分裂か分立か
「はい? どういうこと……」
帰社するやいなや、ルナはあまりの急展開のために大きな目を白黒させるしかない。
朝会議をしてたのが元々のスカウト部専用室。その横は現在空き部屋だったのだが、朝にはなかったはずの釘にヒモをつけるだけ簡易的な看板案内表示がされている。そこには太くて雑な黒のマジックの筆記で衝撃的な表記がある。
「はあ、第2スカウト室……メンバーは遠藤ルナ部長に瀧口に立岡……?」
「ええ、僕も……ですか?」
運転手を買ってでたのが最後、立岡も勝手にルナ一派の一員にされてしまった。
「オレは金さえ貰えればなんでも」
相変わらず居直る瀧口、彼は気楽に安定した高給が得れれば後はどうでもいいらしい。
「ちょっとどういうこと?」
朝会議してた部屋をルナが怒気を込めて勢いよく開けるとそこには会議が終わってスカウト活動に散ったはずの連中がそのままいた。
湧川副部長中心に議論が白熱している最中。ホワイトボードには何人ものドラフト候補の名前が書かれている。
「あ、ルナ部長、お帰りですか」
湧川は不機嫌モードだった朝と一転、激しい作り笑顔でルナたちを迎える。
「だからどういうことですか? 会議は終わって通常業務に戻ったはずでしょ? なんで会議やってるの?」
「ルナ部長とその2人と我々でグループを分けることで残りのスカウトで全会一致となりまして」
「全会一致? 責任者は私ですよ!? あと他2人の意見も聞かないと」
「あれ会議や民主主義は嫌いなはずでは?」
「……うーん、ならいいわ、揉めても無駄な時間だし、こっちのやり方が気に入らなければ勝手にすればいい。分けることも容認してあげる。私たち3人は私のやり方、そっちは古臭いやり方。GMやエリカ代行はどっちの指名案をより受け入れてくれるかの勝負。あの子らは同級生のよしみで忖度してくれる連中じゃないから、公平にセレクトしてくれる……」
「なら勝負と行きましょうか、よろしいですか? ルナ部長」
「10中8、9、今年のドラフト全選手うちらの案になるけど、なった場合どうします? 旧来手法グループは解散します?」
「逆なら、そちらの3人共来季はスカウト部にはいないということでよろしいですかね……」
「よーし、決まった」
ルナは判断が早い。くるりときびすを返し、空き部屋だった新しいスカウト部室に向かう。
瀧口はとくに信念なくルナの後を追い、山内はなんで僕まで?と困惑の顔のまま、ルナら3人専用スカウト室に足取り重く入室。
中には薄汚れた木の机とパイプ椅子3つがあるだけで全体的にホコリがかぶっている。
「タッキーが掃除とかやるわけないし、私も大嫌い……ってことは」
ルナは備え付けのほうきを立岡に渡す。
「僕っすかあ?」
「一番下っ端じゃないの」
「年は真ん中だしスカウトのランクもタッキーより上だと思うけどなあ……」
立岡がせっせとホウキで掃除してる間、ルナと瀧口はパイプ椅子にただ座り混んでいる。瀧口はやる気0で、ルナは勝機満々の顔で。
「あ、でもボンクラタッキーと若造立岡ってほぼ私一人が戦力じゃん!! あ、結構大変ね、どうせ勝つのうちらだけど」