Assassin Crow 4.0 終
「違う奴だって?」
エントランス内で響き渡る少年の声。あまりの大きさに周囲の人間が押さえ込む程だった。
左薬指にアザがあるというヒントを聞いたレイドとニア2人共が、思い浮かんだ人物が居るといったが、どうも話を聞いてみるとお互いに違う人物を思い浮かべているようだった。
「オレが言っているのはサーケイズ・エルダーつって、通称『変えの手』って言われてる、武器を取っ替え引っ替えしてるようなジジイだ」
これに対してニアは違う人物の名を挙げる。
「私が思い浮かべたのはルポ・グレンダリン。通称『千の矢』…確か数日前に会った時に左薬指にアザがあったような気がするの」
2人の名前を挙げたレイドとニアに対し顔を困らせたウェイン。
何故なら今入手した『生きている情報』は時間が経てば経つほど死んだ情報になるからだ。
荒らされた形跡のヒントを持つ人物かもしれない奴を、みすみす逃すウェインではない…が思い当たる奴が2人という事態に頭を悩ませる。
「これは困ったな」
「…出来れば急ぎたい。仕方無いが二手に分かれるのが妥当だろう」
苦い顔で呟いたコルド。
あまり戦力を分散させたくはないが、持ってる情報は2つで、どちらとも犯人という確信がない以上、こうせざるを得ないという結論に真先に至ったのが彼である。
それを聞いたレイドがそれならと、ある提案をした。
「ニア、ウェイン組でルポの所へ行き、ウェイン自身がルポに聞くんだ。本人からだったら話がわかるってもんだろう。
んで、オレとコルドくんでサーケイズの元へ行く。サーケイズはちょっとした顔見知りなのと…あとオレがウェインの実兄だし話もすんなり通るだろ」
「どうして俺達じゃ駄目なんですか?」
と不意にコルドの口から出てきた質問は場の空気をスッと一瞬だったが止めてしまう。
コルド自身、ウェインとのチームは仲が良くないのはあるが仕事に支障をきたしているレベルではないと判断している為なんとなくだが口にしてしまったのであろう。
皆が唖然としている中、レイドはきちっと質問に答えてみせた。
「単純だけど、お前らだけじゃ危なっかしーからな。あれ、もしかしてウェインとしたかった?」
いや、そんな事はないとはっきり断言するコルドにまた苛々が募るウェインであった。
「ま、いいや。とりあえずこんなもんでどうだ?」
「賛成よ」
「ああ」
「俺も異議は無いです」
皆が口を揃えて同意示す中、ウェインただ1人は
(久しぶりにコルド(コイツ)と離れられるー…)
などと悠長なことを考えていた。
「そんじゃ、また後で」
こうして二手に分かれた一行は各々違うターゲットの元へと旅立って行ったのであった。
ー…レイド組 とある山中。
2人はサーケイズが居ると噂される山の奥地へやって来た。
道無き道を行く道中、コルドはずっと自論を展開し続けてきたのだが、やはり他に思い当たるものがない、とレイドに相談をし始めた。
「…あの、レイド、さん…」
「ん?」
「そのサーケイズという奴、本当に彼が犯人なんでしょうか…」
「それを今から確かめるんだろー?」
「そう、なんですけど」
言葉が詰まってしまったが、一旦ひと息ついてからコルドは再度問う。
「俺が思ってる事言っていいですか?」
「いいよー」
その質問に対し快くOKを出すレイド。
「レイドさんは特殊能力持ちのギア開発の話って…聞いた事あります…?」
恐る恐るレイドに聞いてみた所、今度はレイドの方が言葉を詰まらせた。
不快そうな顔を覗かせ、暫く黙った後コルドの方を見てこう言った。
「………コルド、お前ソレはオレの前だけにしとけな。知ってるよ。んで?」
如何やら禁句だったらしい。
コルドは少し怯んでしまったが、すぐさま話を続けた。
「その対象にウェインが選ばれてるかもしれないんです。最近の拉致事件で使われてる武器や証拠の写真から察するにゲイル・カートンではないかと思って…」
「…」
それを聞いてまた黙り込んだレイドかと思いきや、次の瞬間。
「やー!コルドくんてば話が通じるー!」
先ほどまでとは真逆のような喜びを見せたレイド。
手を大きく広げ空を見上げる様は、何かに気付いた子供の姿に喜ぶ親のようであった。
「実はオレも同じ事思ってたのよ。この件、ゲイルが絡んでる確率はかなり高い。だからこそサーケイズに会うんだよ。ゲイルくんのー…師匠にね」
コルドに何かヒントを与えているような含み笑いをするレイド。
そうやって話をしていると前方に立ちはだかる人影が4、5体見えた。
「…っと、話してる場合じゃねぇな」
4、5体に見えた人影は更に増していき、遂には囲まれてしまった。
こんな不利な状況の中、背中合わせになった2人は
「ヤレるか?」
「勿論!」
と笑みをみせた。
ー…一方ニア組。
ルポ・グレンダリンに会う為彼の潜伏場所である廃墟へと足を運んだ彼女達は、レイド達と同じように話をしながら廃墟の中をぐいぐいと進んでいた。
「ニアさん、ルポってヤツはどんな人物なんですか?」
ウェインがなんとなく口にした質問にニアは笑って答えた。
「そうね…例えて言うなら貴方のふざけた態度を30%増したような人よ」
「うぐ」
普段はあまり冗談を言わない彼女だったが、無音の廃墟がそうさせたのだろうか、毒をきかせた。
それを聞いたウェインがダメージを受けている中、ポツリと彼女は続けて漏らした。
「ー…だからこそ彼だと思った。いいえ思いたい…これがジョークであるならまだマシだわ。だからこそ私は彼に賭けるー…」
実際、ルポはおちゃらけた人間としても有名だった。
ルポは彼女にとっては仕事仲間なのだろう、これがいつもの冗談であればとルポを信じたようだった。
「…ニアさん…」
(案外優しいんだなあ…)
その発言にキョトンとした彼はこう思いながらも口にはせず黙ってニアの後について行った。
ー…一方レイド組
「ぐあああ!!」
山の中響き渡る苦しみが伴った大声。レイド達は行く手を阻む敵と対峙していた。
「倒しても次々と湧いて出てくるな…」
「此処は一気に攻めた方が良いでしょうね」
2人を囲む敵は倒しても倒しても減るどころか増える一方であった。
このままでは自分達の体力だけが削られていくだけだと、レイドはコルドにひそひそと何かを吹き込み、コルドもそれでいきましょう、と納得をした。
「これで」
「一気に!」
敵の一瞬をついて上空へ大きくジャンプした後、コルドは大量の苦無を、レイドは炎を棒状に変化させ、そして!
「「決める!!」」
“ヘビーレイン!!”
一気に苦無と炎を地上へと降り注がせる。
先ほどレイドが話した事とはつまりこの大技を放つ為のものであり、その様はさながら大雨のようであった。
この大雨に打たれてバタバタと倒れていく敵達。
そして円状に倒れていった敵達の中心に着地を決める2人。
「…決まったな」
キメ顔のレイドに周りを見渡すコルド。
しかし周りには敵の気配はなかった。
「さあ行くぞ、もうスグだからな」
「あ…はい…」
乱れた服装を整えて、行く準備を始めるレイド。一見、準備運動でもしたかのように若干ではあるが爽やかになっていた。
この奇襲を受けたコルドはウェインの方ももしかしたら、とも考えたが今ここで何かが出来る訳でもない、何より彼奴ならきっと…とウェインの無事を祈る。
(無事で居ろよ、ウェインー…)
後を引く思いでレイドについていくコルドであった。