143 一緒
部屋に行くなり、私はエドの膝に乗せられた。エマが紅茶をいれて部屋から下がると、私の体をエドワード様はソッと抱きしめ肩に額を埋めたまましばらく動かなかった。
長い静寂を破ったのは私だった。
「エド……大丈夫、ですか?」
「ごめん、しばらく離れたくない」
「……エド、ありがとうございました」
「なにが?」
思わず、といった様子でエドは顔をあげると、私はエドに微笑んだ。
「エドが一緒に悲しんで……お兄様を思って泣いてくださって、うれしい……。エドが悲しんで下さったから私は……悲しいけれど、きっとまた泣いちゃうけれど……向き合おうと思えてきました」
「ごめん。僕は……しばらく立ち直れそうにない……」
エドはさらにぎゅっと抱きしめた。なんだかいつもと逆のような気がする。エドは悲しみが後からくるタイプなのかもしれない。
「エド……」
私は結局エドが手を緩めるまでの時間、エドの腕をさすった。お兄様が亡くなってから何もしていないと自然と涙が出てくるが、エドも同じようになっているのを見るとうれしかった。
あの時……お兄様が目が覚めたときに、私はお兄様からいろいろな話を聞いた。あの時聞いたのは私だけで、その内容は驚くべき内容だったけれど、お兄様ほどの人なら可能じゃないかと思えてきた。その話があったから私は比較的早く向き合えた理由の一つだと思うし、知らないエドが落ち込んだままなのもわかる。
なんとなくだけど、お父様は知っていそうな気がするけれど……。
でもお兄様から内緒だよって言われたし……。時が来るまでは言われた通りにして、今はエドと一緒にいたい。お兄様が亡くなってからの喪失感はエドがいることで癒されそうな気がする。エドも私で癒されるといいのだけど……。
コンッコンッ
「アリシアちゃん、うちの息子はいるかい?」
「少々お待ち下さい」
私はエドから降りて扉を開けに行くと、陛下がお一人で部屋に来られていた。
「部屋まですまないね。少し入らせてね」
「いえ、来ていただいてすみません」
陛下にテーブルに案内しエマにお茶を頼むと、エドが私を抱き寄せて座り、また肩に顔を埋めた。
「エド……? 陛下がいらっしゃってますよ?」
「いや、いいよ。エドワードは後から感情がくる子だから想定内だよ。それでも報告があってね……。んー、でも今は聞いてないかな。いや、まずはアリシアちゃん、レオは残念だったね。私も聞いたときはまさかと思ったよ」
「一時は目を覚ましてくれたので……お兄様とお話できただけでも私には……今となっては幸せだったと思います」
「そうか。アリシアちゃんは話ができたんだね。ランは間に合わなかったらしく落ち込んでいたから……。ランたちにもレオの話をしてあげてね。きっと聞きたいだろうから」
「はい。落ち着いたら話してみます」
陛下は優しく微笑んで、そのままエドの方に顔を向けた。
「エドワード、ランに話しておいたからしばらくはここに泊めてもらいなさい。それと例の女生徒の処分は終わった。詳しくは……今はいいか」
エドは肩に顔を埋めたまま私の体をぎゅっと抱きしめた。それを見た陛下はため息をついて
「じゃ、私たちは一旦城に戻るからアリシアちゃんまたね」
と、私に声をかけて紅茶を一口飲んでから部屋を出ていかれた。
エドは陛下にはあまり反応を見せず、私は心配になったが、陛下も後から感情がくるからって仰っていたからそうなのだろう。エドはしばらくして、やっと口を開いた。
「アリー、俺、レオナルドのことを思っていた以上に気に入ってたみたい。レオナルドのことを考えるとアリも消えるんじゃないかと思って離れたくない。アリは俺の前からいなくならないで」
エドが俺って言ってる……。初めて聞いたかも……。それよりもなんだかほの暗い雰囲気がある。
今まで私がずっと泣いてたから、エドは私を気遣って心の内を出せてなかったのもあるのかな?
「私はエドの側にいますよ」
「うん……」
そう言うとエドはしばらく動かないままだった。
◇
結局、エドは私を離そうとはせず、湯あみ以外はすべて私にべったりとしていた。ちょっと前までのお兄様に引っ付いていた私みたいだ。そう思うとエドの不安が手に取るように分かる気がした。お兄様がしてくれたように、一緒のベッドで引っ付いて寝ることにした。
「アリシア、ごめん。明日には元気になるから……」
「無理にならなくてもいいですよ。今日はゆっくり休んでください」
ここ数日、よく眠れなかったこともあり、私もエドも朝までぐっすり眠り、朝の身支度が終わるとお兄様の部屋を訪れた。




