137、痛心
朝になったけれど、結局眠れなかった。寝る努力はしたけれどお兄様が隣にいないだけで眠れない。お兄様を思うと自然と涙が出てくるのも原因かもしれない。
明け方ごろエマは疲れて椅子で眠ってしまっていて申し訳なく思うけれど、ベッドへと声を掛けると無理に起きてしまうだろう。
エマ、いつもありがとう。
それから二時間ほどしてエマは目覚めると、私を見て慌てた。
「お、お嬢様、すみません! 私、いつの間にか寝てしまって……」
おろおろしているエマは珍しい。思わずクスリと笑うとエマの顔がみるみる真っ赤に染まった。
「エマの赤い顔なんて珍しいわ。ふふっ」
「お、お嬢様ぁ」
今度は困り顔になり、私は耐えきれず声に出して笑ってしまった。するとエマも一緒に笑いだした。
「エマ、ありがとう」
「お嬢様……。さてと、では朝のお支度をしましょうね。そのあと、目をタオルで冷やしましょうね」
エマのおかげで少し元気になれた気がする。身支度を整えると、宿の侍従が朝御飯にと具だくさんのスープと果物のジュース、パンやサラダを持ってきてくれた。今日は交代できる侍女がいないのでエマも一緒に食べる。
「エマがいてくれてよかったわ」
「そうですか? ご迷惑になってませんか? あ、そういえば後程、お医者様にレオナルド様にお会いできるか聞いてみますね。お会いできるといいですね」
「うん。早く会いたい」
しんみりしながらも、エマと一緒に食事をしたからか少し食べることができた。
しかし、私の思いとは裏腹に医師と話せる時間がとれず、午後まで医師の手が空かなかった。午後すぐにエマが行くと今は落ち着いているとのことで許可が出た。
コンッ、コンッ
「はい。どうぞ」
お兄様がいる部屋に行くとシンの声がした。
「シン、少しでもいいから側にいさせて……」
私は部屋に入り寝室の方を見ると扉は開いたままだった。寝室の方に行くとお兄様が横になって眠っていた。顔色は頬は赤いものの全体的には青白く、ピクリとも動かない。シンが椅子を譲ってくれたので椅子に座り、お兄様の手を握る。いつも温かい手が更に熱い。きっと熱が高いのだろう。涙がポロポロ出る目でお兄様の顔をじっと見つめていた。
私の大事な……大好きなお兄様……。どうか良くなって……。
涙が止まらなくなり目が霞むけれど、お兄様から目が離せなかった。
◇
気がつくと私はベッドで寝ていた。お兄様は?
私は慌てて起き上がると、ふわりと抱き締められた。
お兄様?
……じゃない。これは……エド!
「アリシア……大丈夫?」
エドは王都にいたはず。領地のスチュアートの屋敷よりも遠いこの地にエドがいるなんて……。
「エド……なんでここに?」
「アリが心配で……」
私は涙がぶわっとあふれでてエドに抱きついた。
「おに……お兄様がぁ……」
「うん。聞いているよ。実はマーク先生を連れてきたんだよ。今レオナルドを見てもらってるからね」
「マーク先生が?」
私は涙も泣き声も止まらずしばらく泣いたままだったけれど、エドはずっと抱き締めてくれていた。落ち着いたころ、エドはゆっくりと体を離し、私の顔を覗いた。
「アリ、マーク先生が話があるって言っていたよ。直接話したいって。少し水分を取ってから隣に行こうと思うけれど大丈夫?」
私が頷くと、エドはエマに頼み果実水を持ってきてもらった。エマは濡れたタオルも持ってきてくれ私は目を押さえながらゆっくりと水分を取った。




