70、羞恥
一度、エドワード様の胸に顔を埋めてしまうと起き上がるタイミングを私は失ってしまっていた。エドワード様が私をぎゅっと抱き締めていることもあり、しばらくそのまま動かずにいると、エドワード様の声がした。
「アリ、僕は今幸せすぎて離れたくないのだけど……起きなければならない時間になってしまったようだよ」
私は顔を上げると、エドワード様の金色の瞳が私を見て、うっとりするような顔をした。この方のこの表情はきっと私しか知らない。そのことが私をうれしく思わせていた。
扉から控えめなノックの音がして思わず扉の方を見ると、もう一度ノックの音がした。エドワード様の方に目を向けると残念そうな顔をしながらも、私に軽く当てるだけのキスをして起き上がり、私をシーツの中に隠した。
「アリ、侍女がきたから湯あみをしておいで。そのあと一緒に朝食を取ろう」
私は起き上がり、手近にあった上着を羽織ってから侍女と部屋付きの浴室に行った。さすがに夜着で廊下には出られない。侍女に手伝ってもらいながら準備をすませると、入れ替わりにエドワード様が侍女を連れずに浴室に行った。
髪を整えてもらっていると、エドワード様は頭にタオルを掛けつつも、髪の毛から滴を落としながら部屋に戻ってきた。かっこよすぎて目が離せない私の方に気がついたようで、ふわっと笑った顔をしてエドワード様は私に近づきキスをした。
「殿下、ちゃんと髪をお拭きください」
侍女の言葉に「はいはい」とエドワード様は答え、がしがしとタオルで頭を拭いた。どの動作もかっこよくて、改めて私はエドワード様が大好きなんだと気づかされる。
侍女に髪を整えてもらうのが終わると、エドワード様はいつもの整った姿で侍女に朝食を頼んだ。
「アリ、朝食にしよう。お腹減ったでしょ?」
侍女たちは部屋のテーブルに朝食を用意すると、扉の外にいますと告げて退室していった。
「アリ、いただこう」
ニコニコと笑うエドワード様につられて、私も笑顔になる。
朝食はここで過ごしていたときとかわらずおいしい。夕食を食べていなかったからか完食でき、エドワード様もうれしそうだった。
学園に行く時間になり馬車に乗り込むと、まずは公爵家に向かう。お兄様を迎えに行くためだ。
「アリ、こっち向いて」
「はい……」
と振り向いた途端、エドワード様に唇を奪われた。昨日からずっと頭の中まで全身が甘い気がする。
「アリ……エドって呼んで……」
キスの合間に言われ、ボーッとしながらキスをされつつ答える。
「エド……エド……エド……」
するととびきりな笑顔を見せるエドワード様に私はうっとりとした。
「アリ、ありがとう。でもアリのこの表情はレオナルドには見せられない」
そう言うと、エドワード様は侍従にこの辺りを一周するように告げた。
「エド……大好き……」
エドワード様は私をぎゅっと抱き締めて
「公爵家に行きたくない、学園に行きたくない」
と呪文のように唱えていた。
顔の火照りも落ち着いた頃、公爵家に馬車が着き、レオナルドお兄様が馬車に乗り込んできた。
「エドワード王子、アリ、おはようございます」
「おはようございます」
「あれ? アリどうかした? 熱でもある?」
するとお兄様は額に手を当てて心配そうな顔をした。
「元気ですよ。大丈夫です」
私はにっこり笑いながら言うと安心したようで、お兄様も笑顔になった。
「エドワード王子に何かされたのかと思って心配したよ」
私は固まりつつも笑顔は崩さなかった。
「エドワード王子、昨日の放課後サイテスらと話されましたか?」
「いや、話していない」
「では教室に着きましたら報告があると思います」
私たちは他の生徒とあまり会わないようにするため、かなり早めに学園に来ている。馬車の方は私たちが降りた後は公爵家の方に待機するようにし、王家のそれとは一見わからない。
学園につくといつものように、タキレス様たちが待っていてくださり、みんなで生徒会室奥の教室まで行く。今後は毎回このスタイルになりそうだ。
「殿下、ご報告があります」
サイテス様がエミリー様をチラッと見ると、エミリー様とアンジェリーナ様が私を教室の隅の方へと連れていった。
「あら? アリシア様、体調はいかがですか? 少しお顔が赤いです」
エミリー様が心配そうに顔を覗くので大丈夫だと伝えた。私は顔に出やすいのかしら? 今までこんなことなかったのに。
「それにしても、殿下はアリシア様大好きですわね」
「ほんとに」
アンジェリーナ様とエミリー様が暖かく見守るような目をしながら微笑んだ。
「まさか、二人だけのクラスをお作りになられるとは思いもしませんでしたわ」
「あ、でも、そのお陰で私たちは誰にも邪魔されずにアリシア様とお話できてうれしいです」
二人はニコニコと笑い、私も誰を気にすることなく話せることはうれしく思っていたが、二人の言葉に恥ずかしく思って顔を赤らめていた。気を取り直して違う話を振る。
「お昼ご飯は教室で食べてもかまわないのですか?」
「はい。食堂に注文を出すこともできますよ」
「ではみんなでここで食べるのもいいですね」
「まあ、ではお茶会の用意をしたら、サロンのようにも使えますわね」
アンジェリーナ様はうれしそうにお茶会の提案をし、女子三人はお茶会の話に移行した。
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