89、エドワード王子 side 抑圧
僕はアリを抱いて馬車に乗り込んだ。続けてレオナルドが乗り込むと馬車はゆっくりと進み始めたが、アリからの反応はなかった。
「アリ、もう大丈夫だよ」
しばらく優しく手をさすっていると、アリは急に意識が戻ったようで返事をした。
「もう……大丈夫です……」
「うん……」
……大丈夫ではないよね。そのまま手を擦り、何度も「大丈夫だよ」と声をかけた。
公爵邸に着くと、アリはやはり固まったまま動けず、僕はレオナルドを先導にアリを横抱きにしアリの部屋まで連れていった。
部屋に着くとベッドにソッと下ろし、レオナルドがそのまま眠るようにいうと、アリは目を瞑ってすぐに寝てしまった。よほど疲れてしまったのだろう。
寝ているアリをエマに任せ、僕とレオナルドは部屋を移して話をすることにした。
「レオナルド、今日はすまなかった」
僕は頭を下げた。
「遅かれ早かれ接触はあったでしょうから、今回はラドニー先生がいてくださっただけよしとしましょう。アリシアは心が癒えればまた元気になりますよ」
「アリは……また記憶を失ったりしないだろうか……」
「そのときはまた出会ったらいいではないですか」
「うん……ありがとうレオナルド」
レオナルドと今後の話をしばらくし、アリシアの部屋を訪ねるとまだ起きそうになかった。エマと交替し、時間ギリギリまでアリについていたが目を覚まさなかった。
「アリ、また明日」
僕はアリの頭を撫で唇にゆっくりとキスをした。
「愛しているよ」
城に連れ帰りたい衝動を押さえながら後ろ髪がひかれる思いでアリの部屋をあとにした。
城につくと、すでにタキレスがきていることを報告され、僕は執務室まで急いだ。
執務室に着くとタキレスとサイテスがきていて僕が部屋に入るとサイテスが立ち上がり頭を下げた。
「呼び出してすまない。サイテスはエミリー嬢はよかったの?」
「エミリーは屋敷に戻ったので問題ありません」
「そうか。ではタキレス報告を」
サイテスに座るようにジェスチャーをしながらタキレスに話しかけた。
「頼まれていた相手を攻撃しないように……についてはAクラスでは皆無だな。さすがに教育が行き届いている。BクラスからAクラスに何人か話にきたが、エドワード自身が話した内容を伝えられると驚きつつも納得して教室に戻っていった。
まあ、Aクラスではマリアンナ・ブラウニングの奇行をいやというほど知っていたし、今回の相手がそのマリアンナ・ブラウニングだと知ってからは『殿下とアリシア様を守り隊』を発足させてたぞ」
「は!? なんだそれは……」
「隊がおかしなことをしては困るから私が監督をするが、隊のものには何かさせるのではなく、見守らせるだけにはとどめたいとは思う」
「まあ……それがいいだろうね」
「みんなこれでも心配してるんだよ。二人の真面目さ、勤勉さ、優しさはお茶会でも有名な話だし、それに加えてアリシア嬢は美少女で、しかも儚げだからな。男女に関わらず庇護欲がわくみたいだよ。アンジェリーナもエミリー嬢も隊に入りたいそうだ」
タキレスに言われて微妙な顔をしてしまった。
「私も入りたいくらいです」
サイテス……。何言ってるの……?
「さておき、アリシア嬢は大丈夫なのか?」
「今は眠っている。本人は大丈夫だと言っていたがしばらく学園には通えないぐらい心理的にきているようだった。また明日様子を見に行く予定だ」
アリの様子を思い返すと心臓をつかまれたような気分になる。僕の失態がアリに被害を生んだ。
「エドワード、あまり思い詰めるなよ」
「うん……僕のせいだから仕方ない」
「だーかーらっ!思い詰めるなって! 悪いのはあの女であってお前じゃないだろ!」
普段声を荒げることのないタキレスに言われ、僕の晴れない心にタキレスの優しさが伝わった。
「……ありがとう」
僕は無性にアリに会いたくなった。
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