145、立場
次の日、エドは陛下に呼ばれて城に一旦戻っていった。私はというと、お母様に呼ばれて二人でお茶会をしていた。
「アリは少しは落ち着いた?」
「私は……たまに泣いてしまいますが、徐々に落ち着いてきました。お母様はどうですか?」
「子どもが先に逝くなんて思ってもみなかったからね。堪えたわ。でもね、マーク先生から話を聞いているとこれ以上苦しむ姿は見たくなかったわね」
「お兄様は……幸せな人生だったと……」
「それはそうね。あなたといる時のレオはまるで恋人だったもの。殿下がお気の毒なくらいに。小さい頃からあなたへの興味しかなくて、どう成長するのかと思ってたけれどみんなに優しい子に育ってくれてよかったわ。だから次に生まれ変わったらもっともっと幸せになれるように私は願っているわ」
「私もそう思います」
「アリシアもよ。あなたももっともっと幸せになるようにいつも願っているわよ」
「お母様……ありがとうございます」
「幸せになりなさい。レオの分も。それがレオの願いよ」
「……はい」
お母様の言葉に少しだけ涙が出てきてしまい、クッキーがほんのりしょっぱい味に感じたけれど、私には優しい味だった。
午後になりエドが城から戻ってくると、私を膝の上ではなく隣に座らせた。
「アリシア、ちょっと手を貸してね」
エドは私の手を取ると、二連のブレスレットを手首に着けてくれた。エドとお兄様からプレゼントされたネックレスのリメイクだとすぐに分かった。
「どうして?」
「レオナルドからだよ。アリが幸せでありますようにって願いが込められている」
なんだろう。今日はみんなが私の涙を誘う。私はポロポロ涙が出るのを止められないままお礼を言った。
「ありがと、ございます」
エドはニッコリ笑うと私の手を取り、チュッとキスをした。
「ほら泣き止んで。レオナルドが心配するよ?」
エドは私の涙を拭ってからブレスレット辺りを擦って落ち着くのを待ってくれていた。
「もう一つ話があってね、学園のことだけど……」
エドはあまり話したくないのかもしれない。急に表情が曇った。
「アリが休み始めたころに、リリーシュに代わりに来てもらっていた」
「リリーシュに?」
「結論から言うとリリーシュの働きによりマリアンナ・ブラウニングの一派は排除した。もう生涯会うことはない」
「リリーシュは? リリーシュは無事なのですか?」
するとエドはエマに連れてくるように頼み、しばらくするとバートとリリーシュが部屋に入ってきた。
「アリシア様!」
私は立ち上がりリリーシュの元に駆け寄った。
「リリーシュ、無事なの?」
私はリリーシュをペタペタ触るとリリーシュがクスクス笑いだした。
「アリシア様、私はなんともないですよ。それよりアリシア様の方が心配です」
「そうですよ。レオナルド様のことを聞きました。アリシア様が心配です。今も泣かれてたのですか?殿下に何かされましたか?」
「んー、レオナルドといいバートといい、どうして君らはいつも僕のせいにするんだ」
エドはため息をつきつつ、バートたちをテーブルの方に促しながら私の腰に腕を回しソファーに座った。エマが紅茶を用意してくれたのでゆっくり一口飲んだ。
「アリシア様、レオナルド様は残念で仕方ありません。アリシア様大丈夫ですか?」
「バートはお兄様を慕っていたからあなたも辛いわよね。私は大丈夫……とは言えないけれど、エドがいるからなんとかやっていけてるわ。学園のこと今まで知らなくてごめんなさい」
「アリシア様、マリアンナは私がこてんぱんにしたので安心してください。もう顔を見ることは一生ありません!」
リリーシュ、何をしたの?
不安になりエドを見ると苦笑いをしていた。それでも何があったのかは言うつもりがなさそうだ。
「リリーシュ……あぶないことはしてない?」
「してないですよ。私には古い睡眠薬なんてもちろん効かないですし、泳ぎは得意中の得意です」
「睡眠薬? 泳ぎ?」
私が驚いた顔をするとバートがなんともないような顔をして答えてくれた。
「マリアンナがリリーシュに睡眠薬を嗅がせて池に落としたのですが、リリーシュには効かなかった上にマリアンナを排除できました」
「えっ!!」
私はゆっくりとエドの方を見るとエドは本当に気まずそうに目をそらした。
「エドワード様、私の可愛がっているリリーシュをあぶない目に合わせないでください」
私は目をそらしたエドに静かにゆっくりとした口調で抗議すると、エドが慌てて私の方を見た。
「いや、まさかここまでマリアンナがするとは思っていなくて……」
「アリシア様、私は楽しかったし、お役に立てて嬉しかったですよ。殿下が悪いのではなく悪はマリアンナです」
「でもリリーシュはかわいい女の子なのよ? 何かあってからでは遅いのよ」
私はお兄様を思い出しながら話すと、三人ともがもうしないと頭を下げてくれた。その場は一応それ以上は言わなかったが、あとでエドには言っておかなければならない。その後はお兄様の思い出話を四人でして久しぶりに笑顔のある賑やかなお茶会となった。




