AssassinCrow 6.0 終
ー…廃工場跡地
「ー♪」
廃棄品だらけの暗い場所から男の鼻歌が響き渡る。
「そろそろ迎えてあげないとね」
そう言いながら銃器をつつ、と撫でるように触りながらもメンテナンスをしていた。
男の所持している銃はほぼ改造品であろう。弾は勿論の事、中身をバラして使用されたような“外装が取れた銃”が数個あり、グレードアップを図っているようだった。
「準備はバッチリ」
腰に銃弾を入れた大量のミニポケットをパンパン、と触り男は立ち上がった。
「戦闘開始」
ー…とある山中。
あの後連絡を取り山中の分かれ道で一旦落ち合おうという話になった。
そして先に到着したのはウェインとニアでまだかまだかと待っていたその時。
向こうからおーいという声が聞こえたので声のする方へ目をやると、馴染んだ姿が見えた。
「お前ら!」
「貴方達」
息を切らした2人がニアとウェインの元へと駆け寄る。
話を纏めるのにここではなんだとレイドがいうので場所を移すことにした一行は、街にある賑やかな酒場へと向かった。
ー…酒場。
「強い奴に会っただぁ?」
ウェイン達の話を聞いたレイドが少し疑いを込めた声を発し、手に持っていた樽酒をどんっと机に置いた。
少し大きめの声という事もあり、ニアが抑えてと言うかのようにレイドの脚を蹴ると、すみませんと声のボリュームを小さくしながらレイドは続けた。
「フードに銃、ね…ただの【黒の組織】だと思うが…他に何かあったか?」
何か、と聞かれ少し考えた後にウェインは答えた。
「なにか…そういや“データは取れた”とか言ってたな…」
「データ、ねぇ」
それを聞いたレイドは考え込むも何も思い当たらず唸るばかりであった。
その様子を見たウェインがいや、と切り出した。
「つってもそれ以外何も無かったけどな」
笑いながら自分の戦果を報告する。
結局“何も得られていない自分達”という事実にニアが先に謝った。しかしそこまで沈む訳もなく。
「当てが外れたわ、ごめんなさい。そっちはどうだったの?」
「こっちはだなー…」
とレイドが話し始めたのを合図に、コルドが何やらゴソゴソと取り出したのは、レイドに話していた発信器。
その発信器の画面を皆に見せながらコルドは説明を始めた。
「サーケイズに奴の居場所など洗いざらい話してもらった。そして居場所についてなんだが、俺が事前に付けていた発信器と居場所が合致した」
つらつらと話された事情に対しその前に、とウェインがストップをかける。
「発信器?」
「盗られた大金に付けておいた物だ」
「おっまえなんで早く言わねえんだ」
少し声を荒げながらコルドに突っかかったウェインは、コルドの襟を掴みゆさゆさと揺さぶった。
揺さぶられながらも
「情報の正確さが欲しかったが為言わなかっただけだ!」
と自分の信念を曲げないような真っ直ぐな目でウェインに反発。というのも、一度レイドに喜ばれたという事実あっての事だったが…
「だけってなんだよ!」
そんな事はつゆ知らずのレイドが止めに入った。
「まあまあ」
握っていたコルドの服をパッと離しレイドを睨むウェイン。恐らくだがレイドが何かをやった、という事実にウェインは気付いて睨んだのだろう。
その様子を見て仕方ないわね、と話を戻すニア。
「それでその場所ってのは何処なの?」
ニアに聞かれたコルドは発信器の画面に出ていた、ターゲットのポイントを指で示した。
かなり入り組んだ地図の中心にて光を放っているそれは如何にも隠れ家だと言わんばかりの場所だった。
「廃工場跡地です」
ー…廃工場跡地。
情報とコルドの発信器を頼りにやってきた一行。
先頭にニアとコルド、後ろにレイドとウェインが並んで歩いていた。
「本当にこんな所に居るのか?」
とキョロキョロ辺りを見ながらウェインが呟くと
「ちゃんと前見て歩けー」
とレイドに頭をポンポンされたウェイン。無言でレイドを睨んだ。
そんな緩い雰囲気の中、先頭に居たニアの脚が止まる。顔色を変えたニアが見た物は確かに人を困惑させる物だった。
「ねぇ、見て。…あれ…」
「ウェインの写真…?それにそこら中に…」
「う…マジかよ…」
工場の至る所にウェインの写真が貼ってあったのだ。腐れたパイプにもう使う事のできない発電機、果ては機材から飛び出したケーブルにまで、ウェインの様々な隠し撮り風の写真がびっしりと貼り付けられており、それを見たウェイン本人はうげ、と吐き気を覚えた。
「大丈夫か?」
「まあ…」
コルドがウェインの側に寄り、声をかける。
甘えたくない相手という事もあり、まあ、とそっぽを向くウェインだった。
その間にも探索をしていくニア。
「それに見て、大量の武器。まだ弾も残ってるわ…つい最近まで居たようなー…」
と言いかけた時、上から何やら迫ってくる音が聞こえた。
「!!」
「隠れてっ」
何かと思ったのも束の間、上空から沢山の弾が降ってきたのだ。
ガガガガッと銃弾が上から降ってくる様子はさながら嵐のようである。
各々1番近い瓦礫の影にさっと隠れて身を守った。
足元にコロ、と転がってきた弾をウェインは手に取り、弾の種類から銃の種類を割り出した。
(クソ…マシンガンか…コルドならなんとかなりそうだな…)
などと思っていると、背後からぬっと出てきた影にハッとする。
既に背後に敵が迫っていたのだ。
「見つけた」
「!」
声が聞こえたのとほぼ同時くらいにその場からダッシュで離れるウェイン。
(逆光で顔が見えなかったが…すげぇ殺気だ…!)
と思いながら振り返ってみると自分を追うのは敵ではなく武器。
投げられた武器がウェインの方に迫っている。
「!」
武器に気付いたウェインは、一直線に投げられたそれを身体を捻り回避し、空中で体勢を整えズザザ…!と背面へと滑り込む。
滑り込んだ跡の宙に舞う煙と塵が差し込む僅かな光に反射し始めた頃、ウェインがやっと口を開いた。
「っ…!おいテメェ出てこい!」
「!」
ウェインの一言に敵が居るという事を察知した皆は瓦礫から顔を覗かせる。
そこには物陰に隠れてよく見えないが黒い衣装と沢山の武具を纏った男が1人、手を広げてウェイン達に歩み寄っていく。
「やっと来てくれたね」
そして光がちょうど差した時彼の全体像が晒された。
「お久しぶり、ウェインくん♡」
男の左薬指に、アザはなかった。