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なんともまあ、喧しいところだ

「で、結局その包みは何だったんだ?」


 盗賊、シェスカが抱える包みを指差す。


「知らなかったのかよ!」


 俺が突っ込むと、シェスカが答えた。


「はらぺこグリズリーのお肉なんですが……」


「――はらぺこグリズリー!!」


 アミルちゃんが目を見開いて声をあげた。


「えぇ」


 シェスカが包みをといて見せてやる。

 すると、アミルちゃんのお腹がきゅるきゅる鳴った。

 アミルちゃんが、ハッとした。


「うぅ……」


 赤くなって俯いちゃった。


「カーット! 今のなしな、俺らは何も聞かなかった、いいな」


 俺が、バカにしか見えないメガホン片手に言うと、


「は、はい」「お、おう」


 シェスカ、盗賊、頷く。

 仕切り直して――、

 Take2。


「アミル、戦ったらお腹すいた。お肉さん食べたいの」


 進言するアミルちゃん、猫って肉食ときくが、アミルちゃんもそうなのだろうか?

 ともあれ、アミルちゃん、一つ失念していることがあるぞ。


「アミルよ、お魚さんのことを忘れてはならぬぞ……」


 俺は神託風に、アミルに授けた(教えてやる)


「そうだった!」


 阿呆面を惜しげなく晒すアミルちゃんは、盗賊に向かって――、


「――盗賊! お魚!」


 と要求した。

 俺の脳裏で、盗賊はお魚じゃありません。ってボイスが、先生の野太い声で再生された。CV:野村(のむら)秀勝(ひでかつ)。なんちて。


「は? お前、坊主に負けたじゃねえか、約束は反故だ」


 盗賊はアミルちゃんの要求を却下した。


「盗賊ぅ……」


 アミルちゃんは、泣きそうな顔をした。


「ちっ! わーったよ、やるから、そんな顔すんな」


 ロリの泣き落としに弱い盗賊は、頭をかきむしって、「あー! しかたねーな!」とやけくそぎみに、言った。


「こうなりゃ自棄だ!」


 バンッ!


「アジトまで、連れていく!」


 ババンッ!

 言いきりましたよ。男だねぇ。

 こうして突撃、お宅訪問、アミルちゃんと盗賊の共同住まい編へ、と続く。




 盗賊がアジトまでの案内を引き受けてくれた。先頭を歩くので素直に、着いていく。

 アミルちゃんは、どこにあるか未だに覚えていないらしい。てなことを盗賊が嘆いていた。

 両サイドに美少女を連れて歩く道中は格別のひとときだった。両手に花とはこのことか。

 しかもアミルちゃんが、ギュッっと俺の手を握って身をくっ付けている。なんか頬を押し付けられて、あちこちペタペタ触られるんだが。まあ、こういうのもいいな。


「わー、すごいです」


 呟いたシェスカはというと、その反対側で喜劇(タイラントクロコダイルVSグレートヒッポ)を見ながら、ほげーっと歩いている。


「タイラントクロコダイルさん、負けちゃダメです!」


 あいつらは命懸けなのに、シェスカと来たら、能天気なことだ。ワニ3体に、グレートヒッポは1体で渡り合っているぞ。

 てか、カバ社長がワニ部長ら、吹っ飛ばしてるぞ。おいおいワニ部長、何やらかしたんだよ……。ワニ部長もカバ社長に、一生懸命噛みついているが。

 にしても、バシャーンって、水飛沫がスゴい。あんなのに存在ばれたら一貫の終わりだな……。

 戦車みたいなカバだ、こりゃさっきのキツネ死んだかもな。

 そんなこんなで、河のせせらぎ(と豪快な戦闘音)を耳に進むと、大きな滝がザザーと流れていた。大自然だな。


「なんともまあ、喧しいところだ」


「まあまあ、そう言わずに、自然を味わいましょうよ」


 俺が呟くと、シェスカが苦笑した。

 滝が爆音を立てて流れる中、盗賊は滝を見ながら、滝と張り合うような、大声を出して、言った。


「――この滝の裏だ!!」


 俺も盗賊に負けじと、大声を出す。


「どうやって入るんだ!? 滝を斬るのか!?」


「なわけねえだろ、バカじゃねえのか!!」


「うっせぇ、バカっていう方がバカだ!!」


「うっせぇのはお前だよ!!」


 アミルちゃんのネコパンチが炸裂した。


「二人ともうるさい!!」


『すいやせんでした!!』




 気を取り直して、盗賊が進み、俺らが後を追う。


「滝の裏の洞窟とは言っても、入り口はこっちだ」


 そう言って、盗賊、滝の横にある壁の前へ。


「ただの壁だぞ?」


「違うよ、ヒョウガお兄ちゃん」


 アミルちゃんが否定する。俺はシェスカと、顔を見合わせる。俺が首を傾げると、シェスカも傾げた。


「実はな――、ここの壁、ダミーなんだよ」


 盗賊、壁をペラっと捲った。壁は、そこだけ布製だった。


「すげえな!」


 俺は素直に関心する。ダミーの出来がいいぞ。ロマンを感じる。


「でしょ、でしょー!」


 尻尾フリフリ、ホメテホメテなアミルちゃんをナデナデしてやると、


「ふへへー」


 アミルちゃんが、にへらーと笑った。




 で、問題のシーンはこれからだ。

 俺らが洞窟に入ると、そこには――、


「――よう!」


 俺らに気づくと骨付き肉を食うのをやめて、片手をあげて気さくに挨拶する男。なんかごっつい鎧を着ている。


『…………』


 俺らは、ポカーンとした。俺らの時はそこで止ま――、


蔵持(くらもち)、俺の顔を見忘れたか?」


 その声に、ハッとする。

 ――一瞬、脳裏に浮かぶ、教壇に立つ男。

 おい! なんだよ、それ!?


「――先生がこんなところに来られるはずがないだろ!」


「来れたんだから来られるんだろ」


 先生は俺の突っ込みにそう答えた。何かがおかしいが、全くもって正論だ。しかし「この肉美味しいー!」、おかしなところには、おかしな奴が居るということに、俺「とってもジューシーな熊のお肉!」はまだ気づけていなかった。ん? なんか、誰かの声が聞こえたような――しかし、そこで思考は遮られた。


「――まあ聞いてくれよ、ここまで来るの、大変だったんだ――」


 発言者は先生だ。そして先生が語る。

 まとめるとこうだ。王族に直談判し、俺の指名手配をさせないようにした先生は、王族を取り込み、鎧を貰い、クラスメイトには町から出るなと言い付けて、即断行動、森へ俺を探しに出た。はらぺこグリズリーと殴り合いになるが、うなる拳(拳骨)で余裕の勝利をした先生は、原始的手段で火をつけ、骨付きの肉を焼いて食っていた、するとはらぺこグリズリーから受けた傷が回復したそうな。休もうと思ったら、ちょうどいいところに洞窟があってな、発見したのは俺じゃないが……。とは彼の言である。

 日々を、アグレッシブに生きる男。野村秀勝には、誰もついていけない――。


「あっ、悪魔君だ。よっと」


 前言撤回。先生の対面に誰かがいた。先生に気を取られすぎて気付かんかったが、一度目に入れると注意を一気に引き付けられるくらいのインパクトがある少女――ていうか、ニイニイが骨付き肉を持って、立ち上がる。


「てか、誰が、悪魔君だ、こら」


「悪魔呼び、あなた、敵ですか!」


 悪魔という単語に、シェスカが過剰反応する。よっぽどトラウマらしい、錫杖でぶん殴りにいきそうだった。


「シェスカ、敵意見せなくていい。クラスメイトの中でも、こいつは無害だと思う。ニイニイからも言えよ」


「うん、冗談だよ。私は、敵ではない」


 両手を上にあげヒラヒラするニイニイを尻目に、俺は荒ぶるシェスカを羽交い締めにし、おっぱい締めにする。


「――んっ! ちょっと! やん! ヒョウガ様! 人前でやめてください!」


 人前では恥ずかしいそうなので、解放してやる。


「人前でなければいいという許可いただきました。ありがとうございます。夜、こっそり部屋に行くから、エッチな下着で待っててね」


「そんな許可、あげてませんから!!」


「痴話喧嘩? 聖女様って彪河(ひょうが)に、無理やり拐われたんじゃなかったっけ? そして彪河は聖剣泥棒」


「ニイニイ、それは違う、陰謀と冤罪だ」


「そうなんだ?」


「ああ、事実無根だ。あの裏切り黒ローブ共に、魔女呼ばわりされた、聖女の身の安全を確保するために、ああするより他になかったんだ。そして俺は聖剣を盗んだわけではない、聖剣に選ばれたんだ」


「ふぅん? で、そっちは彼女?」


 ニイニイは怪訝そうな顔で俺とシェスカを見比べる。


「えっと、ですね……」


 シェスカが考え込んでしまった。


「彼女ではないな」


「――えっ?」


「聖女……じゃなくて、シェスカさん、ショック受けてるけど?」


「じゃあ、彼女なんじゃないか」


「テキトウだね」


「じゃあ、お前は俺のなんだ?」


「セフレ」


 さすがは、ニイニイといったところか即答だ。


「だよな」


「そうだったのですか!?」「おい、聞き捨てならんぞ」


 ヤジが飛んできた。


「盗賊、セフレ? って何?」


「……俺にふるな」


 あっちでもなんかやってるな、と思いつつ、俺は先生のヤジに答弁。


「生徒同士の話だし、別にいいじゃないか」


「まあ、お前らがそれでいいならいい、聞かなかったことにするが、あんまり変なことするんじゃないぞ」


「――冗談だ、ただの女友達ってやつだ、ニイニイがおかしなこと言ったから、乗っただけだ」


「おいおい、大人をからかうなよ」


 先生があきれた声をだし、女性陣が胸を撫で下ろしたのを、知ってか知らずか、元凶(ニイニイ)は次の話へ、移る。


「――ああ、彪河のこと、神埼(かんざき)君が、めっちゃ怒ってたよ、奴は僕との友情よりも女を取った屑だーって」


「うむ。痴情の縺れってやつだな」


 先生が勝手に納得して、茶々を入れるが、無視をする。


「なんだそりゃ? リュウセイとの友情なんてあったっけか?」


「あったんじゃないの?」


 ふむ、そうか。リュウセイ語録に、『奴は僕との友情よりも女を取った屑』を追加っと。

 やっぱイケメンは言うことが違うな。ためになる。


「しかも聖女は僕が必ず取り返すんだーって、鼻息荒くして意気込んでた。ありゃあ聖女に惚れてるかもね」


「なにやら、貞操の危機を感じます」


 シェスカが身震いした。ざまみろ、リュウセイ、お前はタイプじゃないみたいだぞ。てか、シェスカ、処女なのか。処女で聖女の癖に、黒なのか。


「あげくの果てには、奴を見つけたら、ちんこ、へし折れ、だよ? 参っちゃうよねー」


 ん? こいつ、今、なんつった?


「ちんこ、へし折れ?」


「うん。ちんこ」


 ニイニイは、けろっとした顔で、言った。

 これだから、こいつは……俺は、内心であきれつつ、


「ちんこってこれか?」


 俺は自分のモノを示す。

 掴んで、パオ~んだ。


「うん。そのちんこ。それなりだから、へし折りがいがあるだろうね」


 ニイニイは、それを見て平然と答える。


「聞き間違いじゃないのか?」


「ううん、ちんこ、へし折れって、確かに言った。あっ、正確には、ヒョウガのちんこの、棒へし折って、玉潰せ、だったかな?」


 物騒なことを言うもんだ。やっぱイケメンが言うことは、違うな。リュウセイ語録に『棒へし折って、玉潰せ』も追加しておく。リズミカルだな、みんなで斉唱したい。


「そうじゃなくてだな」


「ん?」


「たしかに、ちんこって言ったのか?」


「うん。ちんこって言ってた。おちんちんだね、おちんちん。喉ちんこでも、聖剣のことでもなくて、ブツだね、ブツ。あの神埼君がそこまで言うなんて、よっぽどだよねー」


「あのなぁ……。俺の股間指差しながら、ちんこだのブツだの言うのやめてくれないか?」


「ん? 触りながらの方がわかりやすかった?」


「ああ! 最後に口でしてくれれば最高だな! そしたら白濁液のバーゲンセールだ、とびっきり濃いのをぶっかけてやるぜ!」


 キメに、俺は親指をたてて、歯を見せ、ニカッとする。


「――って、ちゃうわ!」


 そうじゃない。何を言わせるんだこいつは。しかも、ニイニイは「そっかあ」って朗らかに笑って、俺の前で膝を着いて――、


「マテマテ、やめろ、ファスナーをオープンするな。今はヤバイ」


「へぇー、想像して、勃っちゃったんだ?」


「お前少し、黙れよ」


「ガハハ。あの蔵持がたじたじだ」


 そらみろ、先生が爆笑してるぞ。てか、先生、あんたこいつの手綱にぎれよ、こいつとておなごなんだからな。俺? 俺はこいつを操縦するのはとうに諦めた。

 まったく、やれやれである。こいつなら、皆の前でも、俺のおちんちんブレードを触りながら、ちんこちんこ言いそうでこえぇな。

 そして、シェスカとアミルちゃんが俺たちの口から勃発した下品な会話にひいてるが、こいつはこういう奴なんだよ、乙女心なんて持ち合わせちゃいないのさ。ちなみに盗賊は背景とかしていた。懸命な判断だこと。

 ともあれ、こんな話になった元凶はリュウセイなので、すべてリュウセイのせいでいいだろう。


「まあ、やめよう、女の子達がいたたまれない」


「りょーかぃ」


 ニイニイがにっこり歯を見せながら、敬礼。すると、


「異世界に招かれて、早々だしな、神埼も、きっと色々混乱しているんだろう、実際へし折られんうちは穏便にすませろ」


 先生がリュウセイを擁護した。

 そりゃそうだよな。異世界にまで来て喧嘩なんて、よくないよな。


「とにもかくにも、私も来たよん」


 私も来たよん、なニイニイは、名乗りをあげた。


「クラス一の美少女こと、ニイニイ、参上! どんどんパフパフ!」


 ニカッと歯を見せ笑い、骨付き肉片手にポーズを決めるニイニイ。クラス一の残念少女の間違いだろ。――ん?

 ニイニイは骨付き肉を俺に向けて、言った。


「食べる?」


「食い掛けを、躊躇なく、差し出すな!」


 きちゃない。だが、いただく、おなごの(エキス)がふんだんに塗りたくられてそうだ。

 俺が受け取ろうとすると、おにゃごが妨害した!


「――食べる!」


 いうが早いか、アミルちゃんが、食い掛けお肉にかぶりついていた。


「おいおい、ペロペロしようとしてからむさぼり食おうとしていた俺が言うものなんだが……」


「ヒョウガ様、そんなことしようとしてたのですか……?」


 シェスカが、白い目で見てくるのを耳に、俺は続けた。


「アミルよ、毒が塗りたくられてたら、どうするつもりだったんだ、一瞬でお陀仏だぞ、危ないだろ」


「そんなことしないよー、失礼しちゃうなぁー」


「ニイニイお姉ちゃんが、食べてたから、大丈夫だと思った」


「そっかぁー、アミルちゃんは、賢いなぁー」


 だだ甘やかす俺。うちのアミルちゃんが賢い。


「てか、この娘、猫さんだー。可愛いね」


 ニイニイが俺のアミルちゃんを撫で回す。アミルちゃんは、食べ物につられやすいのか、重々気を付けねばならない。

 とにもかくにも、洞窟には、先客として、先生と、俺の女友達である、ニイニイこと新居(あらい)仁衣(にい)がいたのだった。




「で、なんでお前、ここにいる」


「面白そうだったから、先生にくっついてきた」


 とのことだ。

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