106、マリアンナ・ブラウニング side 憤慨
ヒラリーの家は思っていたよりも小さかった。うちと同じくらい? かしら。お金持ちだと聞いてたけれど……と思っていたら使用人がお茶とお菓子を持ってきてくれたので、やはりうちより裕福だ。
少し落ち着いたころに私は話を切り出した。
「ヒラリー、ごめんなさい。きっと私が悪いのよね」
私は目に涙をためヒラリーの顔を見ると、ヒラリーは青ざめていた。実際悪いのは私だけれど、回りには知られていない。
「ヒラリー、マリアンナが謝ってるのだから許してあげて」
ステラが即座に援護してくれる。リネットもうんうんと頷いている。この状態で拒否できるほどヒラリーは強くはないはず。
「わ……わかったわ……」
「ヒラリーありがとう。じゃあ、私のお願い聞いてくれる?」
「おね、がい?」
「簡単なことなのよ。うふふ」
私はやってほしいことのみ話した。もちろん、目的も前後のことも話さずに。
「それくらいなら……。でももうこれで最後にしてほしいの」
「もちろんそれでもいいわ」
私はちらりとリリアを見てニヤリと笑うと、それに気がついたヒラリーは驚いた顔をした。私はとどめとばかりにカップを滑らせた風を装って、中に入っていたすでに冷めた紅茶をリリアに勢いよく掛けた。
「きゃ!」
「まあ! リリア! ごめんなさい! すぐに拭くわ」
リリアは私がハンカチで少し拭いたあとに、ヒラリーが呼んだ使用人に連れられ洗面室に向かった。その時、私がステラとリネットに頼みリリアに付き添ってもらった。
ヒラリーと二人になった私はヒラリーに告げた。
「今は紅茶だけど、次は何になるかしらね。このことを誰かに話したら、そのときは分かるわよね?」
「マリアンナ、やはりあなたは……」
「協力お願いね! エディは私のものなの。これは前から決まっていることなのよ。うふふ」
「こんな人だったなんて……」
ヒラリーは私を睨み付けるが私は何とも思わなかった。ヒラリーとの話が終わった頃洗面室に向かった三人が部屋に戻ってきた。
「あ、みんな戻ってきたわね。リリア、ごめんなさいね。大丈夫だった?」
「服をお借りしたから大丈夫よ。でも今日はお暇したいわ」
「そうね、では私たちもお暇するわ」
私はみんなには見えないようにヒラリーに向けて『ば・しゃ』と声を出さずに口を開けて言うと、ヒラリーが馬車を出してくれた。最初からこうすればよかったわ。私は笑顔で帰宅した。
◇
次の日学園に行くと、教室に入った途端、ステラとリネットが近寄ってきた。
「おはよう。昨日はヒラリーとあのあと話したの?」
「ええ、ちゃんと分かってくれたわ」
「そう。よかったわね」
私たちは授業が始まるまで昨日の計画の続きを小声で話した。そして午前の授業が終わり食堂にみんなで行こうとした時にヒラリーが学園を休んでいたことに気がついた。
「ヒラリー、マリアンナに会うのが気まずかったのかしら?」
「明日はくるといいわね」
私たちは話ながら食堂まで歩いていると、テーブル席に座るアリシアを見つけた。
「私、先に席を取ってくるわね。みんなは先に買ってきて」
「えー。それならマリアンナの分も注文してくるわね。いつものランチでいいかしら?」
「ありがとう。よろしくね」
私はステラたちを見送ると、アリシアの席に向かって走っていった。そしてアリシアの席のところに来ると派手に転けた。ように見えるように倒れた。
「アリシア様、足を引っ掻けるなんてひどいです! そんなに私が憎いのですか?」
私はチラッと回りを見つつ、演技を続けた。
「血が出て……ひどいわっ」
実際には出ていなくても、こういえば出たかのように装うことができる。それと同時にクスンクスンと泣き出すと、アリシアは困惑した顔をしながらも反論してこなかった。
「まあ、マリアンナどうしたの?」
泣いているとステラたちが駆け寄ってきた。
「ア、アリシア様に足を引っかけられて……シクシク」
「なんてひどいことを……」
ステラとリネットがアリシアに詰め寄ってくれる。やはりこの二人は頼りになる。
「どうして何もしゃべらないのですか? マリアンナに何をしたか分かってるのですか?」
「もういいわ。私がきっと悪いのよ」
「ああ、マリアンナかわいそうに……」
私たちはだんだん声も大きくなり、私たちを見ている人たちも増えてきた。いつものデカイ先生が何か言っていたが耳に入らなかった。
「またお前たちか。アリシアに手を出すなら僕はゆるさないよ」
ああ、エディ。来てくれたのね。
それなのにエディは私を睨み付ける……。やはりこの女が何かしたのだわ。
エディはこの女の腰を抱き、何かを話しかけていたが聞こえなかった。その際びっくりするぐらいの優しい笑顔だったから私の涙も引っ込んでしまった。
この笑顔は私のものなのに。
「この件は職員会議で報告する」
先生の言葉にハッとした。するとステラたちが反論し出した。
「殿下は騙されてる」
「先生は高位貴族を贔屓している」
けれどもエディはこちらを見ることなくあの女と食堂を出ようとしていた。
「殿下は騙されてます。目を覚まして!」
私は叫んだけれど返事はなかった。あの女、許さない!
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや高評価★、感想など頂けるとうれしいです。
励みにしますのでぜひよろしくお願いします(*^^*)




