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推しに会うため異世界脱出  作者: 加糖対地
序章 目覚めと決意編
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第一話 新たなる世界

 鳥のさえずり、肌に当たる風、揺れる草木の音、温かな日差し。なんてすばらしい朝なのだろう。こんなに気持ちの良い目覚めは久しぶりだ。さぁ、目を開けようか…………

 ちょっと待て。いろいろとおかしい。

 俺は近所には大した緑もない、実家の自分のベッドで寝ていたはずだ。鳥の声は聞こえても、木なんて近くにはなく、日の光も風も入ってくるはずがない。

 少し怖いが目を開けないでいてもどうにもならない。体を起こし、覚悟を決めて目を開くと、RPGの始まりかのようなたくさんの木、背の低いくさむら、そこに座る全裸の自分の体が飛び込んできた。

 目を閉じている間は気づかなかったが、お尻やかかとには確かに雑草の当たる感覚がある。

 この状況の説明として納得がいくのは、

一.とてもリアルな夢を見ている

二.寝ている間に死んであの世にいる

 くらいしか思いつかない。

 この二つのどれかであろうとなかろうと、さすがに日本で17年も生きてきた男が、外でこの格好でいるのは恥ずかしい。せめて下半身だけでも隠せる物を探すか、人を探して貸してもらうとしよう。後者はかなり勇気がいるが。

 

 この辺りは山のふもとなのか、少しだけ傾いている。「このまま下っていけば人に会えるかもしれない」そんな考えで歩き続け、体感1時間くらいが経った。恥ずかしさを忘れかけた代わりに、とある重大なことが頭に浮かんだ。この辺りに人がいない可能性が大いにあるということだ。

 存在しないモノにはどこへ行っても会えるはずがない。だからと言って今まで歩いてきたのを無駄にするのも悔しい。そう思いながら歩を進めると、100mほど先の木の後ろに動く影が見えた。

 「おーーい!」と叫びながら影の方へ走ると、あちらも俺に気づいたらしく、こちらを振り向いた。

 顔がはっきり見えるくらいまで近づいたとき、相手が同年代の少女であることに気づき、俺はとっさに近くの木に隠れた。

 少女は大きな洗濯籠を持ってこちらに近づき、聞いたことのない言葉で話しかけてきた。

 「あたな、うこずなすおめでぃんおふせどなてらをそ?あだむうかとねすいあねちすおでかどぅふく、あべこゅえったくと。おなかだふあじゃまむ、おみにたむゅおせでぃたねくす?あ、おっとゅおでかったゅていむ、あらあかでぃそぐなくいすれてらん、おっとゅてぃほとのふあらあくどえでぃかにしにく。いねろす、おのす…あ、あふかしっとあらきあん……」

 何を言っているのかはまったくわからないが、籠から服を取り出して渡してきた。顔を赤らめながら俺から目をそらしている。恥ずかしい思いをさせてしまったのだろうと急いで着ると、なぜだか少し「もったいない」と言いたげな表情をした。

 服を貸してくれたことにお礼を言い、頭を下げると、やはり言葉が通じないためか少しキョトンとしていたが、頭を下げたことで感謝の念は伝わったようだった。

 とりあえず彼女についていけば集落には出られるだろう。そうやってそのことを彼女に伝えるか悩んでいると、彼女の方から話しかけてきた。

 「おっれふ…あー……えむこ、の、えむ、くかぶ!」

 やはり何を言っているのかサッパリわからないが、身振りからしてついてこいと言っているのだろう。断る理由などあるはずもなく、俺はうなずいた。

 少女は20mほど先にある道へ出ると、そこから緩やかな斜面になっているこの道を下る方向に進んでいった。30分くらいで5~6mの木の塀と2人の兵隊が立った門に着いた。少女は兵士の一人と話をしている。

 「えら、えみじゃふいあどなちうそど?あへてぃしぬかとねすいあやひねかゅあきあなじゅ。ん?おにっとすおほちふ?」

と、兵士が話す。語尾が高くなっているところがあったので、おそらく俺のことについて少女に尋ねているのだろう。

 「あほちほなうきいなわくえづうよとおなてくちむ。いぬこずなすえてらをそえだむくふえらけっとむいあちみあっちゅと。おまきす、おにぬこのそゅえでぃあちもちふあがぼとくおにあにじゅうと。うおしあわくあらかど、うぜあいろといにあくゅとえられがいちおえったなきあん。」

と、いう少女の応答に兵士は納得したような顔をすると、門を開けさせ、少女は俺に手招きした。

 門を抜け少女についていくと、村レベルであろうこの集落の中心付近にある大きな建物についた。中に入ると、椅子がたくさん並んだ大きな部屋になっており、正面には何かしらの像があった。おそらく協会のようなものなのだろう。少しの間像を眺めていたが、少女についていかねばならないこと絵を思い出し、彼女の方を向くと、少女と目があった。彼女は立ち止まって俺のことを待っていてくれたようだ。

 少女は再び歩き出し、この聖堂のような部屋の入り口付近についていた扉を抜けて廊下を進み、10人分のベッドがある部屋に俺を案内した。

彼女はそのうちの一つを指さし、(たぶん)そこで休むよう促した。俺がベッドに腰かけたのを確認すると、彼女は洗濯籠を持って部屋から出ていった。

 横になると、かなり歩いて疲労がたまっていたせいですぐに眠気が襲ってきた。


 ……体がビクッ!と動き、その衝撃で目が覚めた。どうやら座りながら眠っていたようだ。

 俺は教会のベッドで眠っていたつもりだったが、実際に寝ていたのは自室のPCの前だった。目の前の画面ではバーチャル配信者―通称「V信者(ブイしんしゃ)」―の班目ベロニカの配信アーカイブが再生されていた。

 やはりあの不思議な体験は夢だったようだ。

 腹が減ったので食事でもしようと思い、椅子の上で伸びをして椅子から降りると、くるぶしあたりまで水につかっていた。そのまま階段を下りて冷蔵庫を開けると、中から羽毛が飛び出し、いつの間にか張り出した崖の下側を上下反転して歩いていた。

 違う、これは夢だ。それに気づいてもなお、俺の頭はこれに違和感を覚えず、崖の先へと歩く。そして地面に水平になるように立ち止まると、上からベロニカちゃんが降ってきて手を広げていた。それを抱きとめようとした瞬間、見知らぬ天井が目に入った。

 体を起こすと、窓の外が赤く染まっていた。

 はっきりと現実であるということを感じる。俺が今いるのは間違いなく教会のベッドの上であった。

 非現実的な現実を受け入れざるを得ない事実に気分が落ち込む。創作の中だけのことだと思っていたが、一番納得がいくのが異世界転生、異世界転移だろう。

 ということは、もう家族や友達、何よりベロニカちゃんに会うことはもうかなわないのだろうか。

 精神的に疲れ果て、心の動きが止まったまま動画投稿、配信サイトのYourLiveを眺めていたとき、彼女の配信を見て元気をもらったのだった。その後、俺は彼女の初めてのルームメンバーとしてずっと彼女が有名になっていくのを見てきた。「収益化ができるようになったらスペシャルチャットで上限額を真っ先に送る」という約束が次の配信で果たせると思っていたのに。

 ……いつの間にか泣いていた。拭っても拭っても涙は止まることなく流れ続け、鼻をすする音はやがて嗚咽へと変わっていった。


 一通り泣き終えてすっきりとした頭にある考えが浮かんだ。「この世界に来た方法がわかれば、変える方法もわかるのではないだろうか」

 創作におけるものなどを参考にして、この世界に来ることになった原因をいくつか考えてみた。

一.何かしらの理由で死亡し転生した。

 考えつく中では最も可能性が高い。この場合、帰るにはもう一度死ぬ必要があるが、100%の確証どころか何の情報もない今そんなことをするのは確実に悪手だろう。これでただ死んだだけになろうものなら、死んでも死にきれないというものだ。

二.何者かに召喚された。

 最初に目覚めたときに誰もいなかったため可能性としては低いが、何かしらの要因で召喚の後あの場所に放置されたことも考えられるので候補として残しておく必要はある。

三.異世界の入り口に入ってしまった。

 バミューダトライアングルとか神隠しとかそういう類のものの可能性もある。しかし、元の世界での最後の記憶がベッドで眠ったことであるため、あまり可能性は高くないようにも感じられるが、記憶が飛んでいるということも考えられるため召喚説と同じくらいの可能性は残っている。

 いろいろと考え込んでいると、ノックの音が聞こえた。扉を開けると俺をここに連れてきた少女が立っていて、着いてこいと言っているようだった。

 どこからか美味しそうな匂いがする。そのことに気づいた直後、大きな空腹感がした。

 今の状況では何をしようとしたところでどうしようもない。とりあえず飯を食って寝て、明日から少しずつ準備を始めていこう。

 推しに会うための、異世界からの脱出の。

初めて小説を投稿しました、加糖対地と申します。あとがきを読まれているということは、おそらく最後まで読んでくださったのでしょう。そんなあなたに、大きな感謝を。

更新頻度はかなり低いですが、楽しみにしていただけるととてもうれしいです。では。

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