76、ヒラリー・オフリー side 感興(かんきょう)
私の名前はヒラリー・オフリー。
男爵令嬢で、一応生まれながらの貴族ではある。
私が小さい頃は病弱で、外に出るとすぐに風邪を引いては熱を出していた。そんな私を心配した両親は、領地の農民に栄養価の高いいろいろな種類の野菜を研究させ育てさせた。
両親は私に食べさせるだけでなく、その野菜を王都でセット販売したところ、たちまち人気となり、農業成金と呼ばれるくらい領地は潤った。
両親はすぐに農民のために領地を整備し、製品の流通もしやすくなった。さらに製品は売れるようになりやがてオフリーブランドと呼ばれ飛ぶように売れた。
ある日、両親はめずらしく私を着飾らせた。領地経営で潤ったお金は自分たちにはあまり使わず、普段から今までと同じ質素な生活をしていたはずなのに、今日は両親も正装をしていた。私がちょうど七歳の時である。その頃にはだんだん風邪も引かなくなり外出もしていたが今日はいつもの外出とも違った。
「お父様、お母様、なぜドレスを着るのですか?」
「今日は国王陛下が視察にいらっしゃるんだよ。領地のみんなの頑張りを見に来てくださるのだよ」
「私もご挨拶するのですか?」
「どうかなあ。陛下へはお父様がするから、時間があればヒラリーは王子殿下にご挨拶するんだよ。今日は王子殿下も一緒に視察に来られるからね」
「!」
私はワクワクした。絵本に出てくる王子殿下とお話できるかもしれない。国王陛下一行が到着すると、お父様たちはぎこちなくも挨拶をしていたので、お母様の後ろからそーっと覗いてみた。
金髪で金色の目をした陛下と、陛下によく似た男の子がいた。私と同じ歳だと聞いていたが、とてもそうは見えず、キラキラとしていた。まるで絵本に出てくる王子様と一緒だわ。
すると王子様と目が合い、ペコリと頭を下げられたので、私も慌てて頭を下げた。王子様と目が合ったことに私の頭の中は大興奮であった。
結局、それ以降挨拶できる時間もなく農地を見に行かれ、視察は滞りなく終わり、国王陛下一行は次の視察に向かわれた。私はこの日の出来事をずっと忘れないと思う。
そして時は過ぎ、私は学園の入学式で殿下と再会した。もちろん挨拶を交わしたわけでも目が合ったわけでもない。ただ、私が見つめていただけだった。殿下は同じ方向にずっと目を向けていて、どなたかを見つめているようだった。
誰に目を向けていたのかは式が終わってから判明した。式が終わった途端、殿下は足早に男女のグループに近づき、驚くぐらい綺麗だけど、顔色の悪い女生徒の向かい側に座られた。とても真剣な顔で回りの人に指示を出しているようだったが、私も教室に移動しなくてはならないため会場をあとにしたので、その後のことを知らない。
学園は成績順でクラス編成がされると私は知っていたので、殿下と同じクラスになることを目標にひそかに勉強をがんばってきた。だが、男爵家では家庭学習するのにも限界があり、AクラスではなくBクラスであった。
男爵家からBクラスに入るのも異例だったようで、回りは高位貴族のお子様たちばかりであったが、家の野菜のことを知ると家の野菜のファンが多く、意外にも仲良くさせてもらっていた。
入学式以来、殿下やあの綺麗な女生徒を見かけることはなく、気にはなっていたものの毎日の生活を送っていた。
勉強は難しく、毎日ついていくのが大変で、帰りに図書室で調べものをするのが日課となっていた。調べものが終わると本を一冊借りて帰るのが毎日の楽しみであった。特に王子様が出てくる本が大好きで、庶民に流行ったという『令嬢の恋』は何度か借りるほど好きだった。
私も男爵令嬢だけれど、平民出身ではないのよね……。
心の中で残念に思いつつ、家の迎えの時間まで毎日放課後は図書室で過ごしていた。
毎日図書室で過ごしていると、同じく毎日来ている人の好みがだんだんわかってくる。
あの先生は私と一緒で王子様の本がお好きなのよね。あの人は歴史の本が……。あの最近くるようになった人は馬の本をよく読んでるわね。
はしたなくもキョロキョロしていると、馬の本を手にした女生徒と目が合い、女生徒が私の方に歩いてきて話しかけてきた。
「こんにちは。本が好きなの? 私とお友だちにならない?」
最近、図書室に来るようになったその女生徒はいつも馬の本を手にしていたので『令嬢の恋』の主人公みたいで気になっていた。主人公は馬術をしてみたいと馬の本をよく読んでいたのだ。
「あなたはどんな本が好きなの?」
「私は馬に乗ってみたくて……だからよく馬の本を読んでるわ。一度草原を駆けてみたいのよ」
主人公とまるで一緒だわ。私はこの女生徒に興味を持った。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや高評価★、感想など頂けるとうれしいです。
励みにしますのでぜひよろしくお願いします(*^^*)




