116、敬愛
海があるところまで行くと決まってから屋敷内はバタバタしていた。私とお兄様は座って待つだけだから申し訳なく思う。
宿の方はスチュアート家が経営している宿があり、いつでも使えるように一フロアーは開けてあるので問題ないらしい。あとは道中の経路や準備などで私に手伝えそうなものはなかった。
コンッコンッ
「レオナルド様、シンです」
「入っていいよ」
「失礼します。マーク先生から確認が取れました。ゆっくり休みつつ、無理をしないようであれば構わないそうです。ただ、食事と睡眠と休憩はしっかり取るようにとのことでしたよ」
「分かった。シン、ありがとう」
「アリシア様、よかったですね」
「シン、ありがとう」
シンが笑顔で私に言ったので、私も笑顔で返した。
「アリ、楽しみだね」
「はい。すごくうれしいです。お兄様、ありがとうございます!」
「マーク先生から許可は出たけれども明日は早めに出発するから、今日は早く寝ようね。しっかり休まないと連れていけないよ」
「はい。しっかり休みます」
夕食はマーク先生に言われた通り、スープがメインでとても優しい味だった。あっさりとした味付けで食べやすく、全部は食べきれなかったが半分は食べることができた。
「アリ、よく食べたね」
お兄様が私の頭をくしゃっと撫でたあと、私の肩に顎を乗せるようにしてからぎゅっと抱きしめてくれた。私はお兄様に誉められてうれしかった。
◇
次の日の朝、朝食を食べてから屋敷を出ることになった。朝までお兄様にぎゅっと引っ付いて寝てたからぬくぬくで起きたくなかったけれど、そういうわけにもいかない。
朝食も夕食同様スープがメインだったが、昨日とはまた味付けが違っていた。昨日はコンソメ風味で今朝はトマト風味だった。こちらも食べやすく半分は食べられたと思う。
「アリ、スープはどう?」
「おいしいですし、食べやすいです」
「そう。よかったね」
お兄様はにっこり笑って言ってくれた。
朝食を終えると護衛の騎士三人、侍従二人、侍女のエマ、お兄様の執事のシン、そしてお兄様と私とで出発した。
道中はひどい道を想像していたけれど、貿易の要となる港まで続く道だったので王都ほどではないがそれなりに整備してあった。
一つ目の町に着いたときに昼食を買っておき、道中進みながらいただいた。移動しながらなので、スープがメインとはいかなかったけれども、食事はどれもあっさりしていて食べやすかった。
午前中はお兄様と話すことで眠くならなかったが、午後は陽気が良いのと心地よい振動、さらにお腹がいっぱいになったことで、私は睡魔に抗うことなくお兄様にもたれかかって眠った。
次の町につくと、馬を休ませる間、辺りを散策することにした。私も座りっぱなしで動きたいのもあったが、王都とは違う異国の製品を並べるお店が見えて単純に近くで見てみたかったのだ。
私は腕にしがみついて歩きたかったが、お兄様が私の腰に腕を回して歩き出したため、手持ちぶさたになってしまった。私は今までどうやって歩いていたのかしら?
少し不安になっていると、お兄様は腰に回してない方の手で私の手を握り、しばらく歩くと
「アリは歩きにくくない? 大丈夫?」
と聞いてくださった。私は首を降り空いてる手をお兄様の手に重ねた。
「こっちの方が安心します……」
「じゃ、このまま行こうか」
「はい!」
ゆっくりとお店を見たり、公園を散歩しているとあっという間に時間になり、お兄様と私は護衛を連れて馬車に戻った。馬車ではお兄様に膝だっこされ、エマとシンが買ってきた紅茶とお菓子をいただき、私ばかり至れり尽くせりのような……。と思っていたら、お兄様がみんなにも食べるように勧めてくれた。よかった。
馬の休憩も終わり、宿に向けてまた出発した。護衛の騎士からカーテンは開けられないと言われてるので景色も見えないが、心なしか、外から入る空気の匂いがかわってきた。これが潮の香り?
「潮の香りがしてきたね。これから着くまであと二時間は掛かるけれど大丈夫かな?」
「さっきお菓子をいただけたので大丈夫です」
「辛くなったら言うんだよ」
「はい」
お兄様はいつも私を気遣ってくれて優しい。お兄様の腕の中でぬくぬくしながら言うことではないかもしれないけれど……いつか私も気遣いができる人になりたいな。
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