135、レオナルド・スチュアート side 記憶
私は前世の夢を見ていた。前世だと思ったのは直感的にそう思ったからなのと、アリの話と似ていたからだ。
◇
……アリシアが学園で大ケガを負い帰宅した。階段から落ちたところを運ばれたのだ。すぐに医師を呼び治療をしてもらい、やっと面会の許可がおりた。
アリの部屋にソッと入ると、アリは目が覚めていた。
『アリ、大丈夫か?』
私は側に寄り、アリを見下ろしながらベッドに腰をおろすと、アリの頬をソッと撫でる。なんて痛々しいのだろう。アリは全身に傷を作った上に三ヶ所の骨折もあった。顔にも切り傷やアザができていて見ているだけで泣けてくる。
『アリには私がいるよ。父上も母上も私も、みんな誰よりもアリを愛してるからね。大丈夫だからね』
アリは私を見つめ、そして頷いた。そう、頷いただけ。
アリはどんな時でも愚痴一つ言わない。幼いときから叩き込まれた王妃教育で常に感情を見せないようにしている。こんなことがあったばかりだというのに家族にさえ感情を見せないのだ。だからといってアリはきっと悲しくないわけでもないし、痛くないわけでもない。
私はアリの額にソッとキスをする。
『眠るまで見ているから今は体を休めるんだよ』
アリが頷き目を閉じると、私はアリの頭を撫でた。しばらく撫でていると、アリは眠りについた。
エドワード王子め! アリシアになんてことをしてくれた。どうせ、あの女に騙されて階段から突き落としたあの女を信じたのだろう。ひどい話だ。
矛盾が多く嘘だらけなのにアリはマリアンナを突き落とし殺そうとした罪で斬首刑がすぐに決まった。冗談じゃない! アリはそんなことをしない! なぜ大ケガをしたアリに刑がおりるのだ! しかも刑が決まるまで三十分もかからず、アリシア側の聴取はなかったとはどういうことだ!
公爵家として全力で抗議をしたが覆らない判決に父も私も直接陛下に抗議をしにいっている間にアリは連れ去られていた。エドワードの側近かだれかだろう。
うちから呼びにきた者と急いで広場に向かうと父も私も息を飲んだ。アリは街の広場で手足をしばられ上から刃が落ちてくるのを待っている状態だったのだ。
『アリ! アリシア!』
『これは仕組まれたものだ! やめろー!!』
『どいてくれ! 通してくれ! アリシアー!』
許さない! 騙したマリアンナも、そんな女に騙された今回のエドワード王子も!
父と一緒に叫ぶも目の前でアリは斬首された。
それなのにそのときアリは僅かに笑ったのだ。僅かだけれども確かに笑った。恨むでも怒るでも泣くでもなく……。
アリはエドワード王子……との婚約をいつも喜んでいた。その結果がこうなったのに?
私たちは膝から崩れ落ちたまま立ち上がれず、うちの者に手を引かれてやっと起き上がった。
これでアリが死ぬのは何度目だろう。何度やってもうまくいかない。どうしてなのだろう。
エドワード王子とうまくいくように動くと途端にダメになるのなら、次は反対しよう。次こそはアリが王子とうまくいきつつ、死なないで長生きできる人生にしてあげなくては。
◇
私はその様子を第三者として初めて夢に見ていた。
繰り返していた理由は私か……?
初めて夢に見たと思うのだが、深層心理の中では覚えていたのだろうか。
でも今回のアリはきっと大丈夫。アリが執着しなかった分、彼がアリに執着した。もうきっと手放さないだろう。
もう大丈夫。大丈夫。
◇
ん……今の夢はなんだったのだろうか……。なぜかわからないがホッとしている自分がいる。ずっと不安だったけれどやっとアリは大丈夫だと思えた。
私は次第に目が覚め、目を開いたが暗い。夜か?
「お兄様! お兄様目が覚めたのね!」
あぁ、アリが近くにきてくれたようだ。




