第92話 俺はフットサル事業を売却することにした
最近、日本を遠く感じている。
フットサル事業はニッキーにまかせっきり。
骨董品鑑定も俺でなくてもできるようになった。
骨董品鑑定サイトで評価があがっている数人に代わってもらっている。
どちらもサイトには専門のスタッフがいるから俺が関わる必要もなくなった。
そんなことを感じていた頃。
フットサル事業の買収の話が持ち上がった。
スポーツ用品を世界で販売している会社が日本でうまく行っているフットサル事業に興味を持ちだしたらしい。
最初は自分達で似たようなシステムを構築して欧米でリリースしたようだが、うまくいかなくて断念した。
そんな話を聞いた。
「10億円で事業買い取りをしたい」
そんな要望があり、俺はそれを受け入れた。
もっとも、システム開発自体は在真がいないと難しいから、その部分だけ外注として受ける契約で話が進んでいった。
俺はニッキーと在真をテレビ会議に呼んで、この話をした。
「どうだ? 悪い話ではないと思うが?」
「いよいよ、世界展開するんですね」
「僕はいい話だと思う」
「だろう」
「でも、翔太さんはこの後、フットサル事業からは抜けるってことだよね」
「ああ。俺はバリ島の事業に専念するつもりだ」
ふたりからすると、メインの俺が抜けるのは寂しそうだ。
在真は他にもたくさんのシステムで俺と関係しているが、ニッキーはこれからビジネス関係がなくなる。
「事業売買の利益の話だが、俺が5億で在真が4憶、ニッキーが1億でどうだ?」
「「えっ?」」
ふたりは口をぽかんと開けてびっくりしている。
一緒に立ち上げたビジネスなんだから、利益配分は当然のことだと思うが。
「1億円だなんて。想像できません」
「なに言っているんだ。Jリーガーの頃は年俸がそのくらいだったろう」
「まぁ、現役時代はそうですが。辞めてからは億という話はありませんよ」
「利益が出たんだから、そのくらいのメリットがあってもいいだろう。これからは新しい社長の元でがんばってくれ」
「ええ。もちろん」
ニッキーはオッケーだな。
あとは在真か。
「在真は4億円でいいか?」
「もちろん、不満などあるはずがありません」
「マッチングシステムを作ったのは在真だから、もっと寄越せって言ってもいいんだぞ」
「そんな。めっそうもない。元々は趣味で作っていたようなものですし」
趣味でか。
趣味で、そんなトークン結びシステムを作ってしまう在真は理解できない奴だな。
「ただ。金が入ったから引退するっていうのは無しだぞ」
「もちろんです。まだ年収100億円になっていませんし」
確かにな。
まだ、そこまでは行ってない。
そもそも、俺がバリ島に移住してしまったのが想定外だな。
バリ島でのビジネスだと100億円の世界は遠くなってしまった感がある。
「すまんが、1年で100億円は言いすぎた気がしている」
「なに言っているんですか! まだ半年ありますよ」
こいつ、ずいぶんと前向きになっているじゃないか。
本気で100億行く気か?
もちろん、俺も協力するぞ。
「だが、100億円となるとバリ島だと難しいかもしれないな」
「そうですかねー。この場所、気に入っているんですけど」
「だな。金だけが重要な訳でもないしな」
「わかんないですよ。意外とバリ島からドドンと何かが生まれて、アムズン超えなんてことが起きたりして」
「どうだか。確かにどこにいても、アムズン超えみたいな1兆円企業だと関係ない気はするがな」
「そうですよ。あっ、翔太さんは、5億円を何に使うんですか?」
いきなり聞かれたから、何も考えていない俺がいた。
そうだな。
「バリ島で何百人か雇ってしまうかな。そいつらが気持ちよく働ける場所も用意して」
「それいいかもしれませんね」
「だいたい、在真が作った人材トークン結びシステムが優秀すぎるんだぞ」
「そうですか?」
「あれを見ていると、一緒に仕事をしてみたくなる奴らが続々と見つかってしまってな」
「翔太さんは人が好きですね」
「そうでもないぞ。人と言っても人材としか見ていないからな」
「そんなことないでしょう。みんな言っていますよ」
まー、人が俺のことをどう見るか。
それは、その人の勝手だからな。
そもそも俺は人に思い入れを持ったりしないようにしている。
これは、異世界での経験が元になっているんだがな。
どんなに思い入れを持っている人であっても、異世界ではあっさり死んでいく。
ひとりひとりを守ることなどできやしない。
だから、どんなに近くにいる人間であっても俺は心の中に壁を作っている。
無意識のうちにな。
「まぁ、僕なんて人材扱いの極致じゃないんですか」
「ああ。特別な人材だぞ。魔王と戦うときに、一番に突っ込む役だ」
「あれ。翔太さん。そういうアニメ見るんですか?」
「いや、アニメではなくてな」
在真は相当アニメオタクらしく、異世界物の人気アニメを教えてくれた。
そのストーリーを聞いていると、「うーん、リアリティないな」って思ってしまう。
異世界はそんなところじゃない。
人と人、人と魔物がぶつかり合う場所だ。
ご都合主義では乗り切れないぞ。
「異世界に行くなんて、できませんが。翔太さんと一緒にいると知らない世界に連れて行ってもらえますね」
「まぁ、それはなんだ。これからも、まだまだ、知らない世界を一緒に旅していこうな」
「はいっ」
俺はすでに、頭の中でいろんな事業を組み立てていた。
人がいて、アイデアがある。
必要なリソースが簡単に集まる、今。
それを活用することが楽しくて仕方ない。
事業売却で金が入ったら、早速、行動を開始してみるか。
異世界物の小説を書いていると、どんな魔物を出すか色々と考えている。
そんな時に参考にするのは、実際に存在している動物だったりする。
例えば猛獣の豹を上げると。
似たような猛獣に、ジャガーとチーターがいる。
チーターは足が速いとか能力の特徴はあるが、見た目がどう違うのか、調べてみないと分からなかったりする。
この3匹の猛獣の違いは柄にある。
豹の柄は豹柄ファッションがあるからイメージしやすいだろう。
そのイメージ通りの柄だったら、間違いなく豹だ。
豹柄も柄が小さいのがチーターで、ドット柄みたいに見える。
豹柄よりも大きいのがジャガーで、キリン柄みたいに見える。
要は見分けるポイントは豹かどうか。
見分ける、ポイントはヒョウカどうか。
ポイントヒョウカ、どうか、よろしくお願いします。




