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117/156

117、高揚

 

 いくつかの町を経て港の町につくと、潮の香りが更に強く感じられた。それは嫌な感じではなく、私をワクワクさせた。


「アリ、そろそろ着くみたいだよ」


 街の中に入り、馬車が徐々に速度を落としだしたので、宿にそろそろ到着するのだ思うと心がはやる。


「アリ、楽しみにしているところ悪いけれど、海の近くに行くのは今日はもう遅いからできないよ。その代わり、アリにこれから見せたいものがあるから楽しみにしててね」


 ?

 見せたいもの?


 海が見られないのはちょっとだけ残念だけれど、何かの楽しみがあるのは嬉しい。


 しばらくして宿に到着すると宿は少し小高い場所にあった。お兄様に手を引かれ部屋に入ると大きな窓が正面にあり、私は窓に駆け寄ると景色が一望でき、船が何隻も見えた。


「あれが海だよ。どう?」


「あれが? 大きい……。綺麗……」


 私は始めてみる海に見入っていると、辺りがだんだん夕日に包まれ出した。夕日はあっという間に見るものすべてが……空も海をも朱に染めた。


「!!」


 声が出ないくらい綺麗で、気がつくとお兄様が後ろから覆い被さるように私を抱きしめていた。

 それからもずっと眺めていると夕日が海に沈み、辺りは一気に静かになったような気がした。


「お兄様、ありがとうございます」


 私がお兄様の手をつかみながら言うと、お兄様は「どういたしまして」と耳元で答えてくれた。

 私は初めて見た景色に感動ししばらく余韻に浸っていたが、冷えるからとお兄様に窓から離された。


 その後はいつも通りに過ごし、明日に備えて早めに休むことにした。もちろん、お兄様には今日も同じベッドで寝てもらった。




 ◇




「アリ、おはよう」


 声がして目をゆっくり開けると笑顔のお兄様が目に入った。


「お兄様、おはようございます」


 私もニコッと笑うと頭を撫でられた。


「アリ、今日は港の方に行ってみようよ。そのあとは町をデートしよう」


「ありがとうございます! うれしいです!」


 私はお兄様の誘いに笑顔で答えた。昨日から楽しみすぎてなかなか寝付けなかったが、道中、休憩をたくさん取ったからか疲れはなかった。終始笑顔で準備をしていると、エマから「よかったですね」と言われ、シンたちからは微笑まれた。


 その後、馬車で港に向かい、私たちは港近くまで来ていた。護衛とエマも来ていて、私はずっと笑顔でいると


「アリ、そんなにかわいい顔を見せてたら誘拐されてしまうよ。私から離れてはダメだよ」


 お兄様に本日二度目となるお小言を言われた。


「大丈夫ですよ。私は少しもお兄様から離れたくはないですから」


 そう言うと、お兄様は固まっていたけれどどうしたのだろう?私、変なこと言ったかな?


 馬車が止まり、私たちは馬車から降りたあと私はお兄様の腕につかまり前を見ると、人だかりがありとても賑やかだった。露店がたくさん出ていて、潮の匂いにまざって食べ物の匂いもする。


「うわぁ……」


 私が眺めているとお兄様から「海を見てからね」と声を掛けられた。そうでした。目的は海を見ることでした……。


 十分ほどゆっくり歩くと海岸に着き、たくさんの船が停泊したり、行き交ったりしてるのが見える。耳をすますと雑踏の中に波の音がしていた。本でイメージしていた港よりも賑わっていて、海の音や、潮の匂いが合わさってなんともいえないうれしさが込み上げてきた。

 海岸なので、海の水を触ることはできないけれど、明日は砂浜に連れていってくれるとお兄様と約束をした。


「泥棒! だれか捕まえて!」


 不意に聞こえた緊迫した声に、お兄様は私を体ごと覆い被さり、さらに護衛の騎士が私たちを隠すように立った。その騎士に向かって泥棒は「どけ、どけっ!」と叫びながら走ってきた。

 だが、気がついたら騎士が泥棒を捕らえ、取られた荷物を持ち主に渡していた。犯人は追ってきた警備に引き渡され、お兄様から安堵の声が聞こえると、私もやっとホッとした。


「ありがとうございます!」


 持ち主の女性は騎士にお礼を言ったあと、お兄様にもお礼を言ってきた。お兄様を見て心なしか頬を赤らめていることに気付き、私はお兄様にぎゅっと引っ付いた。すると私の小さな嫉妬を知ってか知らずか、すかさず抱き返してくれるので安堵した。



昨日予約掲載するのを忘れてました。本日二話掲載します。二話目は19時ごろです。すみませんでした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 海いいですね、アリシアが楽しそうでよかった♪ レオナルド様の溺愛ぶり、「〜なぜか兄に溺愛されてます」という感じですね^_^
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