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遠藤ルナ!

遠藤ルナはスカウト部長に就任したその一発目の会議で不可逆的な所信表明演説をする。


「会議はしない、だって意味ないし」


 球団事務所の会議室にはバロンズスカウトが全員集合してすし詰め状態。

 いきなり自分たちの長になった女子大1年生に警戒たっぷりの中、予想だにしない宣言に一同あっけに取られている。


「会議なんて責任を曖昧にするだけのもの。スカウトのアピールは私への直接にしとけばいいから。話し合って決めるものじゃない。私が決める」

 バーンと机に両手をつけるルナは女子野球のルックス、才能伴ったスーパースターだっただけに凜々しいし、正論か悪論かはわからないが言葉にかなりの説得力がある。


 とはいえ、会議で呼んどいて会議をしないではスカウトの誰もが納得しない。

 まず、やんわりと噛み付いたのが、ルナの前のスカウト部門トップだった『湧川裕二』。御年67歳のスカウト生活30年の大ベテランだ。

 副部長への異例の降格人事にも、人のいい彼は嫌な顔した受け入れたが、効果不明の方針まではそうはいかない。


「部長、お言葉ですが、一人の新人の獲得には何千、何億のもお金が動くのです。一人の目よりスカウト全体でクロスチェックし意見を交わし、見極めるのが最良の方法だと思いますが……」


「その方法で結果を残した?」


「……」


「3年前のドラフトがいい例。野球ファンの間では早くも史上最悪と評される酷さ。7人指名したうちすでに3人が戦力外で即戦力のはずだったドライチ笹川も全く働いてない……このドライチの担当は湧川副部長でしたよね?」


「……いや、名目上は彼、笹川がいた地域担当の僕だけど、決めたのは全会一致……。外れドライチの筆頭候補は笹川しかいないと」


「ほおらきた、全会一致の会議が産んだモンスター。責任転嫁を繰り返し誰も責任を取らない。普通、そこまで外したらスカウト首でしょ。それどころか、部長のまま。私に弾かれて降格したけど」


「う……」


「会議は無駄。会議がなければ責任を取るのはその選手の担当スカウトと私だけとわかりやしすいでしょ」


「だが、会議で生まれた名選手もおるで……」


 口を挟んだのは51歳の中堅スカウト、矢島。矢島はコーチ経験も豊富の実践派で、選手獲得にもグラウンド目線が活きる。


「FAで出てしもうたが、安斎は喧々諤々の議論が煮詰まってやっと上位獲得を決めた選手や。やつは当時の担当スカウトと部長が高評価しとった内野手やが、肩の故障歴で決断に踏み切れなかったのや。だが、ワシが肩を壊していても二塁なら使えると踏んでな、指名するよう後押ししたんや。これこそ湧川のおっさんがいうクロスチェックが結んだ好例やろ?」


「その程度の目と判断力は私も持ち合わせてるわ。誰の判断も意見もいらない、取るも取らないも私が決める」


「なんやとこの……」

 今にもルナに食って掛かりそうな矢島の手を抑えたのは、穴狙いのちょーさんと呼ばれる長居、48歳。


「僕はルナ部長も知ってる通り、大穴狙いだ。正直、欲しい選手をそんなん通用せんと会議で跳ねられる思いを何度もしてきた。その選手が他球団で活躍しとる姿をみると悔しくてたまらん。もし、部長が慧眼の持ち主なら僕はのってもいいよ」

 

「たしかさっきあげつらった3年前の大恐慌ドラフトのときに長居さんが推したにも関わらず漏れた選手の中に井中がいますよ?

井中は大学進学し今や大学球界のスターに登り詰め、今年の上位指名が確実視されてる」


「甲子園にも出てない無名校出身やから何位でも取れたんだ。ところが、指名容認がでんかったからプロ志望届を出させることできず大学に行っちまえやがった。そんときの7位が山内の担当した緒方だ。緒方と井中が競って緒方が残った」

 長居がきっと睨みつける先にいるのがその緒方を取った山内である。43歳、口が立つ青年スカウトだ。

「緒方もええ選手ですよ。まだ2軍ですが、そのうち1軍にあがるでしょうよ」


 今度はルナが口を挟む。


「緒方? 去年の2軍打率が.187の? パワーも守備もこれといったところのない緒方と大学スターで大学代表レギュラー井中で緒方を選ぶ編成っているのかな?」


「いるわけないわな。当時は山内のプレゼンに負けたんだ。立て板に水のごとくずらずら美辞麗句を並べるから、皆山内になびいたな」


「はいまた会議の弊害……やっぱ辞めるべきでしょ、会議って。スカウトってのは選手を見極めるのが仕事でそれを過大にして売り込むのが仕事じゃないし。熱意なんかにはほだされて正確な見積もりを誤らないから私は。そしてその年の6位が……会議の有効性とは無関係だけど、またスカウト界隈の典型的悪例。飯島、なんと1年で素行不良で首になったいわくつきの選手。この飯島を取ったスカウトは……さすがにもうここにはいないけど」


「飯島? 僕の番です!!」

 思わず立ち上がったの立岡という若手スカウト。選手引退してまだ4年のため肌ツヤもいい。

「飯島と僕が推す萱島の6位枠争奪戦で僕は長居さんと違ってプレゼンでも圧勝したんです、会議のムードも明らかに僕優位でした。でも当日指名されたのは飯島でした。僕は当然、今の副部長、当時の部長に食って掛かりりました。そしたら湧川さんはこう言いました! 『今年は猿川(飯島担当)さんの番だから』でした! つまり、くだらない公平主義で3年前の直近猿川さんの担当選手が指名されなかったから指名したっていうことなんですよ! どうです、これルナ部長、こんなこと許されます?」


「山内スカウトが指名する予定だった萱島も全然だけどね……」

「く……」


「というか、この議論自体無意味でしょ? 会議は無駄って結論はとっくに出てるんだし。さてお開きしましょう、時間の無駄、スマホ動画の粗い画像でも選手を観てるほうがいい」


ルナが会議開始30分ほどでお開きにしようと立ち上がり、ドアにノブをかけたところ、ノブは逆に回る。


「? あ、あの人か、席空いてたな、そういえば」

 会議室のドアは外に向かって開く方式。部屋から出掛けたルナと顔を合わせたのは瀧口。

「あ、ごめんごめん、電車が遅れてさあ」「どうも、瀧口さん久しぶり」

「あ、ルナちゃん、あいや今はルナ部長か」

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