87、レオナルド・スチュアート side 冗談
馬車に戻り、アリを膝に乗せ落ち着くと留守番をしていた騎士たちが朝食に行った。外がだんだん賑やかになり、多くの人が行き交っているようだった。
「お嬢様、何かほしいものがあれば今買ってきますよ?」
エマが聞いたがアリシアは首を振って私の肩に頭を預け目を瞑ってしまった。なんだかアリの様子が「動物が傷を治すためにじっと動かずにいる」感じに見えてきた……。
私はアリの頭を撫でながら頭の中ではいろいろ考えていた。アリのこと、学園のこと、今後のこと……。とりあえず十日間でアリが元にもどれるか、やってみないと何も決まらない。
「ただいま戻りました。レオナルド様、何もなければ出発します」
「あぁ、頼みます」
いつの間にか半刻ほど経っていたようで騎士たちも戻ってきていた。私はアリが眠っているのを確認すると、私自身も目を瞑りしばらく仮眠を取ることにした。
ちょうど次の街に着いた頃昼になり、私たちは交代で昼食を取ることにした。
「アリ、何が食べたい?」
アリの顔を覗きこんで聞いたが首を振り顔を埋めてしまった。かわいいけれど何か食べさせなければ。
「あちらにシチューが美味しいお店があるようですよ」
騎士から情報を聞きそのお店に行くことを決めた。店は混んでいたが、貴族用に個室が用意してあり私たちはそこに通された。
情報通りとてもおいしく、アリも思ったより食べてくれたのを見てホッとする。みんなもアリを見てホッとしているのを見ると、ずいぶん心配をかけてしまっていることに気づく。
「さて、そろそろ戻ろう」
朝と同じように交代をし、それが終わると出発をする。王都を出る頃には日差しも強くなっていたが、気温はそう高くないので過ごしやすい。アリは相変わらず目を瞑り私に身を預けていた。
◇
日が落ち辺りが暗くなってきたところ、やっと領地の屋敷にたどり着いた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。シンありがとう」
先に出発していた私の執事シンが対応し、迎える準備も済ませてくれていた。領地の使用人の人数も多いが、アリシアの状態を考えてあらかじめ出迎えは断っていた。
「お部屋はどうなさいますか?」
「うーん……。アリシア、部屋はどうする? 別々にしてもいい?」
アリは首を振りさらにぎゅっと私に抱きついてきたのをみて
「今日は一緒にする。また様子をみてかえるかもしれない」
「かしこまりました」
部屋に行きみなで夕食をすませ一息着いた頃、エドワード王子からの手紙を渡された。
「三日後にそちらに向かう」
はあぁあ!?
声に出しそうになったが踏みとどまった。顔には出ていたかもしれない。アリは相変わらず目を瞑っているので内容は知らせないことにした。
父上、説得に失敗したな……。
あのときのエドワード王子の怒りの目を見てしまったからなあ。はぁ。三日後かあ。それまでに落ち着くといいのだけど……。シンに手紙をしまってもらい、アリに話しかける。
「アリ、湯あみの時間だよ。エマといっておいで。それとも私と入る?」
後半は冗談で言ってみるとアリは瞑っていた目を開けて頷いた。
えっ……。
「いやいや、エマといっておいで」
私はアリを横抱きにし、風呂場に連れていきエマに任せた。
重症だ……。
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