99、リリーシュ・アシュビー side 意気
私は物心がついたときには影になるための訓練が始まっていて、兄たちや姉たちのようになるのが当たり前だと思っていた。
痛いことも苦しいこともたくさんやった。座学だけは痛くも苦しくもないので楽にできる唯一のものとして訓練の休憩時間的な位置付けだった。
今年は二番目の兄がアリシア様の護衛として入学することが決まっていて、私は心底羨ましかった。
「兄様はアリシア様と同い年でいいですね」
「それがね、どうやら護衛ではなく、アリシア様を害するかもしれない女の監視になるみたいだよ」
「? どういうことですか?」
「私もよくは分からないが、アリシア様の地位を狙う女がいるそうだよ」
「許せませんね」
私たちは小さい頃からたまに交流をさせて頂いていたので、アリシア様のことはよく知っているし、私にとっては憧れのお姉様だ。
「隙あらば消してもいいのでは?」
「んー、そう命じられるまでは我慢かなあ」
兄様はアリシア様が大好きだったはずよね……。我慢なんてできるのかしら?
それからの私はいつものように訓練に励み、だいたいのことができるようになってきていた。
アリシア様に先日お会いしたときは
「リリーシュ、大きくなったわね」
と頭を撫でて下さり、レオナルド様からは
「背丈がアリシアとかわらなくなってきたね。アリシアの影になれるんじゃない?」
「!!」
アリシア様の影!素敵!
「もうお兄様! リリーシュは女の子なんですから危ない真似はダメですよ」
「アリシア様、失礼ながら申し上げますと、妹はそこらのものより強いから大丈夫です」
兄様が口添えした。
「バート、そうだとしても! ですよ。リリーシュには危ないことはさせたくないわ」
フルフル……。
あまりのうれしいお言葉に体が震える。顔がにやける。ふと兄様を見ると、私を見てニヤニヤしていたので、足を踏みつけておいた。
その後アリシア様にいろいろあったことは聞いていて、私は心を痛めていた。アリシア様のお力になりたいのに。
でもそれは兄様も同じ思いだろうな。
ある日、兄様に呼ばれて言われたのが、
「明日からアリシア様の影をしてほしい。やることと状況をいまから説明するができるか?」
「できます」
「よし、ではとりあえずアリシア様に変装してみて」
私は常日頃から鍛えたあらゆる技を使ってアリシア様になりきり、アリシア様の状況を聞きながら最後の仕上げとして表情を作っていく。
兄様から合格をもらい、いよいよ明日からアリシア様の身代わりだと意気込んでいた。
この女ら、なんなの?
しつこい!
隣にいる副担任であり殿下の護衛騎士のラドニー先生が諌めるも、全く耳に入らない様子。さくっと消してはいけないのだろうか。しゃべらなくていいとの指示だったが、声色ももちろん習得している。が、私がしゃべると攻撃してしまうのを兄様が危惧して声を出すなと言われていたのだろう。確かにアリシア様は攻撃的なお方ではない。
指示通りアリシア様らしく演じていると殿下が来て話しかけてきた。
「アリシア、どうした?」
この女たちを完全無視とは、さすがです。私は一瞬任務を忘れてしまいそうになったが、たぶん大丈夫なはずだ。
「アリシア様が私をいじめるのです!」
殿下はチラリと見ても基本的に無視。いやあ、殿下すばらしいです。
「食べたのなら行こう」
殿下は見事な笑顔で私の腰を抱き、教室に戻ろうとしたところ殿下を呼び止める声があった。
「殿下、お待ちください!」
「なんだ! 呼び止めるとは不敬に当たるぞ」
すかさず声を張り上げる殿下の側近。
おお!殿下の側近も少し演技くさいけれどなかなかいい。
「よい。なんだ?」
「アリシア様が、このマリアンナをいじめているらしく、今もマリアンナが泣いていたのです」
「何があった?」
「マリアンナがいうには話しかけると隣にいるラドニー先生に怒鳴らせてマリアンナが悪いように仕向けると言ってて……」
私は食事をしてただけなんだけれど、絡んできたのはあなたたちでしょうに。
「聞くに値しない」
まあ、そうですよね。そのまま教室に行こうとするとマリアンナが殿下の腕を掴もうとして振り払われていた。この女はなぜここでこれができるのだろう?実に不思議だ。教室に戻ると殿下はそっと離れた。
「昨日の今日ですまなかった。ありがとう」
「いいえ、兄から聞いてますのでお気になさらず。次はいつにされますか?」
「では明日も頼む」
「承知しました」
私はアリシア様の顔をといてから教室をあとにした。明日から何を言われるのか楽しみだわ。何倍返しぐらいが妥当かしらね。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや高評価★、感想など頂けるとうれしいです。
励みにしますのでぜひよろしくお願いします(*^^*)




