会見
突然決まった女子大生オーナー代行の誕生。それだけでインパクト大なのに、記者会見当日にはさらなるサプライズが用意されていた。
横浜市内中心部にあるそれなりに一流ホテルの会場はマスコミ陣でごった返している。
大越エリカ、18歳、首都圏有名大学1年生。
彼女は横浜バロンズの親会社で球団買収時のオーナー大越徳治郎の孫娘である。
現在のオーナーは彼女の実の父親で婿養子で大越栄治。栄治は親会社に取り掛かりっきりで球団は他のフロントに任せっきりとやる気ゼロ。
徳治郎はいまだ健在な上に親会社や球団への発言力は絶大。徳治郎自身、球団買収時から自由奔放な言動で話題を集めた情熱型経営者だったたけに、今の赤字にさえならなければOKの経営スタイルが面白くない。
それゆえ、自分の血を引いて気質がそっくりと評判の孫娘に大暴れの再来を期待したのだろう、オーナー代行になりたいとの彼女のおねだりに二つ返事で快諾した。
「目指す野球と球団像? 優勝した上にSNSの話題も独占で球場も満杯、これくらいは最低限度かな?」
いきなり大口叩くエリカだが、彼女は幼少時からその言動と端麗な容姿から有名人なために、球団トップ入りは想像の範囲だった。外から選手起用に口を出すのは日常茶飯事。ベンチに堂々入って采配を勝手にふるい始めた事例もあったほどだから。エリカの代行就任自体の驚きは実はそうでもない。
だが、エリカの横に3人の同年代の少女、しかもエリカに負けじの粒揃いとなれば、ニュース性は加速する。
「横の3人? 全員、私の高校の同級生。まず私の右隣が外国人スカウトを担当してもらう、小林ましろ」
小林ましろ、現在アメリカの一流大学に留学中。どちらかという丸顔アイドルタイプでむっちりなエリカと違い、ほっそりした長身モデル体形で顔も有名女優顔負けなほど整っている。
「よろしくおねがいします。野球のことは全然ですからこれから猛勉強したいと思います」
「それで、私の左隣が松家ゆうな。彼女には広報宣伝部門を受け持ってもらいます」
松家ゆうな、彼女は現在浪人生兼フリーター。エリカやましろの同級生なだけあって、彼女も頭自体はいいが、どこか抜けていて、現役大学合格は不可で現在浪人の身。顔立ちはアイドルでも通用する愛嬌抜群タイプ。ところが、会場の評価はましろが紹介されたよりいささか盛り上がりに欠ける。他3人と比較して顔の整いが今一なのが影響したか。
「えっと、私も野球のことは全然でましろみたいに勉強もする気も今ひとつないけど、営業や広報なら別に問題ないのかな?」
その受け答えもやはり間抜け。ましろは友達だろうが語学堪能理知的など能力を勝っての起用だろうが、ゆうなの場合はコネ採用の域をどう見ても超えてない。
「で、ましろの隣が……あ、彼女は知ってる人は多いのかな? 遠藤ルナ、言うまでもなく女子野球のスーパースター。彼女には国内でスカウト活動をしてもらいます」
遠藤ルナ、元女子野球の超がつくスター、現在は大学に通うが、肩を痛めために野球は休止中。それでも投手だけでなく打力もダントツで高いスター性から野手として女子プロ野球からの誘いが絶えなかったが、本人は投げられないなら野球をやる意味自体がないと断固拒絶して進学を選んだ。
ショートカットで浅黒い肌はいかにもスポーツウーマンだが、強気な顔立ちは男よりむしろ同性受けしそうだ。
「野球やってないと暇で暇で仕方なかったから、二つ返事。選手を見る目? 男よりありますよ」
ルナはマスコミ露出が多いために、受け答えも前二人より堂々としている。
これで3人の紹介が終わったが、気になるのはゆうなの隣席が空いていること。
「あ、空いている席にはゼネラルマネージャー、GMをやってもらう岡村あおいの席なんですけど、彼女はコミュ障で引っ込み思案で会見は出たくないとどうしても聞かなくて。でもそれじゃあ困るよね、GMって交渉力必須だし……はは……。でもGMの本質としての能力は凄いんだから。私より野球に造詣深いし、突拍子もないアイデアもぶつけてくるし……」
一人欠席のあおいはエリカの同級生は3人と同じでも、実は高校時代まともな会話すらしたことない関係。それでもエリカが彼女をフロント入りさせたのは、彼女が極度な野球オタクで独特な野球観を持ってることにあるふとした出来事をきっかけに気づいてしまったから。
「彼女がどういう人間なのかは彼女の仕事ぶりで判断してくださいね」
記者からの質問攻めの前にエリカは軽い紹介だけでいいでしょと言わんばかりに会見を打ち切った。
みな揃って齢19,18の小娘で、一体なにができるかとの厳しい質問を予想したためだろうが、早々切り上げた理由はそれだけではなかった。
欠席したあおいが今どうしてるかを今すぐにでも確認する必要があったからだ。
あおいは会場があるホテル自体には来ていた。あれほど出席を嫌がってもホテル入りする勇気はあったのだが、そこからが足が竦む。
エリカがむりやり連れて行こうにも駄々っ子のようにゴネて、遂には強情なエリカも諦めざるを得なかった。
あおいは今一人控室に残されている。逃げてはいやしないかとエリカは案じていたが、あおいは部屋にはいた。ホテルの規模と不釣り合いなパイプ椅子に一人ぽつんと座りながらスマホを眺めている。
あおいは今、ゆうなと同じ浪人生の立場。といってもゆうなのように学力努力不足が起因でなく、とある理由で大学受験日に会場入りできずに来年に合格を後回しにしてる状態だった。
奥深く光るメガネはいかにも知的で長い髪は引きこもり体質な割に鮮やかなな光沢を発している。性格はグチュグチュイジイジしているが目鼻立ちははっきりくっきりで胸はないがましろ並のモデル体型と見た目は発する暗黒オーラ以外欠点はない。
「あおい、どう? 会見みた?」
会見はネット動画を通じてスマホがあればどこでも見れるようになっていたのだが、あおいはスマホを眺めていても会見を見ている様子はなかった。その代わりに、なんと、野球のデータを眺めていたのだ。
「この子は本当にもう……」
呆れるやらなんやらだが、どんな時でも野球研究に没頭するこのあおいの姿勢をエリカは何よりも勝ったのだ。
「あおい、いい!? 今日から会見終わった瞬間からGMだから! 何でも好きにしていいよ、あ、でも気に食わないと口出すけどね」
あおいはエリカの檄に受け答えるどころか、顔もあげないで相変わらずスマホに並ぶ野球データとひたすらにらめっこ。
無口なあおいと有言実行がモットーなエリカ。一見不釣り合いなコンビが球界にどのような旋風を巻き起こすのか?