57、融合
目が覚めると、エドワード様の腕の中にいた。
「えっ? はっ! えっ?」
私は驚いてエドワード様の膝からおりようとするが、エドワード様の腕はピクリとも動かない。動かせない。
「エドワード様?」
「アリシア……もう少しこのままでいさせて?」
「どうかなさったのですか?」
エドワード様の様子がなんだかおかしい。何かは分からないけれど様子が変だ。
エドワード様からの返事はなく、しばらくしたら「ごめんね」と言って私を膝からおろした。
「執務が溜まっているから執務室で仕事してくるね。アリにはお茶を用意させるね」
「……はい」
私は何かしてしまったのだろうか。執務室で仕事だなんて、私が来てからは初めてのことだ。治療中に何かあったのであれば私には分からない。何か失望させてしまったのだろうか。
しばらくすると侍女が紅茶とお茶菓子を持ってきてくれたが、心がもやもやして一口も手をつけられなかった。
今日はお兄様から「都合がつかず伺えない」と連絡があったため、面会の予定はない。
一人でエドワード様の部屋でエドワード様の帰りを待っているのが心細く感じてきたころ、ひどい頭痛がしだした。しばらく経っても頭痛は治まらず、頭が割れるような痛さで、私は意識を保てず気を失った。
「エドワード……さ、ま……」
意識を失った後、私は夢を見ていた。私が小さい頃や、エドワード様と出会った頃、王妃教育に励んでいた頃。そして前世を夢に見て苦しんでいた頃、エドワード様に愛されるようになった頃。
ゆっくりとゆっくりと夢を見た。
そして、私が記憶を失った頃にたどり着くと、今まで部屋の中の景色だったのが、何もない空間になっていった。するともう一人の私が現れてゆっくりと私に近づいてきた。
「今まで見てきた夢が私が持っている記憶よ」
「どうして?」
「エドワード様に戻ってきてほしいって、泣いて言われたわ」
「……」
「今まで逃げてごめんなさい」
もう一人の私を見ると、もう一人の私は私に抱きついたと同時に跡形もなく消えた。私は自分の体を見る。見ているうちにだんだんと、楽しかった感情も嬉しかった感情も、怖かった感情も悲しかった感情も、そして愛しい感情も……あらゆる感情を思い出した。
私が元の私と合わさり、一人に戻ったのが分かった。
私は夢から覚め、ゆっくりと目を開けた。
「エド、ワード……さま……」
ひどくかすれた声が出て、私は自分に驚く。起き上がろうとするとあわててとめられた。いつの間にか私はベッドに移されていたようだった。
私をあわてて止めたエドワード様は水差しからコップに水を入れ、私の背中を支えながら水を飲ませてくれた。
「アリ、おはよう。気分はどう?」
「おはよう、ございます。気分は、悪くないです」
声はひどく掠れたままで、少し恥ずかしく思った。
「アリ……。よかった……。もう目覚めないのかと……アリの青い瞳がもう見られないのかと……怖かった……」
「え?」
そんな大袈裟な……。と思っていると
「アリは一週間、高熱でずっと寝たままだったんだ……。医師に知らせるよう侍女に伝えるから少し待ってて……」
一週間……?
たしかに、長い長い夢をみていた感覚はある。いつの間にか夜着を身に纏っているし、声も掠れている。何よりエドワード様がかなりやつれていたのが気になった。
お医者様の診察を受け、熱は微熱に下がり、意識もあることから食事を始めるように手配された。具のないスープなどから始まるようだ。
私の体力という体力はごっそりとなくなり、起きてエドワード様と話をしたいのに瞼が重い。エドワード様に手を伸ばそうとすると、エドワード様から手を握ってくださった。
「アリ、ここにいるから……。そばにいるから……」
私は頷き、ゆっくりと目を閉じると、そのまま意識を失った。
この物語はフィクションとしてゆるーく、ゆるーく読んでお楽しみください。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや高評価★、感想など頂けるとうれしいです。
励みにしますのでぜひよろしくお願いします(*^^*)




