114、温和
ふわぁ……
目が覚めて伸びをするとだいぶスッキリした。
お兄様に話をして、受け止めてもらえたことでずいぶん気持ちが楽になったみたいだ。
隣を見るとお兄様はまだ寝ていた。きっと今朝まで寝ることなく私を診ていてくれたのだろう。
「お兄様、ありがとう」
私はもう一度お兄様に引っ付いて横になった。
あったかい。
◇
「おはよう、アリ」
「お兄様、おはようございます」
おはようと言っても時間は昼を回っていて、日は燦々と照っていた。
お兄様はうれしそうに私の頭を撫で、私もつられてへにゃりと笑顔になる。
「お腹減ったね。何か用意してもらおうね」
お兄様が侍女に伝えるためにベッドを降りようとし、それに対して私は離れることを嫌だと反射的に思い、お兄様に手を伸ばしてしまった。
「あっ!」
私は伸ばした手を胸の前で握りしめ下を向いて目をつぶり、こんなことくらいでこれではダメだと首を振る。
「アリ……」
ふわっと浮遊感があり目を開けると、お兄様に抱っこされた。
「さあ、食事にしよう」
お兄様はそれだけ言うと、ニコニコしながら食堂に向かい、途中廊下で会った執事のシンに食事の用意を頼んでいた。
今朝……といっても昼だが、サンドイッチとスープとサラダに果物のジュースが用意され、私は食欲はあまりないながらも少しずついただいた。だいぶ残してしまったのにも関わらず、お兄様はよく食べたねと言い、侍女のエマは涙ぐんでいた。
部屋に戻りエマに身支度を手伝ってもらい、お兄様のいるソファーの前で少し悩んでから隣に座ると、すぐに膝の上に乗せられた。
「いいの?」
「もちろん。いつでも私は大歓迎だよ」
言いながらぎゅっとされて、私は安心感にホッとした。
「今日は昨日できなかったから散歩に行こうね。それとネックレスだけど、王都に戻ったらブレスレットに加工してもらおうと思うのだけどどう?」
お兄様の提案に私は頷いた。
「うん、それならさっそく行こう!」
「きゃっ」
急にお兄様が立ち上がったからびっくりして声が出てしまったけれど、しっかりと抱っこされてるから不安はない。お兄様はにっこり笑うとすたすた歩き出して、屋敷の庭に連れていってくれた。
庭につくと、私をゆっくりと下ろし、しっかりと手を繋ぐ。
「ここからはアリも歩きだよ。手を繋いでいるから大丈夫だよ」
私は頷き、ゆっくりと庭を見渡した。色とりどりの花が咲いていてとても綺麗だった。自然と私の顔も和らいだ。
お兄様に手を引かれ、ゆっくりと歩く。穏やかな気持ちで花を見ながら歩けることに涙が出てきた。
そんな私に対してお兄様は何を言うでもなく抱きしめてくれた。なんとなくだけど、やっと心が癒され始めた気がした。しばらく経ってから、
「お兄様……私、大丈夫のような気がします……」
「そう。でもお兄様がこうしていたいから、もうしばらく離れないでいてね」
「はい……」
その後も手をしっかり繋いで散歩の続きをした。
◇
シン side
うちのご主人様は最近機嫌が良い。
レオナルド様は基本的になんでも出来すぎる。簡単にやってのけるようにみえるが、実はかなり努力されているのを屋敷のもので知らないものはいない。
ただ、アリシア様のことだけは別格のようで、最重要案件だと思われている。
アリシア様の体調で一喜一憂されるのは前からだったけれども、領地に来てからは一人でアリシア様の面倒を見て、体力自慢でもないのにアリシア様をひたすら抱っこされている。
「お部屋はどうなさいますか?」
と聞いたときにアリシア様が別にするのを嫌がり同じ部屋になったけれども、これはレオナルド様とアリシア様だから成り立つのだ。そこらのおっさんではダメなのだ。
誰が見てもびっくりするぐらいの美男美女であり、更に誰が見てもうちの自慢のご主人様は自慢の妹姫を溺愛しているのだ。それを見るのは眼福である。眼福。
うちのお屋敷で働いているほとんどが眼福だと思っている。ひたすらお二人の邪魔にならないように影になっているふしがある。
領地に着いたその日、アリシア様が湯あみ中に倒れたときに呼ばれお運びしたが、軽い。想像以上に軽い。聞けば、体調を崩すと食欲がなくなるようで、それが体重に顕著に表れるのだとか。
それなら料理長に頼んでアリシア様のお好きな果物でジュースを作るのはどうだろうか。それならお飲みになるかもしれない。さっそく連絡しておこう。
その後アリシア様は医師のマーク先生の見立て通り発熱され、レオナルド様は一晩中ついておられた。次の日、アリシア様の熱は下がったが、あることをきっかけに倒れてしまわれた。
エマが倒れたきっかけを作ってしまったと落ち込んでいたが、それは予測できないことであって気にしないように伝えたが、アリシア様が元気になられるまでは落ち込みそうだ。
私は部屋の近くで控えていると、夜中に起きられたようで微かに声が聞こえてきた。きっとレオナルド様がアリシア様のお話をお聞きになっているのだろう。明け方ごろまで声が聞こえていたが静かになったので眠られたようだ。侍女に呼ばれるまでいかないように伝えて私も仮眠をとることにした。
そして今日のレオナルド様は顔が緩みっぱなしだ。笑顔を回りに振り撒き、使用人の半分はぽーっとして見ている。庭に散歩に行かれるとのことで、護衛として会話が聞こえないぐらいに少し離れてついていると、まるで恋人だ。手を握り抱きしめ、さらに額にキスをして……。ここぞとばかりにいちゃいちゃしている……ように見える。
レオナルド様はアリシア様がかわいくて仕方ないのだ。私たち使用人はお二人がかわいくて仕方がない。
お二人が幸せに暮らせるよう私たちは今日も静かに見守るだけ。
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