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造反


 新藤は策謀や野球知識、統率力に優れてるからヘッドコーチに上り詰めたわけでもなく、ただバロンズ一筋でそこそこ指導者経験あって外様の栗原に比べてチームをよく知っているから……との理由で選ばれた典型的消去法人材登用。

 そのためヘッドコーチにふさわしい能力や威厳などは皆無だ。

 しかも、一筋故に他の球団へのコネもなくバロンズを首になったら路頭に迷う立場でエリカに逆らえる道理がどこにもない。

 だからこそ、新たな傀儡人形にはぴったりでエリカはてらうことなく、指示を飛ばしまくる。


「新藤さん、ここは一球みさせて」


「新藤さん、ここはスチールを仕掛けて」


 エリカの的確な指示と相手投手のコントロール難もあり、塁はあっという間に埋まり、満塁で4番の那須野にまわる。

 ここで一発出れば、4対3で試合はひっくり返ることになるが、那須野はエリカ代行らの就任にいい気分がしてない。

 失敗続きで早速崖っぷちに追い込まれてる新フロント陣を救う気になれるだろうか?


「那須野さんは打つと思う?」

 エリカはすっかり意気消沈してるあおいに投げかける。

「そりゃ、打てるなら打つ……んじゃないの?」


「どうかな、ここで打ったら試合はまだまだわからなくなる。となれば、私達を救うことになる」


「あ、そうか……」


「わざと打たないってこともあの人の性格ならありえるしね、でもその意固地な性格を利用することはできる」


「どういうこと?」


「まあ、見てなさいって」


 エリカは新藤にまたスマホスピーカー経由で指示を飛ばす。


「いい、新藤さん、那須野さんにこうサインを出して。全球、振らずに見送れって」

「ぜ、全球ですか? 代行」


「うん、全球」


 傀儡でしかない新藤はそれでもそのとおりサインを出すしかない。


「はあ?」

 サインを受け取った那須野はあからさまなしかめっ面を浮かべる。

 それはそうだろう、一打逆転の満塁シュチエーションとなれば打者の最もな見せ所。

 全球見送れってフォアボールを選べても嬉しくもなんともない。

 もともとエリカ代行就任を気に食わない那須野は造反して強引に打ちに行くことは想定できる。


「絶対打ちに行く。それで、いつもはこういう大チャンスにてんで弱い那須野さんでも、人に嫌がらせるできる場面は大得意。毎度同おなじみの力みかえった打撃は影を潜め、的を絞って力感のないそれでいてスムーズな理想的なスイングを見せる。あおいGMも覚えているでしょ? 那須野の数々の嫌がらせ劇的弾」


「あ、引退試合の投手からホームラン打ったり、相手が本拠地優勝決めるかの試合で逆転打決めたり……。確かにその時のスイングはいつもと違い理想的だった」


「で、この場面も私達に嫌がらせできる格好のシュチエーション。ホームラン打ったあと、こう叫ぶつもりでしょう、全球待てのサインが私から出たから造反して打ちにいったって」


「打つには越したことないけど、それもこれも私達の策略の結果ってどう証明するの? 打ったあとに行ったら所詮後出しに過ぎなくない?」


「それを防ぐために先手を打つの。あらかじめマスメディアにメールを送信していく。那須野に出した全球待ては彼の反骨心を呼び覚ますためって」


「あ……」


 どこまでもエリカは用意周到なのだろう、あおいは半ば呆れるしかない。


 しかも本当に言うとおり打つのだから末恐ろしい。

 エリカが言うとおり那須野はスムーズなスイングでコントロールが荒れる相手投手がただ一球投げた甘いストライクを見逃さなかった。

 逆転満塁ホームラン。那須野はエリカ批判のコメントを出すが、その前にエリカが先手を打っていたとなれば、それは批判どころか、エリカの称賛につながる。


「ほら打ったでしょ?」


 すべてはエリカが思うがまま。あおいは、とんでもなくスケールのでかい大人物と共闘していかなければならない現実に軽い恐怖感すら覚え始めている。

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