Assassin Crow 1.0 終
ーとあるバーカウンターに2人の影。
ウェインとコルドは情報をもとにターゲットが潜伏しているエリアのバーに来ていた。
地元の情報収集兼先程の情報まとめの為だ。
「という事でおさらいだ」
トン、とカクテルグラスをテーブルに置くウェイン。
オレンジ色の透き通った液体がちゃぷ、と小さく音を立てた。
「今回の目標はアルガンド・ロン。調べたところ”フツー“の一般人だ」
「…気になるな」
と言いつつターゲットを収めた写真を眺めるコルド。
コルドに目も向けずウェインは続けた。
「だろ。こいつは一般人なんかじゃねーわ。【黒の組織】の一員だ」
ホテルで聞いている間、何か違和感があったウェインは道中色々調べていたのだが見事ビンゴ。
目の形、血液型、喉仏の位置…など様々な情報が一致した。
しかも名前は包み隠さずそのままであった事から、かなり舐められていると憤慨していた。
「んで、依頼主はテディ。さっき会った奴な。正直コイツも怪しいと思ってる」
何やら携帯に夢中になりながら喋り続けるウェイン。
「其奴は一般人では?」
先程会ったのだ、あまり疑う余地がなかった。
「いんや、名前がテキトー過ぎるし、依頼ルートが不明。…勘だけどコッチは普通のアサシンのような気がする」
ホレ、と言われコルドに渡されたのは先程夢中になって操作されていたウェインの携帯だ。
「!…此れは…」
「今ハッキングしたここの防犯カメラのライブ映像」
そこには重装備した黒尽くめの男達が4、5人立っており、中の様子をじろじろと覗いているようだった。
「ライブ…?」
「そう、つまり」
「この依頼自体がワナなんじゃないかと」
得意げに発した声に合わせるかのように入り口のドアが勢いよく開く。
そこから飛び出してきたのは先程映像で見た重装備の男達だった。
チャキ、と銃器を構える男達を背にコルドとウェインは息を合わせる。
「「殺れ!!!」」
男の馬鹿でかい声を合図に一斉発泡。
その声を聞いた2人はバーカウンターに身を隠した。
「…どういう事だこれは?」
身を隠しつつウェインに尋ねるコルド。
その間にも銃声は鳴り響き、バーカウンターにも振動が伝わってくる。
「さぁね、誰かがオレたちを消しに来たんじゃないかなー。…仕事でミスったか?」
「たわけ!」
この状況においてなお冗談を言えるウェイン。
アサシンという職業上こういう現場には慣れているからであった。
「兎に角、今は此奴らを…!」
コルドが一瞬の隙を突いてバーカウンターを飛び越える。
(あ!…ったくしゃぁねえなあ)
と思ったウェインを他所に、銃撃がバタバタと止む。
「片付ける。それだけだ」
バーカウンターの前に立ち、何かを投げたあとのようなポーズをするコルドと、沈黙する敵達。
敵の頭にはコルドの苦無が刺さっていた。
しかし、コルドの足元に転がっていた男1人が口を開く。
「…へへ…」
「…ちょうどいい」
それをちょうど良さそうに笑みを浮かべ、男の髪を引っ張り上げる。
「っっ!!」
「吐け、誰に雇われた?」
「…テメェらこそ…何、した…?」
「?どういう意味だ」
「あの【黒の組織】に、…喧嘩でも売ったってのか…?!」
「…は?どういう…」
困惑するコルドの後ろでバーカウンターの裏から出てくるウェイン。
ウェインは店の入り口をじーっと見つめた。
「…どうやらそうらしい。御丁寧にマークまで残してやがる」
見つめた先には【黒の組織】のマークが入り口扉にデカデカと、
黒の絵具だろう、べちゃっと描かれていた。
今描いたのが判るように、所々絵具が滴っている。
コルドはウェインの声につられて一瞬の隙を作ってしまった。
その一瞬を男は見逃さなかった。
「…は、…何も知らねえとは、な…そろそろシマイだ…」
男が手にしたのは何かのスイッチ。
それを見た2人は一瞬で勘付いた。
(自爆か!!)
男がニヤついた次の瞬間、
ドオオオオオン!!
と大音が響き渡る。
炎と爆風が一瞬で店を、周りをも吹き飛ばし、壊す。
ー…暫くして炎と風が止むと爆発の中心部分から冷えた空気が辺りに広がっていく。
更にパキパキ、と残留物を氷が覆っていった。
「…ふぅ。アブねー」
この冷たい力の中心地に居たのはウェインだ。
ウェインとコルドを守るようにドーム状に何層、いや何十層もの氷の膜が2人を覆っていた。
ウェインはコルドに跨ぎ、コルドははみ出ないようになるべく身体を小さくさせ、あの爆発から身を守っていたのだ。
(出たな、化物)
それを間近で見せられたコルドはソレを『バケモノ』と称した。
(ー…此奴は氷の力を操る特殊能力持ちだ。それ故に上層部に気に入られてるが…正直気に食わない)
そう。この世界で特殊能力を持つ者は限られた人間のみ。
それもかなりの少数派であるが故、コルドのような妬みを持つ人間も少なくなかった。
「そろそろ立て」
周りが鎮まるとすぐにウェインは氷を解除し、水にする。
ばしゃ、と水が降りかかりハッと我に帰るコルドを尻目に
「一回戻る」
とウェインは呟いた。
ー…とある廃棄工場。
「ふー、コイツ使えねーのなんのー!こんなオモチャで殺れるわけねーっての!」
1人の男が憤慨していた。
男の側には銃器多数と…遺体だろう、レジャーシートをグルグル巻きにしたものが1つ置かれていた。
「しかも証拠まで残すとこだったのはさすがになー!」
そう言いつつレジャーシートを足でグリグリと遊ぶ。
「まー、コレが手に入っただけでも良しとするかー」
と、男が取り出したのは黒い携帯。
「氷のバケモノ」
そこに映し出されていたのは能力を使うウェインの姿だった。
映像の角度からして恐らく店の監視カメラを録画したものである。
男はその映像のシークバーを何度も何度も右に左にと動かし、うっとりとしていた。
「黒の組織はキミを待っているよ♡」
そう言い放った男の瞳はドス黒いナニカで覆われていたー…
ー…アサシン本部。
「オイ、一体どういう事だ!中に入れないだと…?!」
「うるせぇ喚くな。上の達だよコルド。オレらはそれに従ってる、それだけだ。それ以上は知らねえ何も言えねえ」
あの後黙ったまま本部へと戻ったウェインと、ついてきたコルド。
しかし入り口で出入りを止められてしまっていた。
理由を聞こうとしても門番は小さな扉を開き知らねえ存じねえの一点張りだった。
その目は確かに、理由を知っているわけではなさそうである。
「わかったらとっとと去れ」
「…行こう」
暫くコルドが喚くのを放置していたウェインが口を開いた。
「このままで良いのか?!」
「仕方ねぇよ。ただ…」
このまま理由がなく下がれないコルドを背に、ウェインは遠くを見つめた。
「心当たりがある」