59、兄妹
「ダメダメダメダメ、ダメに決まってるでしょぉお!」
お兄様が烈火のごとく怒りながらエドワード様の自室に入ってきた。私は慌てて立ち上がるが、美形が怒ると非常に怖い。昨日プロポーズされてからまだ半日しか経っていないのに誰に聞いたのだろう。
私を見つけたお兄様は私しかいないことを確認すると表情を変えて私の肩を掴み、
「アリシア、エドワード王子に何かされてない? 十六で結婚だなんて早すぎる! 当初の予定通り卒業してからじゃだめなの?」
「あ……えっと……」
私が答えられないでいるとお兄様は更に言う。
「アリシア、記憶も戻ったことにだし、うちに帰るよ。未婚の女性がいつまでも他人のうちにいてはいけないよ」
「う……えっと……」
どうしよう。今エドワード様は陛下のところに行って不在にしている。
「お兄様、家に帰るのはもう少し待っていただけませんか?」
「どうして?」
「あの……えっと……まだリハビリ中でして……」
「リハビリはうちでもできるよ」
「それに今日の午後、王妃様に来るように言われていまして……」
「……ホントに?」
「先ほど侍女から知らせをもらいました」
「……それなら今連れ帰るのは無理か……」
お兄様が来てから、お互いに立ったままなのに気がついて、何かぶつぶつ言って未だに腑に落ちない顔をしているお兄様に声を掛けた。
「お兄様、このあとしばらくしたらリハビリがありますが、それまでお茶を飲んでいかれませんか?」
私はお兄様が椅子に座るのを見て、廊下にいる侍女にお茶を頼んだ。先ほどのお兄様の剣幕に、部屋に入るかどうかを悩み扉の前で控えていてくれてたようだった。
「殿下に知らせますか?」
「お兄様なら大丈夫ですよ。それよりもお茶をお願いします」
「承知しました」
お茶とお菓子をすぐに用意してくれ、そのまま侍女は退室していった。
私が隣の椅子に座ると、お兄様はがばりと私を抱き締め静かに言った。
「アリシア、アリシアはどうしたいの?」
私はどうしたいのかしら……。昨日、成人後すぐに結婚してほしいと言われたが、私の中では時期よりも結婚してほしいをクローズアップしていた。でもエドワード様のことだから、時期を早めることに意味があって言っているはずで……。
「お兄様は時期を早めることに反対なさると思いますが、マリアンナ・ブラウニング嬢の対策としては一番有効だと思ってます」
私はゆっくり言葉を選びながら話す。
「彼女がエドワード様を狙っている限り、名実ともに、私が妃だと知らしめる方が牽制できると思います」
お兄様は私を抱き締めたまま話す。
「私はアリシアの一番の味方でいたい。アリシアが結婚して早く家を出たいというのなら仕方がないとは思う」
「早く家を出たいわけではないです……私はエドワード様も家族も大事です。どちらも大事なんです」
「……ごめん、少し意地悪な言い方をしてしまった。アリシアの味方でいたいのは本当だよ。でもね、この一ヶ月、うちは明かりが落ちたように暗かったんだ。アリシアがいないだけで他は何も変わらないのに……」
「お兄様……」
「それに結婚の時期は家同士の話し合いになると思うけれど、その話し合いの前にアリシアはうちに戻っておいで。アリシアはスチュアート家の娘として、グレイスリー家と話し合いすべきだと思う」
「そうですね……」
お兄様の言うことも分かる。未婚の女性が婚約者のうちにずっといることは異例であることから今も極秘扱いとなっているし、王族の住居区は今は入るのに厳しい制限がかかっている。
記憶の治療を理由にしているのであれば、治療が終わった今、すぐに家に戻るべきである。それは分かっているけれど、エドワード様に抱き締められて眠ることが今は一番うれしいとは口がさけてもお兄様には言えない。
「分かりました。うちに戻る日を今日にでも相談して決めたいと思います」
「アリシア、ありがとう」
お兄様は私を抱き締めていた腕をさらにぎゅっとした。痛い……。
「お兄様、そう言えば学園の方はいいのですか?」
「今日は午後から行くと伝えてあるから大丈夫だよ。だから、アリシアのリハビリを見させてもらってもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
ここでようやくお兄様の腕から解放され、紅茶を一口飲む。少し冷めてはいるが飲みやすい。
その直後、エドワード様が慌てた様子で部屋に入って来られた。
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