85、原因
残酷な表現があります
気がついたら馬車の中だった。一体いつの間に、どうやって馬車に乗ったのか分からなかった。
「アリ、大丈夫だよ」
エドワード様とお兄様の間に座り、エドワード様は私の手をさすり、お兄様は私の頭を撫でてくださっていた。
「もう……大丈夫です……」
「うん……」
大丈夫だと伝えても二人とも撫でるのをやめなかった。
私は今、体も心も固まっていた。階段から後ろに落ちそうになったときの浮遊感はとても怖く、そのまま落ちていれば良くて骨折、悪ければ死んでいたかと思うとゾッとする。ラドニー先生がいなければ私にはどうすることもできなかった。
ほどなくして馬車は家に着き、私は降りなければならないとわかりながらも動けないでいると、エドワード様が私を横抱きにし馬車を降りた。お兄様が先導し私の部屋まで行くとベッドにソッと下ろされた。
「しばらくおやすみ」
お兄様が頭を撫でてくれたので、私はそのまま寝てしまい、私は久しぶりに過去の……前世の夢を見ていた。
◇
私は先生の手伝いを終えると、誰もいない教室にカバンを取りに行き馬車まで向かって歩いていた。
なぜかいつも雑用を頼まれるのは私だけで、そのため一人遅く帰るのも慣れていた。
階段をゆっくり下りていると、掛け下りてくる音がし突然の浮遊感とともに目の前が暗転した。
次に目を開けると自室にいたが、あちこち痛みが酷かった。自分で動くこともできず、熱が出て朦朧としていたのもあって、何が起きたのか分からなかったが、徐々に背中を押され、階段から突き落とされたのだと思い出した。
すると突然エドワード王子が部屋に入ってくるなり、ベッドに横になっている私を見下ろした。
『アリシア、お前はなんてことをしようとしたんだ!』
私に対してエドワード王子が怒鳴る。
『マリアンナを階段から突き落とそうとしたらしいな。それで避けられて自分が落ちるなんて愚かにもほどがある。死なずに骨折3本ですんだのはマリアンナのおかげだと思え。ただ、この件は裁判にかけるから逃げられると思うなよ』
これでわかった。私はマリアンナ男爵令嬢に突き落とされたのだろう。
そしてまた私のせいにされるのか……。
『私はそのようなことは……し…ておりません。私は誰かに……突き落とされた…のです』
『マリアンナが嘘を言っているというのか? そんなにも死にたいのか?』
この人にはもう何を言っても届かない……。私は私を守りたい。
『もう……私を……解放してください』
『このまま逃がすと思うのか? 沙汰を待て』
エドワード王子はそのまま部屋を去り、私は一人になった。逃げたいのに体が動かない。私の言葉は誰にも届かない。私はマリアンナ男爵令嬢にも、エドワード王子にも殺されようとしている。それなら一層のこと自分で消えてしまったらこれ以上心は苦しまないのでは……。
『アリ、大丈夫か?』
振り向くと私を見下ろす優しい顔をしたお兄様がいた。お兄様はベッドに腰を下ろし、私の頬を優しく撫でる。
『アリには私がいるよ。父上も母上も私も、みんな誰よりもアリを愛してるからね。大丈夫だからね』
私はお兄様のことを見つめ、そして頷いた。
お兄様は私の額にソッとキスをする。
『眠るまで見ているから今は体を休めるんだよ』
私は頷き目を閉じると、お兄様が頭を撫でてくれているのを感じながら眠りについた。
次に目が覚めると、私はエドワード王子にマリアンナ嬢を階段から突き落とし殺そうとした罪で処刑を言い渡されるとともに斬首刑が決まり、街の広場で手足をしばられ上から刃が落ちてくるのを待っていた。
縛らなくても骨折で動けないのに……。お兄様やお父様が私を呼ぶ声が微かにする。
ふふっ。
やっと私は解放される。
『やれっ』
そこで私の記憶は途切れた。
次に目が覚めると、私はまた小さい自分に……なにも知らない自分に戻っていた。
小さい私は殺されたことも知らずにエドワード王子との婚約を喜んでいた。
やっと解放されたはずだったのに……
◇
私は長い夢から目が覚めると、目の前にお兄様がいた。お兄様は私の頭を撫でながら、優しく微笑んだ。
「アリ、おはよう」
私はベッドに横になったまま目の前にいるお兄様の首に腕を回し抱きついた。お兄様は私を抱っこするとソファーに移動して座り、そのままお兄様の膝の上に乗せた。それでも私はお兄様に抱きついたまま離れなかった。
「アリ、どうしたの?」
私は首を振る。
ずっと抱きついたままでいると、お兄様は背中をゆっくり撫でてくれた。たまに額にキスをされても、私はしがみついて離れなかった。離れられなかった。
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