141、エドワード王子 side 最期
人によっては内容に地雷があるかもしれません。残酷な内容が含まれますのであらかじめ自衛してください。地雷になりそうな方は二、三話ほど飛ばしてください。
「エドワード王子いる?」
「ん、ここにいるよ」
「アリシアは?」
「隣で寝てるよ」
そう答えるとレオナルドは少しホッとした顔をした。
「急に声が聞こえなくなったからどうしたのかと思って……。エドワード王子……マーク先生はなんて言ってたのかな? まあ、見ての通り、私はもう長くな……」
「そんなこと! ……言うなよ。今に元気になるから」
僕はレオナルドの言葉に被せるように言った。
「いや、自分の体のことは分かるよ。身体中痛みも感覚もなにもない。アリが側にいても音しか分からない。記憶もどんどん抜け落ちていく……。きっと頭まで毒が回っていると思うよ。
だから意識があるうちに言う。今までありがとうございました。これからの人生……アリシアを頼みます。アリシアが幸せに長生きできるようにしてあげてほしい。私の五回目の人生でやっと叶いそうな夢なんだ」
「五回目の……?」
「うん。長い長い夢……」
「…………わかった。生涯を掛けてアリシアを守ると誓う」
「任せましたよ」
「うん、任された」
レオナルドはホッとした顔をした。
「……ありがとう。それと、ネックレスだけど、アリシアは処刑を思い出してもう付けられない。ブレスレットに作り替える約束は守れそうにない。エドワード王子がやってあげてほしい」
「……わかった。必ずする」
レオナルドは笑顔を見せた。
「海に……砂浜を一緒に歩く約束もしてたなあ。私が連れていきたかったけれどね……」
「そうか……」
「でも一番の約束は私は盗賊と戦う前に、無事に戻ってくると約束したんだった……。守りたかったな……」
「……僕は今でもレオナルドは元気になると思ってる。元気になってほしい」
「……そうだね。ありがとう。あとはもう思い出せないや。シンは? シンはいる?」
「ここにいます」
「シン、長い間ありがとう。シンは優秀だから私は安心してなんでも任せられた。これからもうちを頼むね」
「レオナルド様……」
シンはなんともいえない顔をしていた。
「ラートはどうしてる?」
「今は犯人を探しに出てます」
「そっか。元気だな。ラートたちとの稽古は楽しかったなあ。またやりたかったなあ」
「元気になってからおやりになってください」
「……そうだね」
レオナルドは小さく笑った。
「父上、母上には謝っておいて」
「嫌ですよ。ご自分で言ってください」
「……うん、そうだね。自分で伝えないとね……。あぁ、ちょっと疲れた。少し休むね」
「はい……」
レオナルドはすぐにスウスウと寝息を立てて寝てしまった。僕は声を出せないまま、レオナルドの額のタオルを取り替えた。シンもしばらく動けないまま立ち尽くしていたが、廊下の護衛に何かを話に行った。
レオナルドが寝てから四時間ほど経ってアリシアは目を覚ました。レオナルドもその後すぐに目を覚まし、アリシアを呼んだ。
「アリシア……起きてる?」
「お兄様、ここにいますよ」
アリは起きてからベッドの側の椅子に座り、レオナルドの手を両手で握っていたが、片方の手を離してレオナルドの首に腕を回した。
「アリシア、世界で一番大好きだよ。愛しているよ」
「私もお兄様が大好きですよ」
「アリには世界一幸せになってほしい。エドワード王子はアリを幸せにしてくれる。アリの一番の人になるよ。前世とは違うから安心して……」
「はい……。お兄様も早く元気になってお屋敷に帰りましょうね」
話ながらレオナルドの顔色がみるみる悪くなっていく。レオナルドは限界なのかもしれないが僕もマーク先生もシンも会話を止めることはしなかった。
「アリ……。私はアリの幸せが一番の願いだよ。これからも、前を、向いて、生きて……ほしい」
「? お兄様、どうしたのですか? 無理して話さない方が……」
アリシアは首に回していた腕を離し、レオナルドの顔をみた。
「アリ、私を……幸せに、してくれて……ありがとう。私は、幸せだったよ。楽しい……人生だったよ」
レオナルドは浅く呼吸をしながら笑いながら涙を流していた。
「お、にいさま……」
アリはレオナルドに抱きつき体をふるわせていた。
「アリシア、また会えるよ……またいつか……」
「お兄様……」
レオナルドは目を瞑り笑ったような顔をした。それからレオナルドは昏睡状態になった。
捜査に出ていたイアンたちはレオナルドが昏睡状態になった次の日、刺し傷を負った遺体を発見した。港町の外れに捨てられるように転がっていて、ラートが確認したところ、レオナルドに怪我を負わせた盗賊だと判明した。
イアンからの報告を聞いていると、ロックウエルの影たちが動いたのかと想像したが、確証はなく謎のままだったがこれで事件は一応解決した。
昏睡状態になった二日後に、ロックウエルから知らせを受けていたレオナルドの父母であるスチュアート公爵夫妻が宿に到着した。レオナルドは父母を待っていたかのように、到着後しばらくしてから静かに息を引き取った。




