86、レオナルド・スチュアート side 悲愴
アリシアは二日ぶりに目が覚めてから、私にしがみついたまま口を閉ざしている。私の声は聞こえているようだが、反応は鈍い。
「レオ、アリを連れて十日ほど領地に行ってきたらどうだい?」
目覚めてから、トイレ以外私から離れようとしないアリシアを見て、父上が提案した。
「わかりました。では準備して明日の朝出発いたします」
「学園の方と殿下には私から伝えておくね」
「ではよろしくお願いします」
父上はアリシアの頭を撫でて「心配しなくていい」と声を掛けて部屋を出ていった。
私はエマを呼ぶと準備を頼み、さらにエマも一緒に領地まで来るように頼んだ。
「もちろん、お嬢様の行かれるところに私もついていきますよ! では準備をしてきますね」
◇
夜が明けて辺りがほんのり朝もやにつつまれる中、私たちは領地に向けて出発することになった。領地までは半日掛かるため、早めに出ないと夜までにたどり着けないのだ。
私はアリシアを抱っこし馬車に乗り込み、私の膝の上に座らせるとアリシアは私に抱きついてきた。
馬車の中には私とアリシア、侍女のエマ、そして護衛の騎士と侍従が乗っており、侍従二人が交代で馬車を走らせる。騎士は三人が交代で警護する。エマ以外は私が生まれる前から家に仕えているので、お互いによく知った仲だ。
「アリ、寝てていいからね」
アリシアの頭を撫でると、だんだん瞼が下がり私に抱きついたまま眠った。
公爵家の馬車はとても大きく、仮眠できる簡易ベッドが付いていたが、アリシアが私から離れなかったので抱っこしたまま馬車を走らせた。
◇
一時間ほど走った頃、辺りは朝もやもスッキリとなくなり、気持ちのいい朝をむかえていた。
「レオナルド様、お嬢様をずっと抱っこでは疲れませんか?」
エマが心配そうにアリシアを覗き込んでいる。
「アリは軽いからね……。負担もそうないし、鍛練のときより体は断然楽だよ」
「それならいいのですが……」
学園でマリアンナ・ブラウニングと遭遇した日、アリは二日間眠ったまま起きなかった。目覚めてからはずっと私から離れない状態だ。アリは何も言わないが、遭遇したことをきっかけにおそらく前世の夢を見たのではないのかと私は思っている。久しく見ていなかったのに。
エドワード王子はアリが寝ている間に二回お見舞いに来てくださったが、結局起きているアリとは会えないまま、私たちは領地に向けて出発した。
きっと今頃、父上が事情を話したころだとはいえ、エドワード王子……帰ったらめんどくさそうだな……。
そろそろ休憩をするために街に寄るので、アリシアを起こす。朝食を取り、その間馬を休ませる目的もあった。
「アリ、そろそろ朝食を食べに行くよ。起きられる?」
「ん……んん……」
アリシアは目をこすり、小さなあくびをした。
「アリ、おはよ。今から朝食食べに行くよ。自分で歩く?」
アリシアは小さく頷いた。
十分ほどすると馬車は止まり、騎士が外から扉を開けた。私、アリシア、エマ、騎士が二人と侍従の計六人でいつものお店に向かう。
「アリは久しぶりだよね。時間があまりないからこの街で散策はできないけれど、領地ではデートしようね」
私にしがみついて歩いているアリを見ると僅かに頷き、よく見ると少しだけ、ほんの少しだけ頬が赤くなった。
お店につき朝食を頼む。どれも美味しそうではあったが、アリはあまり食欲がないらしく、口に入れても飲み込むまでにかなりの時間がかかった。これはよくない傾向だと思いながらも見守ることしかできなかった。
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