82、レオナルド・スチュアート side 憂色
次の日の帰りの馬車で
「執務が忙しいという理由にして参加するつもりはなかったのだが……」
ふいに出た新入生歓迎会の話題について話しているとき
「私は行かなければならないようなので、エド……が参加してくださると心強いです」
「!」
は? 今、私のかわいいアリシアがエドって言った……? 愛称で呼ぶのは家族か、よっぽど親しいかのどちらかである。
「アリ、シア? 呼び名が……?」
「僕がアリだけの愛称で呼んでほしいって言ったんだよ」
勝ち誇った顔のエドワード王子に思わず全力で嫌な顔をしてしまった。
アリシア、私のことはお兄様としか呼んでくれないのに。
「アリが参加するならエスコートは僕だから参加するよ。ただし、全生徒参加であれば対策は必要だね」
「はい。進行表と配置図を明日にはお渡しします」
仕事は仕事と切り替えてやるが、さきほどのダメージは大きい。ツラい。
エドワード王子はそれからもことあるごとにアリシアにベタベタと触るので
「あー……そういうことは私がいないときにしてください」
私はエドワード王子からぺりっと剥がしてアリシアの肩に腕を乗せ抱き寄せた。
私の前で私のかわいい妹に気軽にさわらないでいただきたい!
さらに嫌なことに今日はアリシアが城に行く日である。一度家に寄るとのことだったので、この際、アリシアについてエドワード王子に質問をした。
「エドワード王子は睡眠のためにアリシアが行くことはご存じなのですよね」
「知っているよ」
「でしたら、速やかに睡眠をとらせるようにしてくださいね」
私が笑顔で話すとエドワード王子ははぁとため息をつき、王家や公爵家に恥じない行動をすると約束してアリシアを連れていった。
アリシアがいない時間、考えたくない事態を心配して手につかなくなりかけたので、極力無になって執務をした。
次の日、私はエドワード王子に渡す書類を父上に託し、早くアリシアを迎えに行くように仕向けると、私自身は執務の続きをしていた。
馬車の音がしてアリシアが帰ってきたのを知り慌てて下に降りると、父上がアリシアを抱いて入ってきた。理由を父上に聞くとダンスの練習のしすぎで歩けなくなったらしい。どうして動けなくなるまでさせるのだ。
真面目に仕事をしていてよかった。時間ができたので、帰宅後のアリシアの移動はすべて私が抱くことにした。最初は遠慮していたようだが、夜になるとアリシアから両手を差し出してくるのが心底かわいい。
それにしてもアリシアは軽い。運動をしてたくさん食べれば睡眠も安定するのではないだろうか。
「アリシア、私ともダンスのレッスンをしようね」
微笑みながら話しかけると、はいと答えてくれた。
アリシアが笑ってるうちはまだいい。元気ならなおさら。
最近は稀だが、ふと思い出されるのは私だけが知っている以前自殺未遂をしたときのアリシア。それを思い出しては胸がチクチクし、心が苦しくなり、どうにかしなくてはと気ばかりが滅入る。今は生きようとしてくれているが、どこで転ぶかなんて誰にも分からない。
あのときの記憶が私の中にある限り、アリシアにしつこくつきまとう。あんな思いは二度としたくないから。
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