150、タキレス・ケイフォード side 一途
今日は学園を早退したため、オルコット家の屋敷でアンジェリーナと一緒に食事を頂いた。あまり食欲もないのでアンジェリーナが軽食を頼むと、トマトとバジルのパスタ、サラダ、コンソメスープ、フルーツを用意してくれた。
「食欲がなくても、今日はしっかり食べておいてください」
オルコット家の老齢の執事が優しい声色で言う。今日はこれからレオナルド様のお別れ会があるからだろう。私は公爵家の一員として、アンジェリーナは学校の代表としてクラスの全員が出席することになっている。
「そうね。わかったわ」
アンジェリーナは素直に頷くが、食べられたのは普段よりも少な目だった。食べ終わってからアンジェリーナの部屋に向かうと、侍女が紅茶をいれてくれて一息ついた。
「タ……タ……」
「タ?」
向かえに座ったアンジェリーナが壊れたおもちゃのような動きをしていた。
「タキレス、い、いつもあり、ありがとう」
「?」
私が首をかしげると、アンジェリーナは顔を真っ赤にしながら早口で話始めた。
「あ、あのね、タキレスはいつもちゃんと言葉にしてくれるけれど、私はいつも思ってても言えてないから……。口にしないと、伝えないと……と思って」
言い終わったアンジェリーナは下を向いてしまった。私はアンジェリーナの隣に移動すると、そっとアンジェリーナの頭を撫でた。
「ありがとう。私もできるだけ伝えるようにするよ」
アンジェリーナは感謝はよく表す方だと思う。無意識だったのだろうか?
仲の良い同級生でもあるレオナルド様が亡くなって思うことがあったのだろう。私はなんだかもやもやする気持ちが沸き上がってきて、アンジェリーナの顔を上げキスをした。
◇
お別れ会ではアリシア嬢に寄り添うエドワードがいた。その姿は涙を誘うもので、アンジェリーナは涙が止まらなくなっていた。私はサイテスと先に入場して祭壇に挨拶をし、エドワードたちに頭を下げてから退室した。父上たちは残るようだ。
「サイテス、エミリー嬢は?」
「今からお見舞いに行ってきます」
「無理はしないように伝えてくれ」
「ありがとうございます。では先に失礼します」
エミリー嬢はレオナルド様の訃報を聞いてから体調を崩したらしく、今日は学園を休んでいた。
私はアンジェリーナから先に帰るように伝えられていたが一人で帰る気にならず待つことにした。
しばらくするとレオナルド様の執事のシンさんが私に気がつき挨拶に来た。
「タキレス様、お久しぶりでございます」
「シンさん……。お久しぶりです」
「レオナルド様のために来てくださりありがとうございます」
「いえ、私もずいぶん世話になっていたので。シンさんはこれからどうするのですか?」
「私はレオナルド様になにかあればアリシア様につくように以前から命じられていましたので、近々アリシア様につくことになるかと思います」
「そうですか。シンさんが付くならアリシア嬢も心強いですね」
「そう思っていただけるようにがんばります」
「シンさんなら大丈夫ですよ」
そうか。レオナルド様はこういう指示まで出していたのか。
その後シンさんとは分かれ、アンジェリーナが泣きながら戻ってきたのでアンジェリーナの屋敷まで送っていった。
◇
お別れ会も終わり、しばらくすると日常が戻るとともにエドワードたちが登校するようになった。最初は少し遠慮がありぎこちなかったものの、数日もすれば以前のように過ごすようになった。
以前と違うのはエドワードがとても忙しくなったということ。その補佐で私も忙しくなり、たびたび授業を抜けることがあった。その間のアリシア嬢の護衛として、サイテスとバートをクラスに残した。
バートは近いうちにスチュアート家に養子に入るということで試験を受け直してAクラスに入ってきた。試験は満点だったらしいとの噂があるがさだかではない。
「明日はいよいよお菓子パーティーをするのよ」
帰りの馬車の中、私の膝の上でウキウキしながら話すアンジェリーナを見ていると心が和む。あの日、レオナルド様の訃報を聞いた時から、アンジェリーナを膝に乗せてからの移動が多くなった。
「どんなお菓子を用意するのか決まったの?」
「いろいろなタルトにしようと思って、料理長と相談してるの」
ニコニコ笑いながら言うアンジェリーナはとてもうれしそうだった。後ろから抱きしめアンジェリーナの肩に頭を乗せた。
「アンジェリーナ、私も参加したい」
アンジェリーナがビクッとしたが、私は動かなかった。
「んー……。明日は女の子だけで三人でする予定だからまた次回ね」
「……」
思わず肩にぐりぐりと頭を押し付けると、よしよしと頭を撫でられた。




