蔵持彪河
俺の半生をここに語る。
俺は生まれる前に父を亡くし、俺を高齢出産した母もいつかは、曖昧だが、年齢が二桁に届く前に亡くしている。祖父母は父よりもさらに早くに他界しているので、遺影での顔しか知らない。
田舎の親戚の家へ、預けられた俺は、親戚と反りがあわず、くすねた金を手に家を飛び出した。俺の歳が、10を越えた時だった。
両親を亡くした俺を、腫れ物のように扱う彼らと、深い繋がりを築けなかったのだ。どうしても、家族とは、思えなかったのだ。
どうにかこうにか、自分の真の故郷に戻った俺は、路上生活をし、万引きや、知り合いとなった路上生活者に教えてもらったスリ等をしながら食いつなぐ。俺がお縄につくことはなかった、案外、ばれないものだ。故郷に戻ってきたのは、今でも、なぜだか、わからない、俺には何もないのに。
そんな生活を続けて、何年か経つと、俺みたいな奴を気にかける人物が現れた。若い男だ。若い男は、なぜか毎日、走っていた。時間は主に早朝で、日中や日没に見かけたこともある。
俺はそんな若い男と何度も顔を会わせるうちに、ふと声をかけられたのだ。
若い男に、なぜ毎日のようにブラついている、日中にも見かけた不自然だ。と訊ねられた俺は、隠しても仕方がないと、後ろ暗いこと以外の全てを話した。まあ、後ろ暗いことに関しても見抜かれてはいなくても察しられていたのだと、今となっては思う。
俺の話を相づちをうちながら訊いた若い男は、笑いながら言った。俺は企業に面接に言ったんだが、何度挑戦しても、蹴られてしまってな、実は今、無職なんだ。何がダメなんかね……。ハキハキとした口調と態度で、挑んでいるつもりなんだが、それがダメなのか?
若い男改め無職男の話を聞いた俺は、正直、それがどうした、と思いつつも、ハリキリすぎなんじゃないか、もっと肩の力を抜いて、物事に挑めば、きっと上手くいくと思うぞ。とアドバイスしてやった。
無職男。そういうもんかねぇ……。
俺。そういうもんだ。(たぶんな)。
俺と無職男はその後もちょくちょくかち合い、語らったが関係性は少しずつ変化していった。
第一の変化は、無職男の、お前、勉強もろくにしてないんだろ? 教えてやるから俺の家へ、来い。という言葉だった。
第二の変化は、無職男の、俺、実は、教師を夢見てたときが、あるんだ。という言葉だった。
第三の変化は、無職男の、お前、俺の養子にならないか、俺と一緒に暮らしたくないのなら、家をなんとか用意してやる。という言葉だった。
第四の変化は、先生の、非行をやめて俺の勤める学校へ通え、俺は頑張って、教師になったのだから、お前も頑張れ。という言葉だった。
そんなこんなで俺は更正した(つもりだ)。そして学校に通い始めた。担任は無職男もとい先生だった。元無職男こと野村秀勝が担任で気にかけてくれるのだが、クラスメイトとの関係性はいまいち芳しくなかった。どうやら俺は、クラス一の変態として、軽蔑されているようだ。唯一、積極的に接してくれたリュウセイも、俺の過去の業を知ると、皆に拡散しやがった、俺はリュウセイと距離をとった。するとクラスメイトたちに、露骨に避けられ、犯罪者を見るかのような目で見られた。
クラス一の美少女たる、桃山さんですら、ことあるごとに、罵倒してくる。俺を、蔑んだ目が実にそそる……ゲフンゲフン。しかもだ、桃山みのる親衛隊なるものもあって、実に厄介だ……。
ともかく、みんなが俺を、蔑視しだしたようだ。リュウセイの野郎とその子分がやりやがった。
だが、それでもまあ、表だって虐められないだけ、まだマシだろうな。クラスの参謀である空町廻とその配下である空町軍が、ウザイくらいか。制服を着崩し、窓から外を見て、欠伸ばっかしている俺のことが、怖いのかもしれんが――、ああ、そうそう、変な女が絡んできたこともあったな、下ネタもケロっとした顔で言うヤバイやつだ。新居仁衣。あだ名は、ニイニイ。まさに、クラス一の珍獣で、めっちゃ浮いてるんだよな。おかしな奴もいるもんだ。まあ、俺も似たような存在になり下がったが。なお、そう思ってたのは、最初だけで、今では一応、フレンドだ。
とにもかくにも、俺の学校生活は、蔑みに、満ちている。
これ以上語ることもないから締めよう、そんな俺は――蔵持彪河。
学生という役を、頑張ってこなしている一人の人間だ。