134、エドワード王子 side 自制
宿についてマーク先生が行ってから二時間ほど経った。ここで待機することは別に構わないので本を読みつつ待つことにしたが、宿のものが気にしているようなので、とりあえず荷物などは部屋に運ばせた。
「殿下、ここは私がいますので部屋で休まれてはいかがですか?」
侍従の一人が伝えてきたが、なんとなくここで待っていたい気がするのだ。
「迷惑でなければここで待ちたい」
「迷惑だなんて……。では温かいスープでも用意いたしますね」
そういうと、侍従は席をはずし僕は本の続きを読んだ。それにしても遅いな……。何かあったのだろうか……?
僕は侍従からスープを受け取り、少し口に含み飲み込むと、器官を通って胃まで流れる温かいスープを感じとり、自分の体が冷えていることに気がついた。この状況にいくらか緊張しているのだろう。僕はゆっくりとスープを飲み干した。
「みんなにもスープを出してあげてね」
僕の言葉に侍従が返事をしたので僕はまた本の続きを読んだ。
それから一時間ほど経っただろうか。宿のものからマーク先生が呼んでいるとの知らせがあった。僕らはすばやく身支度をしてイアンとそのものについていくと、宿のものがある部屋の前で立ち止まった。
「こちらにいらっしゃいますが、お静かにお願いします」
ノックをして部屋に入ると楽観視できない空気が漂っていた。レオナルドはもちろんのこと、シンの顔色も悪い。
「エドワード殿下……」
顔色の悪いシンが少しだけ取りつくり僕を見た。
「シン、話しは聞いたよ。大変だったね。マーク先生、レオナルドの容態はどうですか?」
「この二、三日が山かと。状態は良くないです」
そんなにか。医師はいつだって起こりうる最悪を伝えるというが、これはキツいな。
「そ、うですか……。シン、アリシアは?アリシアはどうしてる?」
「アリシア様は……処刑の夢を……処刑される夢を見てからレオナルド様から離れられなくなってました。レオナルド様と接するうちに徐々に回復していたところに今回の件があったので……」
あぁ。あの発熱はやはり過去の……前世の夢を見ていたからか。だからレオナルドは僕と離したのか。
「今はどこに?」
「隣の部屋で眠ってます」
「……僕は部屋に行ってもいいだろうか」
僕はマーク先生の方を向き伺うように聞くと、マーク先生は静かに頷いた。
「アリシア様が目覚めたらレオナルド様のことで話があるのでこちらに連れてきてください。これは話しておかなければならないことです」
「わかりました」
僕はマーク先生に頭を下げ、レオナルドの側に行った。レオナルドの頬に手をあて、
「レオナルド、先に逝くことは許さない。絶対回復するんだ」
僕はレオナルドだけ聞こえる声で言い、言い終わるとそのまま護衛を連れて部屋を出ていった。アリシアの部屋は隣らしくスチュアート家の護衛が一人、扉の前で立っていた。
「殿下、アリシア様は寝ておられるのでそのままお入りください。護衛の方はご遠慮を」
「わかった。ありがとう」
僕はイアンに目配せをしてから一人部屋に入っていった。
部屋の中は小さなあかりがあるだけで、全体的には暗い。誰かが走りよってきたかと思えばエマだった。
「エドワード殿下、アリシア様は眠っています。このような状況なので不安定です」
「マーク先生を連れてきたから聞いてるよ。エマも大変だったね。僕が付いているからエマも少し寝ておいで」
エマは少し迷ったようだが「よろしくお願いします」と頭を下げ部屋を退室した。
僕はアリシアの側に行き、アリの顔を見る。暗めの部屋でも分かるくらいアリの顔色は青白い。僕はアリの側に腰を掛け、頭を撫でつつ額にキスをした。
しばらく頭を撫でながらアリを眺めていた。
「アリ……」




