84、発端
ラドニー先生は私の歩調に合わせ……きっと先生的にはゆっくり歩いているようなので申し訳ないと思いながら、私はできるかぎりはや歩きをしているが、道場から教室まではわりと距離があり、縄抜けの練習を一生懸命したからか、だんだんと息が上がり歩く速度がゆっくりになってしまった。
「アリシア様、抱いて行きましょうか?」
「いえ……先生に……そんなこと……させられ……ません……。申し訳……ありません」
息が整わず歩きに合わせて細切れにしか話せない。
しばらくゆっくりめに歩いていると本館が見えてきてあと少しだというところで思い出した。教室は三階だった……。
上れるだろうか……。
階段の前にきて、私は気合いを入れ上ろうとしたそのとき、横から声がした。
「あ、あのときの女!」
声がする方向を見ると、マリアンナ・ブラウニング嬢がニヤリと笑った顔でこちらを見ていた。
!!!
私は極力知らない振りをして目の前の階段を上って行った。心臓はバクバク音がしていたが構わずに上った。
「あ! ちょっと待ってよ」
追いかけてくる気配がして私は怖くてたまらなかった。
怖い、怖い、怖い、怖い。
あと少しで二階に着くというところで、焦って階段を踏み外しそうになったところをラドニー先生が支えてくださり事なきを得た。
「あ、ありがとうございます」
ラドニー先生にお礼を言っている間に追い付かれたようで、マリアンナ男爵令嬢がすぐそばに来ていた。
「やっと見つけたわ。あなた、なんで逃げるのよ! 聞きたいことがあるのよ!」
マリアンナ嬢は一人で本館に来ているらしく、私の肩を掴んで私を振り向かせようとしたのか強く引っ張られ、足元がふらついた私はそのまま足が階段から離れた。
あっ……。
落ちる!
思わず目を瞑ったが、来るはずの衝撃はなく、そばにいたラドニー先生が私を抱き止めてくださっていた。先生は私をゆっくりと階段に下ろすと、
「あなたは本館の生徒ではないですよね? 確か、先日も注意しましたね。階段で引っ張ればどうなるか分からないようだと担任に知らせましょうか?」
ラドニー先生がマリアンナ嬢に向けて低い声でゆっくり話しかけると、マリアンナ嬢は焦った顔をして大声で言い出した。
「この人が逃げるからじゃない! 私は話があるから話しかけただけなのに、どうして私を悪者にしようとするの?」
すると二階の教室から飛び出してきた女生徒が私たちのところへ近寄ってきた。
「マリアンナ、どうしたの?」
「ヒラリー、話しかけただけなのにこの人たちが私を悪者にするの」
騒ぎを聞き付けた他の生徒が階段の上から遠巻きに見下ろしているのが見える。
私は怖さに言葉が出ず、かといって足も動かずでその場から離れることもできなかった。
「あの……なぜマリアンナを悪者にするのですか?」
ヒラリーと呼ばれた女生徒に聞かれても声が出ず固まっているとラドニー先生が私を横抱きにし階段を上り始めた。
「ちょっと!質問に答えてください!」
「そのようなことはしていない。危ないことをしたから注意しただけだ」
ラドニー先生はやはり低い声で答えると同時に階段を掛け上がり、あっという間に三階についた。ついてくる生徒はいなかったので、そのまま教室まで戻り私を下ろしてくださった。
「なにがあった?」
エドワード様は私の様子を見てラドニー先生に顔を向けながら、私を抱き寄せた。
「本館の階段を上ろうとしたら例の令嬢が追いかけてきて、二階に着く直前アリシア様の肩をつかみ引き寄せたため、アリシア様が階段から落ちそうになりました。申し訳ありません」
「いや、今無事にもどってきたということは、ラドニーがアリシアを助けてくれたのだろう。ありがとう」
私はエドワード様とラドニー先生の会話を聞いていたけれど、頭には全く入ってきていなかった。呆然としたままエドワード様の腕の中にいた。
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