148、アンジェリーナ・オルコット side 哀悼
私はアンジェリーナ・オルコット。今年十六歳になる。
父はカーランド・オルコット公爵であり、私はオルコット公爵家唯一の一人娘。母は体が弱く私が十一歳のときになくなった。父は母を溺愛していたため、その後再婚もせず私を育ててくれた。
母の体が弱かったことで兄弟が望めないこともあり、私は跡継ぎとしてわりと厳しめに育てられた。といっても公爵家は私の婚約者が継ぐことが決まってからはそうでもなくなった。
婚約者はタキレス・ケイフォード公爵令息で父親同士がとても仲が良く、タキレスも次男であったことからこの話は実現した。
「アンジェリーナ、僕はアンジェリーナが好きだよ」
「!!」
いつからだったか……タキレスはいつもクールな顔をしているけれど、何かしら気持ちを伝えてくれる。
「僕は表情が乏しいからね。言わないと伝わらないよね?」
そうなのかしら? 私にはよく笑いかけてくれるから表情が乏しいなんて思ったことなかったわ。そう伝えるとタキレスは首を傾げていた。
タキレスは婚約が成立したころ殿下と共によく励む子だったこともあり、父からは大絶賛され、母からはよくからかわれた。私が九歳のころだ。
「アンジェリーナ様、大好きですよ」
「まあ、タキレス、好きだって伝えるときはアンジェリーナの額や頬にキスもするものよ。じゃ、やり直し」
「アンジェリーナ様、大好きですよ。チュッ」
「!!」
「まあ、タキレス、キスをするときはアンジェリーナの肩に手を置くとか、腰を抱くとかするものよ。じゃ、やり直し」
「アンジェリーナ様、大好きですよ。チュッ」
「もう……もうご勘弁ください!」
真っ赤になる私はタキレスから少し離れて後ろに下がるとタキレスのにやっとした顔と、母のにやにやっとした顔が見えた。
からかわれるのはいつも私。
母が亡くなった時、私はタキレスとずっと一緒にいた。父は母が亡くなったとき泣き崩れタキレスのお父様に支えられてやっと歩けるぐらいで、私のことまで手が回らなかったからだ。もちろん、使用人の侍女たちは気遣ってくれたが、タキレスといる方が私は安心できた。
別れの会が終わり、お屋敷も静かになったころ
「お母様……もうお話できないの?」
「僕が、僕がその分話しますよ」
「うん……。もう泣いてもいい?」
「いいですよ」
人がたくさんいて泣くのを我慢していた私はそれを機にわんわん声をあげて泣いた。泣いている間、タキレスは側にずっといてくれた。最後は泣きつかれて眠ってしまった私の頭を膝の上に乗せ、私の目が覚めたときタキレスは私に言った。
「アンジェリーナ、僕が一生一緒にいる。たくさん話そう」
「……はい」
そうだ。この時からだ。この時からタキレスはたくさん話してくれるようになったんだった。
そんな時、タキレスから緊急の手紙が届いた。
『レオナルド・スチュアート様が亡くなられた』
え?
よほど急いでいたのだろう。タキレスからきた手紙では今までの中で一番の短文だった。
「レオナルド様が亡くなられた? どういうこと?」
夜になると父から盗賊に襲われたことを聞かされ、アリシア様は無事だったことも合わせて聞けた。
次の日、学園に通うためにタキレスが迎えにくると私たちは馬車に乗った。馬車が動きだししばらくすると、タキレスは少しずつ話してくれた。
「エドワードはアリシア嬢に会うために行ったんだ。それはそれは楽しみに……。それなのにこんなことになって……。エドワードはアリシア嬢を溺愛するレオナルド様のことも受け入れていた……。最近はレオナルド様の話しもよく出ていたんだ。良き手本としていたみたいだ」
「それはタキレスもでしょ?」
「そうだね……。だからショックだったよ」
「そうね……。私もショックが大きすぎて……。母が亡くなったときを思い出すわ。アリシア様を思うと、ね……」
「うん……」
「悲しいときは悲しんでいいのよ。あなたが教えてくれたのよ」
「少しいいか?」
するとタキレスは私を抱きしめ肩に頭を乗せた。私はタキレスの腰に腕を回しポンポンと腰を叩くと、そのまま動かずタキレスと抱き合っていた。




