7、失意
熱もやっと下がりすっきりした朝を迎えた。
私はノートを引き出しから取り出し、夢で見たことを書き出した。
『十四歳の学園の入学式でエドワード王子が新入生代表の挨拶をする』
『入学式が終わり教室に移動するときに私にぶつかってきて倒れたマリアンナ・ブラウニング男爵令嬢を助け起こすエドワード王子』
『あまりお勉強ができないマリアンナ男爵令嬢に教育係としてつくエドワード王子』
『毎日お昼ごはんは一緒に食べていたが、だんだん忙しいといって断られるようになる』
『マリアンナ男爵令嬢にエドワード王子を解放してと言われカッとするが、マリアンナ男爵令嬢が急に泣き出し、通りかかったエドワード王子に叱られる→私がマリアンナ男爵令嬢に解放してと言ったことになっていた』
『教科書が見つからなくなり探していると破られて捨てられていた。教科書の内容は覚えていたから一日ぐらいなんとかなると思って授業を受けていたら、私に対する嫌味だとマリアンナ男爵令嬢に泣かれる→教科書がダメになって泣きたいのは私』
『マリアンナ男爵令嬢が目の前で転けたので、手を貸そうとしたらマリアンナ男爵令嬢が私に足を引っかけられたと泣き、エドワード王子に責められた』
『お昼ご飯を一人で食べているとマリアンナ男爵令嬢からエドワード王子と一緒に食べている私への当て付けかと切れられたのち、エドワード王子に泣きついたようで、気分を害するから自分らが見えるところで食べるなと言われる』
『馬車をもたないマリアンナ男爵令嬢から、うちの馬車を譲れと言われる。さすがにそれはできないと断ると、エドワード王子が毎日マリアンナ男爵令嬢の送り迎えをしていた』
『学内のお茶会のエスコートをエドワード王子に断られる。マリアンナ男爵令嬢からエドワード王子に近づくなと言われ、全員出席のお茶会を休む。後に私がお茶会に行かないと言ったから、マリアンナ男爵令嬢がかわりにつとめたということになっていた』
こんな感じだったかしら。思い出したらまた書きましょうかね。それにしてもひどい内容だわ。濡れ衣しかないじゃない。泣けてくるわ。
ノートを片付けると、朝の支度をしようとエマを呼ぼうとしたら、エマの方が先にきた。
「おはようございます。お嬢様、体調はいかがですか?」
「今朝は気分も体調もスッキリしているみたい」
「それはよかったです。では朝食はいかがいたしますか?」
「みんなと食べたいから支度をおねがします」
「はい。では今日はこの黄色のワンピースはいかがですか?」
「それにします」
着替えを手伝ってもらうと、次は髪を結ってもらう。支度が終わると食堂へと急いだ。
「おはようございます」
「おはよう、アリ」
お兄様がすでに席についていらした。
「アリ、熱が下がってよかったね」
「はい。ご心配御掛けしました」
「寝てるときにうなされてたみたいだけど、何の夢を見てたの?」
「? さあ、覚えていないです」
「ふーん」
夢の内容をお兄様にいうわけにはいかないから、とりあえず首をかしげると同時にお父様とお母様がおいでになり、朝食が始まった。
「アリ、元気になったようでよかったわ。でもしばらくは部屋でおとなしくしてるようにね」
「はい。お母様」
「王妃教育もしばらくお休みになっているから気にしなくて大丈夫だよ」
「はい。お父様」
ん? お休み?
ってことは婚約は継続してる?
婚約は解消できてない?
「お、お父様、婚約の方は……」
「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。これぐらいでは解消にはならないからね」
お父様はニコニコして話されるが、私は内心ガックリきてた。ならないのか……。
が、表情には出さずに「そうですか」とだけ答えた。
なかなかうまくいかないわね。こっそりため息をついた。