152、満喫
エドから部屋で待つように言われた私たちはアンジェリーナ様とエミリー様と用意されていた席に座り、おしゃべりに花を咲かせていた。
「それにしても、どうして急に休講になったのかしらね」
アンジェリーナ様がふと思い出したかのように言うと、私もエミリー様も首をかしげた。
「こういうことはあまりないのですか?」
「そうね……当日知らせる場合は自習になることはあっても、突然休講になったのは私が知る限り初めてだわ」
「なにか緊急な何かがあったのかしら?」
「心配……になりますね」
「でも何かあったらタキレスが言うから、心配事ではないと思うわ」
「まぁ! タキレス様はアンジェリーナ様には何でも話されるのですか?」
エミリー様は興味津々に聞くと
「どうかしらね……全部ではないかもしれないけれど、私が知りたいことは聞けば言ってくれるかな……」
「そうなんですね」
エミリー様は目をキラキラさせ、アンジェリーナ様は少し頬を赤らめた。
「アリシア様はどうですか?殿下は……」
と話しているところで「コンッコンッ」とノックの音がした。
「はい」
私が答えると、お菓子や飲み物を運び入れるために侍女が入ってくると思っていたら、入ってきた方たちを見て私たち三人は固まってしまった。
「!?」
「お待たせいたしました」
エドをはじめとする四人を見て私たちが反応できないでいると、サイテス様がカップなどを配り、エドが紅茶を入れていく。タキレス様とバートがお菓子の大皿を配置するとそのままいくつかを皿に取り分けて配る。
優雅な動きで配り終わった四人はにこやかに笑いながら部屋を退室していった。最後にお辞儀して出ていくまで、私たちは固まったまま目が離せなかった。
「きゃ……きゃーー!」
「なんでなんで!?」
「か、カッコいいっ」
三者三様に反応しているものの、紅潮しうれしそうな顔は三人とも一緒だった。キャーキャー言いながら頬を隠すように手を置くエミリー様。困惑しつつも顔を真っ赤にするアンジェリーナ様。エドがかっこよすぎて目が離せなくなった私。なんなの! このサプライズは!
落ち着くために紅茶を一口飲むと、イチゴの香りが鼻腔に広がり、興奮した状態を少し落ち着けることができた。
「ふふっ、執事の服を着てらしたわ」
私がそう言うとアンジェリーナ様は上を見て何かを思い出すように目を細めた。
「私、殿下に紅茶を入れていただくなんて……。それにタキレスの燕尾服、似合ってたわ」
アンジェリーナ様はそのまま紅茶を飲むと、「おいしい」と呟いてふわりと微笑んだ。
「バート様は元は男爵家だと聞いてましたが、とてもそういう風には見えませんね。一番優雅な動きですわ。サイテス様のぎこちない動きがとても可愛らしく思えてしまいましたわ」
意外とするどいエミリー様はニコニコしていた。サイテス様は私から見るとがっちりした体で背も高いので少し怖かったのだが、エミリー様には可愛らしく見えるのだなあと思うとなんだか微笑ましい。
「ふふっ、では運んでいただいたことですし、いただきましょう」
私が声をかけると二人は良い笑顔をし、その後はワイワイ言いながら三人でお菓子を食べた。三人ともこんなに楽しいお茶会は初めてだと大いに楽しんだ。その間、執事に扮した方たちが何度か給仕に来る度に私たちの会話はものすごく弾んだ。
◇
会が終わりそれぞれが帰路についた。私はバートと帰ろうとしたらエドがそれを許さなかった。私はエドとともに城に残り、エドの自室のバルコニーで隣同士にソファーに座っていた。
「今日はありがとうございました」
「ん?」
「エドがいろいろ手配してくださったから……でしょ?」
クスクス笑いながら言うとエドはニッコリと笑った。
「楽しく過ごせた?」
「はい。とても」
そう答えるとソファーに縫い付けるように、私を両腕で挟んだエドは、私を見つめると軽いキスを何度もした。
「これ以上やると止まらなくなりそう」
エドは優しく微笑むと私を膝の上に乗せ、後ろからそっと抱きしめた。
「そうそう、サンドイッチおいしかったよ。バートがエマから言付けをもらってたからみんなでいただいたよ」
「まあ、エマったらいつの間に。私もエドが用意して下さったイチゴのショコラタルトがおいしかったです。いつ食べてもおいしい」
ついついケーキを思い出して顔がほころぶ。
「ショコラタルトを食べさせるのは僕の仕事なのに。てっきりお茶会に僕を呼んでくれるかと思ってたのになあ」
「えっ!」
とエドを見ると「次は二人でお茶会しようね」とチュッと口付けをされた。




