93、エドワード王子 side 陽動
次の日も朝からスチュアート家のアリシアの部屋にいた。
「アリ、そろそろ瞳を見せて……」
いい加減、僕は女々しいのかもしれないが、アリが起きないことがとても不安だった。
頬を触りながら閉じられた目を見つめ、そっとキスをする。
午前中はアリシアのそばで過ごしていると不安ながらも側にいることでホッとする。昼頃になるとレオナルドが公爵家に戻ってきた。学園の様子を聞き、僕はアリにキスをしてからレオナルドと入れ代わりで学園の方へと向かう。
「エドワード王子、大丈夫ですか?」
「あぁ。怒りをなるべく隠すように心がけるよ」
レオナルドから聞いたあの女、マリアンナ・ブラウニングの態度に怒りがわくが、それでは計画が壊れる。
「アリを頼む」
見送りに来たレオナルドに告げ僕は馬車に飛び乗り、しばらくすると馬車が学園に到着した。レオナルドが連絡していてくれたのか、サイテスとタキレスが馬車の待機場で待っていた。
「殿下お待ちしていました」
「待たせてすまない。行こう」
僕たち三人は足早にその場を去り、食堂に向かいながら話す。
「彼女の出来映えはどうだった?」
「近しい人以外はわからないでしょう」
サイテスが興奮したように答える。
「エドワード、よく見つけてきたな……」
「背格好さえ似ていれば例え男でも問題ないらしいよ。相手は声を知らないからね」
僕が答えると二人は驚いた顔をした。
しばらく歩くと食堂に着き、目当ての人たちがいた。
「……は、私をいつも悪者にしてぇ! ひどいわっ!」
「……」
「返事もしてくれないしぃ。グスッグスッ……」
「マリアンナ、大丈夫?泣かないで」
なんだ?この猿芝居は。
僕は内心あきれながらも女らに近づく。
「静かにしなさい。回りに迷惑だろう?」
ラドニーが静かに注意していたが女らには聞こえていないらしい。
「アリシア、どうした?」
騒ぎの中心にいる口をつぐんだアリシアに僕は優しく声をかけると彼女の回りにいた人が一斉に僕を見た。僕を見たアリシア……のそっくりさんは、それとわからない出来映えで本当に驚く。
僕を見た途端、僕が来て安心したとばかりに、庇護欲をそそるかわいらしい顔をしたところまでそっくりだった。
「アリシア様が私をいじめるのです!」
僕はマリアンナ・ブラウニングをチラリと見ただけで、視線をアリシアのそっくりさんに戻した。
「食べたのなら行こう」
僕はにっこりと笑いそっくりさんの腰を抱き、その場から離れようとすると、あの女の取り巻きが僕を呼び止めた。
「殿下、お待ちください!」
「なんだ!呼び止めるとは不敬に当たるぞ」
サイテスが芝居掛かった言い方をする。彼は普段こんな言い方は絶対にしない。
「よい。なんだ?」
「アリシア様が、このマリアンナをいじめているらしく、今もマリアンナが泣いていたのです」
「何があった?」
「マリアンナがいうには話しかけると隣にいるラドニー先生に怒鳴らせてマリアンナが悪いように仕向けると言ってて……」
はあ?
よくもここまで話を作れるな。
「聞くに値しない」
僕はそのままアリシアのそっくりさんをエスコートし、マリアンナがすがってきたが無視をして食堂を去った。教室に戻るとそっくりさんと離れる。
「昨日の今日ですまなかった。ありがとう」
「いいえ、兄から聞いてますのでお気になさらず。次はいつにされますか?」
「では明日も頼む」
「承知しました」
そっくりさんは教室をでる頃には別人の顔になっていた。
「レオナルド様から計画を聞いたときは驚いたが、すごいな」
タキレスが感心していた。
「僕もここまでとは……。さて、相手はどう動くかな……」
僕はラドニーにも明日以降の話をし、午後の授業を受けてから城に戻った。
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