130、シン side 怒涛
朝になりレオナルド様の着替えをしたあと、騎士のラートが部屋を訪ねてきた。昨日は寝ていないのか顔色は悪くいつもの元気さもない。
私は部屋の隅にラートを誘導した。
「どうした?」
「シンさん、レオナルド様は?」
「今は落ち着いてる」
「そうか……。シンさん、俺のせいなんだ。レオナルド様を守れなかった……」
「何があったんだ? 詳しく話せ」
ラートは二つ下の後輩のようなもので、子どものときから知っている。そのラートが全身を震わせるようにしていた。
「うちの船を見学していたら……甲板で族に船員が捕まっていて……四人の族のうち三人はすぐに拘束したけれど、いなくなったもう一人が手慣れで気配がなくて……気がついたらレオナルド様に剣が向かっていて……俺は……間に合わなかった……」
「それで?」
「レオナルド様が、『ある程度の耐性はあったんだけど、これはきついね』って……そのまま意識を失ったんだ……。アリシア様に無事に戻るって言ってたのに……」
「そうか……」
「俺……取り返しがつかないことを……」
うなだれるラートの肩をポンポンと叩き、私はラートの顔を見た。
「お前がある時をさかいに全力でやっているのは知っている。悔やむなとは言わないが、お前に落ち度はない。レオナルド様もそういうだろう。それよりもこの状態で警護ができるのか? 今は少し休め。ニックにはこちらから伝える」
「……うん」
ラートはとぼとぼと部屋を出ていったので侍女にニックへの伝言を頼み、私はまたレオナルド様の側についた。
昼になり、医師がレオナルド様の様子をこまめに見に来るものの、依然として昏睡状態なままであった。熱は上がったり少し下がったりを繰り返し、今はまた高い。私は水を飲ませようとするも、レオナルド様は全く動かずだったので口を湿らす程度にした。
侍女が私の分の食事を持ってきてくれたが、とてもじゃないが入りそうにない。アリシア様に食べるように伝えておきながらこのざまだ。
食事を下げてもらい、その後もレオナルド様についているが昨夜よりは安定してきた……というぐらいで安心はできない。
コンッ、コンッ
「はい。どうぞ」
部屋の中に入ってきたのはアリシア様だった。
「シン、少しでもいいから側にいさせて……」
普段とてもかわいいアリシア様が泣きはらして目を真っ赤にしていた。私は「少しなら」と答え、座っていた椅子を譲った。
アリシア様はレオナルド様のそばに行くと、怪我をしていない方の手を握りそのままレオナルド様を見入っていた。
夕方になるころにはアリシア様は手を握ったままうつむくように寝てしまったので、私はソッと手を離し、アリシア様の部屋へ横抱きにして運んだ。きっと昨日は眠れなかったのだろう。
レオナルド様の部屋に戻ると、また私はベッドの側に行き椅子に座り額のタオルを代えた。熱も下がらないが、目を覚ます気配もない。
コンッコンッ
「はい。どうぞ」
またアリシア様が? と思っていると、医師が意外な人を連れて入ってきた。
「シンさん、私の師匠です」
「……マーク先生」
連れて入ってきたのはマーク先生だった。
「はい。マークですよ。レオナルド様を見させてね」
なんだろう。この安心感は。宿の医師が不安だったわけではないが、優秀だと知っている医師がいることがこんなにも違うとは。
マーク先生はレオナルド様を診察すると
「キースニン、これまでよくがんばったね。レオナルド様の治療内容教えてね」
マーク先生の言葉に、私は宿の医師の名前さえ聞く余裕がなかったらしい。今更ながら初めて知ったことに驚く。マーク先生はキースニン先生と話をし、助手に薬を持ってくるように指示をした。
ん?
あれ? 何か忘れてるような……。
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