の、名前は、須藤アラタ。君の、名前は?)」
「あひさたう、えみじゃふ、うせど。おっとゆと、あらきあがん、えったたら、おめどのゆ、ありさきい。(私は、エミジャフ、です。ちょっと、長いから、アラタって、呼んでも、いいかしら。)」
「んう。うきそろゆ。」
それから1か月間、毎日のように子供に言葉を教わり続けた。そのおかげで、ゆっくりであれば生活に必要な程度の会話ができるほどになった。
それからさらに1週間後、俺はある目的のために仕事を始めることにした。農作物を近隣の町に運ぶ仕事だ。
主に南西にある大きな港町に馬車に大量の野菜を積んで運び、荷下ろしなどを手伝った。もともとは雇い主とその息子が行っていた仕事だったが、その息子がもうすぐイアエドという街に新しい仕事を見つけて引っ越すというので、丁度よく雇ってもらうことができたのだ。
その仕事を半年近く続け、それなりの額を稼ぐことができた。その間、教会に子供たちと同じく住まわせてもらったおかげで稼ぎはほぼそのまま貯金することができた。
合計7か月余り。会話能力と金を得て、元の世界に変える方法を見つけるための旅に出る準備が整った。
異世界転生と言えば王都だろうということで、とりあえず北西にある山を越えて進んで先にある王都オトニホーンへ向けて村を出ることを伝えると、老いたシスター、もといシスター・ウロマムがすっかり食べなれた切り餅パンをいくつか分けてくれた。
また、2週間前からこのことを伝えていた雇い主に改めて伝えに行くと、残り物だからと言って、しっかり日持ちするように加工された野菜たちをたくさん持たせてくれた。
西の門の前に立ち、彼ら彼女らに出会えて本当に良かったと感じた。思えば、最初にこの村に入ったのもこの門だった。
運命のようなものかとくだらないことを考えていると、雲の後ろから日差しが背中を刺し、体感温度が一気に上がる。
昼になればさらに暑くなる。俺は気合を入れ、旅の一歩目を踏み出した。
そのとき、「行ってらっしゃい」そう背後から聞こえたが、振り返れば決意が揺らいでしまうかもしれない。これで元の世界に変えれば二度と彼らには会えないからだ。
少し立ち止まり、手を上げた。少し進んでからその手を下ろし、涙をぬぐった。
<次話予告>
王都へ向けて歩みだしたアラタ。しかし、その目の前に男たちが立ちはだかる。
序盤からのトラブルに、早くも心が折れそうになるアラタだったが、そこに一人の男が現れ……
次話「無知で非力な田舎者」
<あとがき>
読んでくださりありがとうございました。
1話目から2か月近く開いてしまいましたが、第2話でございます。
1話のあとがきを見返して恥ずかしくなったので、あの感じは二度とやりません。そもそもキャラジじゃないし。アー恥ずかしい。
あと、今後は前書きと後書きにそれぞれ前話のあらすじと次話予告を入れてみることにしました。
特に予告の方は話のアイデアをまとめるのにいい感じでした。
次は早めに投稿できたらと思っています。
では。