第87話 使い方が間違っていたのか
「あー、そうだ。別の案件だと思ってくれ」
俺は銀シャリズの颯を使った新しいCMを担当マネージャーに提案した。
フットサル事業ではなく、アートオークションのCMだ。
颯のCMが当たらなかったのは、商品性の問題だ。
もっと女性が好む商品の方がウケる。
それは間違いない。
アートオークションなら、颯の魅力を引き出すことができる。
もう俺の頭の中には、イメージが出来上がっていた。
☆ ☆ ☆
「ええっ、もう新CMできたの?」
「ああ。元々、CM枠はできていたしな」
「だけど、CMを作るにはいろんな人が関係するんでしょう?」
「ああ。そうだ。そこはジャリーズの本気のすごさだ」
俺が提案したアイデアにジャリーズが全社をあげてバックアップした。
ジャリーズは銀シャリズに夢を持っていた。
デビューは大して当たらなかったが、銀シャリズにはパワーがあると。
実際、一部ウケはしているらしい。
まぁ、ショタコンな女性ウケだろう。
それだけでは、本当の人気アイドルにはほど遠い。
「それで、今日、新しいCMが流れるってことね」
「ああ。カスミもターゲットに入っているから、感想を頼む」
「もちろんよ」
日本では、あまり知られていないアートオークション。
それの普及のことは、考えていたことだ。
せっかく、トークン結びの評価システムを組み込んだシステムがリリースになったのだが、欧米ではそこそこ人気になっている。
だが、あまり日本ではアートへの関心がない。
どうやって、アートへの関心、アートオークションへの関心を引き出すか。
それが問題だった。
だから、颯をアートオークションのCMに登場させる。
それも、アンティークアクセサリーのジャンルを使ってだ。
「あ、始まったわ」
「おう」
30代半ばのあまり有名じゃない女性。
ブランドが好きで、明日のデートのコーディネイトをしている。
そんな時、銀シャリズが今時のピアスを持ってひとり、ひとり現れる。
「君にはこれが一番さ」
赤、青、白、黒。
自分の担当の色に沿ったアクセサリーを持ってくる。
何気にトークンって書いたそれぞれの色ベースシャツを着ている。
アクセサリーはどれも今時のデザインの品だ。
だけど、女性は「うーん」ってなる。
4人の銀シャリメンバーは困っている。
そんなとき、最後のひとりバラ色のシャツを来た颯が登場。
バラをモチーフにしたアンティークピアスを持っている。
「何? これ」
「着けてみて」
かわいい声におねだりした。
うなづいてピアスを着ける。
「どう?」
「ああ。それは君のために存在しているピアスだ。200年も」
あの、タケコを一発でメロメロにした声。
いつものかわいらしい声と全く違う。
女性の多くが反応してしまう声だ。
一気に顔が明るくなる女性。
颯と一緒に踊りだす。
「どうだ?」
「えっ?」
「颯のCMどうだった?」
ぱかんとしていたカスミ。
質問されて我に返った。
「す、すごいわ。なに、あれ?」
「どうだ? 自分に言われた気がしないか」
「ぞくっとしたわ。そして胸がどきどきした」
うむ。いけそうだ。
少なくとも、10代20代くらいの女性の心はつかめると見た。
まぁ、颯の人気はこれで爆発するだろう。
しかし、アートオークションは注目を浴びるのだろうか。
☆ ☆ ☆
「翔太さん。すごい反響ですよ」
「だろうな」
「明日、あちこちの番組に出ますよ。呼ばれまして」
「今度は大丈夫か?」
「何言ってるんですか! 番宣みたいなものじゃないですよ。あちこちの情報番組のメインとして登場するんです」
「いけそうだな」
「タケコさんの番組も出ます。タケコさん直々のリクエストだそうです」
「タケコって、生放送の番組ないだろう」
「ええ。わざわざ、ライブに切り替えてくれました」
それはすごいな、タケコ。
太いだけあって、パワーがあるな。
「朝の番組から見てくださいね」
「ああ」
正直言うと、朝は見たくない。
バリに来てから朝はのんびりしているのが好きになった。
東京では朝からバリバリが当たり前だったが、こっちでは朝はのんびり散歩でもしたい。
まぁ、そう言ってもいられないから、朝からカスミと情報番組を見ることにした。
「最初みたいね」
「そうだ。そんなことをマネージャーが言ってた」
朝7時からやっている人気フリーアナウンサーの冠情報番組。
そこでトップに取り上げてもらったらしい。
最初にCMが流れて、コメンテーターのアラフォーの女医さんがアップになる。
悶えている。
フリーアナウンサーがすかさず聞く。
「どうですか?」
「なに、これ。ぞくっとしたわ」
うん、やっぱり、そうなるんだ。
男だと分からないことだな。
「うんうん。分かる分かる」
カスミは分かるようだ。
共感しまくりだ。
「それでは、銀シャリズ、登場です」
五人揃って登場した。
貴族ぽい衣装だな。
もちろん、担当の色が差し色で入れられている。
「ところでトークンって?」
レギュラーの若手芸人が質問する。
「それはですね」
リーダーの赤が答える。
ちゃんと教えてあるな、これ。
質問は自然に出ているから、仕込みじゃないだろう。
想定の質問の答えとして、用意してあったな。
「僕らが演じたのはマッチング・トークンと言いまして。その人にびったりな品をマッチングする役割のプログラムです」
あー、いろいろと突っ込みたい気はするが、一般向けの説明としてはありだろう。
そこからちゃんとアート・オークションの話をしてくれた。
うん、これはすごいな。
主婦人気ナンバー1の朝の情報番組だ。
裏番組にも呼ばれたらしいが、ごめんなさいをしたとマネージャーが言っていたな。
「あの。プレゼントを持ってきたんですけど、渡していいですか?」
「えっ、いいですよ。誰にですか?」
颯は、アラフォー女医さんのとこに行って、小さな箱を差し出す。
「なにこれ?」
「プレゼントです」
そういうと、バカっと小箱を開ける。
そこには、ルビーのアンティーク・リングがあった。
「うれしいっーー」
「つけてみて」
「ぴったしーー」
しっかりと左手の薬指につけた。
「やっぱり似合うな。それは君のために存在しているリングだ。50年も」
CMのシーンの再現に完全に悶えているアラフォー独身女医さん。
あの声の破壊力スゲーな。
これでアート・オークションの認知度は相当アップしたようだ。
いけそうだな。




