35、エドワード王子 side 悲恋
「あ、の……エドワード王子はなぜ私に……」
「エドワード様」
「え?」
「アリは僕のことをエドワード様って呼んでたよ」
「エドワード……さ、ま?」
「うん。一つずつゆっくり教えるから、まずは診察を受けてね」
呼び名さえも忘れられていた。僕は所詮、その程度にしか思われていなかったのだろうか。
なんだかおかしくなってきた。僕だけが、両思いだと思っていたらしい。
僕は王城の医師に相談し、睡眠療法を勧められた。王城のものはみな身元がしっかりしていて信頼はしているが、念のため知り得た情報を漏らさないよう改めて契約をした。
アリは医師の誘導に答え次第に眠り、眠りながら質問に答えているように見えた。不思議な感じだった。
「あなたは誰ですか?」
「私はアリシアです。アリシア・スチュアート」
「アリシア様はどうして自分の記憶を、存在を消したのですか?」
「私が望んだから……」
「なぜ望んだのですか?」
「私は邪魔だから。私がいたらエドワード様は幸せになれない」
僕の心臓が跳ねた。僕の幸せ?
「どういうことでしょう?」
「……私がいたらエドワード様はマリアンナ男爵令嬢と出会って愛し合えない。……私ははじめから存在してはいけなかった……」
「僕は……エドワードはアリシアだけを愛している。僕の幸せはアリシアと共にいることだ!」
たまらず医師の質問に割って入った。
「それは出会ってないから……。エドワード様が愛するのは私ではない。だから私は消えたいのです……。
私はエドワード様の幸せの邪魔をしたくない……。でも、エドワード様がマリアンナ男爵令嬢を愛する姿を見るのは……きっとたえられない……私は消えてしまいたい……」
アリの目から涙が流れ落ちた。
「なんで……なんで分かってくれないんだ! 僕にはアリだけなのに……」
「私が消えることをお許しください……。アリシアははじめからいなかった……と……」
「許さない! 嫌だ嫌だ嫌だ! アリシア!」
僕は医師に後ろから両腕を捕まえられていた。これ以上の治療は無理と判断した医師により、今日の治療は断念した。
これからも治療は続けることにしたが、僕の同席はしばらくは控えてほしいと伝えられた。そして治療中のことはアリは覚えていないだろうとのことだった。
僕はアリを医務室から僕の部屋のベッドに移動し寝かせた。
しばらくすると、アリは目覚め起き上がり、そして声をあげて泣きじゃくった。僕はアリを抱きしめ腕の中に閉じ込めた。
アリはしばらく泣きじゃくったあと、ゆっくりと僕の方を見た。すると、両手で僕の頬を挟みしっかりと僕の目をしばらく見つめた。そしてニコッと笑ったのだ。
今は催眠療法中ではないから僕との記憶はないはずなのに、親しげに笑ってくれた……。
たまらず僕はアリの頬を手で挟み、アリの顔を引き寄せて食むようにキスをした。アリとは初めてのキスだった。
「な、んで……」
「なんでだろうね」
僕は初めてキスをしたというのに嬉しかったのと同時に悲しかった。それでも僕の笑顔が大好きだと言ったアリには笑顔を見せたくて微笑んだ。
ちゃんと笑えているだろうか。
この物語はフィクションとしてゆるーく、ゆるーく読んでお楽しみください。
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