122、レオナルド・スチュアート side 目的
「アリ、おはよう」
アリの寝顔を見ていると、なんとなく起きそうな気配があり、声をかけてみた。するとゆっくりと目を開けたアリと目があった。
「お兄様、おはようございます」
アリがかわいく笑うので頭を撫でると更にへにゃりと笑う。かわいい以外に何か言葉があるのだろうか。
「アリ、今日は港の方に行ってみようよ。そのあとは町をデートしよう」
「ありがとうございます! うれしいです!」
私とアリは出発の準備をし、全員の準備が整うと馬車に乗り港に向かった。護衛の騎士三人とエマも連れてきたが、アリは楽しみなのかずっとニコニコしている。
「アリ、そんなにかわいい顔を見せてたら誘拐されてしまうよ。私から離れてはダメだよ」
心配して言っているのに、アリは毎回聞いてるのか聞いてないのか……。
「大丈夫ですよ。私は少しもお兄様から離れたくはないですから」
「……」
少しもお兄様から離れたくはない……。
はは……。
どうしてこう天然なんだ……。
馬車から降りると潮の香りに混ざって食べ物の良い匂いもする。人だかりも多く、気を付けなければアリはすぐに迷子になりそうだ。
「うわぁ……」
アリがキョロキョロしているので「海を見てからね」と声を掛けると、ハッとした顔をしていた。初めて見る市場に興味があるようなので、お昼はここで食べてもいいかもしれない。
海岸の方までゆっくりと歩いていくと、多くの船が停泊したり、行き交ったりしているのが間近に見えてきた。アリは海水を触ってみたかったらしいので、明日砂浜に行くことを約束し船を見て回る。
「泥棒! だれか捕まえて!」
ふいに女性が叫ぶ声が聞こえた途端、私はアリに体ごと覆い被さり、さらに護衛の騎士が私たちを隠すように立った。その騎士に向かって泥棒は「どけ、どけっ!」と叫びながら走ってきた。
騎士に目配せすると騎士の一人が泥棒の手を掴んだ瞬間引き倒し、後ろ手に拘束した。そのまま泥棒を追ってきた警備に引き渡し、荷物は持ち主に返されたようだった。
「もう大丈夫だよ」
覆い被さっていた体をゆるませてからアリに言うとホッとしたようだった。うちの護衛騎士やエマにも怪我がなく私も安堵した。
「ありがとうございます!」
持ち主の女性は護衛にお礼を言ったあと、私にもお礼を言ってきた。するとアリがぎゅっと引っ付いてきたので私は遠慮なく抱き返したが、この騒ぎが少し不安にさせたのかもしれない。
「あの……お礼にお茶をご馳走させてください」
今日は私も護衛もラフな格好をし、身分が分からないようにしているのに、なぜか私に言ってくる持ち主に私は護衛の方を向き
「捕まえたのは彼です。お礼なら彼に。では失礼」
私はニッコリ笑ってそれだけ発するとアリをつれて歩き出した。これ以上アリを巻き込みたくはない。それにこの女性が何かを企んでないとも限らない。それが分からないのでここで別れるのがいいだろう。相手から近づいてきた縁は確認が取れるまでは気を付けなければいけない。
「あっ……」
持ち主の女性は引き留めようとしたが、護衛が間に入ると諦めたようだった。
その後は平和に海岸沿いを散歩し、アリは熱心に観察していた。
「あ! お兄様、あの船はうちのですか?」
アリが指差す方を見ると、以前視察のときに乗ったことのあるスチュアート家のマークが入った船が停泊していた。この船は貿易のための貨物船でロックウエルからはうちの船が戻っているかはわからないと聞いていた。
「アリ、よく見つけたね。少し話をしてみようか」
すると、護衛の一人が船員に話をしに行き、しばらくすると戻ってきた。
「明後日まで停泊するようで、今日はほとんどの船員が町におりているそうです。船長が昼に帰ってくるので、昼過ぎにまた来てほしいとのことです。いかがなさいますか?」
「では昼食を食べてから伺うと伝えて」
「承知しました」
護衛が走って伝えに行っている間、昼に食べられそうなものをアリとエマに考えてもらい、私は先ほど泥棒と対峙した護衛に話を聞いた。
「あの泥棒とやらは、まっすくこちらに向かってきていたように思ったがどう思った?」
「あれは力も弱かったですし、ひょっとしたら私たちのような観光客を狙った何か別の犯罪かもしれません」
「そうか。それならあの被害者とは今後は関わらないようにしよう。観光客というよりうちを知っているのかもしれないしね」
「そうですね。目を配るようにします」
「うん、よろしくね」
私と騎士は回りの気配をさぐり、とりあえずは不審なものがいないことを確認した。
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