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55、エドワード王子 side 希望

 

「殿下、治療時に同席されませんか?」


 今まで結果を聞くしかできなかった僕に入室が許されることとなった。

 アリの滞在がもうすぐで区切りの一ヶ月になることも要因かもしれない。


「分かりました。では今日の午後、一緒にお伺いします」


 僕の予定のために医務室に向かうのは午後にしてもらい、その間、アリシアにはゆっくり過ごしてもらうことにした。


「エドワード様、図書室で本を借りてきますね」


「いってらっしゃい」


 そのままアリに口づけをすると、アリは顔を赤くしたまま部屋を出ていった。


 記憶喪失前の記憶があったアリシアと、記憶喪失後の記憶がないアリシアとでは、基本的には変わらないが、記憶があったアリシアの方が僕への依存度が高かったかもしれない。今の方があっけらかんとしていて、王族の住居区に限られるが、侍女を連れてどこにでもスタスタ行ってしまう。


 僕は執務の続きをする。アリシアが本を探しに行くと三十分は掛かる。しばらく仕事に集中していると、三十分ほどして戻ってきたアリシアの手にはいくつかの本があった。


「読みたいものはあった?」


「『ランスーの冒険』があったので借りてきました」


 アリはこの冒険ものの本に惹かれるらしい。これは前のアリも大好きだった本だ。


「アリはこのシリーズが大好きだね」


「この本は行ったことがない場所をたくさん紹介してくれるので、読んでると楽しいのです」


 アリは椅子に腰かけると、静かに本を読み始めた。姿勢正しく読む姿はとても美しく、僕は少し眺めた後書類に目を戻した。


 午後、約束の時間になり、アリと一緒に医務室に行った。


「エドワード殿下、アリシア様お待ちしておりました」


 医師はソファーに案内し、僕とアリに紅茶を用意した。


「どうぞ」


 僕らは受けとり、一口飲む。ふわりと花の香りがしてリラックスする。アリも自然と笑顔になっていた。


「では始めましょうか」


 医師がそう言うと、アリは返事をして医師の目を見る。いくつかやりとりをすると、やがてアリの意識は落ち、心の奥に隠れていたアリが出てきた。


「今日は殿下もいらっしゃいます」


「……」


「アリ……」


 僕が声を掛けるとびくっと体が動いた。


「アリ、僕が愛してるのはアリシアだけだよ。覚えていてね」


「……」


 しばらく沈黙が続いた。


「エドワード様、逃げた私に会う資格がないのはわかっています……。

 けれど、あなたにだけは……たまにでいいから、会いたい……」


 僕は会いたくない、婚約破棄したいと言われることを覚悟していたので驚いた。


「アリ……。僕は自惚れてもいいのかな? 戻ってきたらいつでも会えるよ」


「……エドワード様」


「アリ、戻ってこないか?」


「……この数週間、私はエドワード様からの愛情をずっと感じていました……。心が毎日満たされ……私が逃げたのは間違いだったのではないかと思うようになりました……」


「アリ……僕のために戻ってきてくれないか? 僕のためでもダメなの?」


「……」


 僕はアリを必死で何度も説得していた。


「アリ、僕の元に戻ってきて。僕はアリを諦めたくない」


「でも今さら戻るのはむしがよすぎる……」


 固かったアリの心は次第に解けだしたように感じた。


「僕はアリがいないとダメなんだ。アリがいないと……」


 しかしそのまま反応がなくなり、アリの寝息だけが聞こえた。


「今日は終わりにしましょう」


 医師から告げられ、僕はアリを抱いて部屋に戻った。僕はアリと離れがたくて、アリを抱いたままソファーに座った。



この物語はフィクションとしてゆるーく、ゆるーく読んでお楽しみください。





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