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落差


 ロイヤルズ2番にも守備シフトは適用される。

 右打ちで小柄ながらパンチ力のある打撃が武器の花池にたいしては大胆にも外野手3人とも大きく前に出す。


 花池は昨年度、13本塁打に27二塁打とそれなりの長打が期待できる打者で、一見すると無謀すぎる策だが、それでもあおいは前に来る外野手3人の動きに、うんうんと満足げである。


「確かに、花池はいわゆる小力のあるタイプで時折ハッとする長打力を見せる。でも、仙谷にたいしてはそれは無理。仙谷の左右高低で揺さぶる変化球攻めで、花池は当てに行くのが精一杯。ヒットのほとんどが内外野の隙間に落ちるいわゆるポテンヒットで、長打は長い対戦歴で数本しかない。で、外野手の頭を越そうと力んだら? それこそ仙谷の術中にハマるわ……」


 なるほど、岡部のケースよりはまっとうな理論付けはできてはいる。。


 だが、それもバッテリーが狙いをよく理解しての話だ。

 岡部の時は一致した見解が成功を呼んだが、なにせ二人は意思疎通不可能な犬猿バッテリー。

 前に出た外野手を見て鶴嶺のサインが出る。しかし、仙谷はなかなか首を縦に振らない。

 積極打法花池相手だけに初球が大事だとしても神経質すぎるし、シフトから導き出す見解が仙谷と鶴嶺の間で一致してないことにもなる。


 ようやく仙谷が首を縦に振ったそのコースと球種は、外に切れる緩いカーブ。

 花池は仙谷相手にはなかなか出せない持ち前の思い切りのいいフルスイングで積極果敢な攻撃を見せる。

 放った打球は前に出たレフトをあぜけ笑うように遥か上を越して左中間の外野フェンスに勢いのいい球足のままぶつかっては跳ね返ってくる。


 前に出ていたレフトとセンターはその打球の元にいくのも時間がかかって、花池はあっという間に三塁ベースに到着する。


「えええええ? ど、どういうこと? なんでカーブ?? 花池は緩いボールには一呼吸置ける天性的な資質が備わっている。だから、初球カーブとかもってのほかなのは常識なのに。仙谷が首を振った結果、鶴嶺が渋々出したサイン? それとも最近の仙谷をよく知らない鶴嶺が出したサインに仙谷が「打たれてもいいなら投げるよ」と半ば見放した結果? 仙谷は自分をよく知っているから、おそらく後者……。これが、3年間ブランクのある意思疎通0バッテリーの弱点?」


 岡部には成功したシフトが花池には通じない。

 誰がどうみてもあおい主導のシフトの失敗。

 18歳の高卒お姉ちゃんがGMなどできるわけない、それみたことの雰囲気がスタジアム中を占めていくる。

 そんな息苦しい空気を感じたあおいは顔面蒼白。それまでの揚々とした独り言が急に途絶えがちになる。


「そ、そんな……速いボールと緩いボールの中間に当るスライダーやフォークで攻めていれば花池は持ち前のスイングができずにシフトにハマるはずだったのに……。それくらい鶴嶺はわかってると思って細かい指示は避けたのに……」

 

 3番は強打の看板打者丹波。あらゆる方向に強い打球を飛ばすこのスラッガー相手にはさすがのあおいもシフトは敷けない……そのはずだったが、守備走塁コーチの岸田がタブレットであおいが書き込んだ細かい指示を見ながら守備位置をまたまた思い切り替える。


「ああ……辞めてー。定位置にいて……。定位置で結果的に傷口が広がってもそれはそれで私の責任追及が薄れる……」


 早くも自信喪失状態のあおいに救いの手が舞い込もうとする。

 大学の都合で到着が遅れてたきたエリカ代行、あおいをGMに抜擢した張本人だ。


「あ、代行……」


 振り向いた先にいた救世主にあおいは涙目で救いを求める。


 あおいの資質を唯一知る彼女なら、一回の失敗にくよくよするなと励ましの手が伸びるはずだが、エリカは開口一番ーー。


「え? 捕手鶴嶺? 仙谷さん相手に? ええ、打者丹波なのになんであんな所守っているの?」

 逆に傷口をえぐるように広げにくる。


「あ、ちょっとまって、今大学でできた彼からラインが来た……」


 しかも、プライベートに気を取られて野球とあおいには気もそぞろ。


 一方、捕手鶴嶺は動いたシフトにどうサインを出していいか悩み、固まっている。


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